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第一章

第五十四話

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 お面がなければ完全に目尻が下がっているのを確認できるはず。男なら鼻を伸ばしているという表現が妥当だろう。『ぺロッ』、舐められた。


「ぐわッ!」


 思わず声を出してしまった。


「これこれ、女の子なら、『きゃあ』だろうが。」


「オレは男だぞ。」「ぎいやああああ!」


 オレが言ったと同時に悲鳴があがった。美緒の絶叫だ。美緒は電光石火で黄金椅子に駆け戻った。まさに神速だ。


「ふうふうふう。こ、こやつ、男じゃないか。」


「だからけだものだって、まっほが言ったよお。」


「そ、そうか。神が悪かった。あとで、お詫びのなでなでをつかわそう。」


「ホント?楽しみだあ。わくわく。」


 万步はひとり盛り上がっている。


「あれを持て。」


「いつものヤツだね。了解だよお。」


 万步は保健室に戻ると何かを手に持ってきた。


「これを使うのは久しぶりだ。」


 美緒は何かを顔に装着した。


「これを使って話をするんだよお。」


 万步がオレに渡したものは美緒が口に付けたものと同じ。


『もしもし、聞こえますか。』


『もしもし、聞えます。』


『ならばこれでよし。』


『そのようだな。』


 以上は美緒とオレの会話。ふたりは『糸電話』でコミュニケーションを取ることとなったのである。小学生の工作か。
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