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第三章

第十六話

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それはこんなシーンだった。


真美は現世では何不自由なく育っていた。自分の家は優しい両親に囲まれたいい家庭だ、富豪ではないけれど、それなりに裕福。自分では箱入り娘なのかなと思っていた。学校では、いつも同級生より2ランク位高いブランドの服を着ていたし、食事もしばしば高級レストランで豪華なディナー。他の子からは『真美ちゃんちはお金持ちでうらやましいね。』、そう言われていた。表面上は『そんな大したことないわ。』と返事していたが、内心は優越感いっぱいで嬉しかった。しかし、12歳の12月。ふかふかの自分のベッドで寝ていた真美。深夜にけたたましい警戒音で目を覚ます。それはどうやらパトカーらしい。近所で何か事件でも起こったのだろうか。目をこすりながらトイレに立つ真美。しかし、警察が開けたドアは自分の家の玄関。


「為善容疑者2名。詐欺容疑で逮捕状が出ている!」
入ってきたのはテレビよく見るコートを着た刑事なんかではない。丸刈りで、眼光の鋭いやくざのような人相の悪い男だった。真美の両親は詐欺師だったのだ。嘘で固められた世界。詐欺師であることを知らずに育った自分。
世の中の真実にもいろいろある。両親がいなくなって、真美を引き取りために、家にやってきた父方の叔母から聞いた言葉。


「真美ちゃん。言いにくいことなんだけど、あなたは、逮捕された兄の本当の子供じゃないの。実は捨て子だったのを兄夫婦が拾って育てたのね。今さらで申し訳ないけど、私が引き取る以上、こういうことははっきりさせとかないとね。」
 思いもしなかったことを事務的に告げられた。涙が流れる前に家を出ていた。


天涯孤独。生きていくためには自分も詐欺師になるしかなかった。
ねぐらもないので、野宿するしかなかった。寒い。このままで凍え死んでしまう。それでもいい。どうせ悲しむ人もいない。自分の命の軽さ。こうなるまでの夢を神様は見せてくれたんだ。それに感謝しよう。さあ眠ろう。目が覚めたら天国にいるのが最後のアタシの願い。さようなら現世。


「おい、起きろよ。こんなところじゃカゼ引くぞ。」
 天使に出会った。天国にこれたんだ。神様ありがとう。最後の願いを聞いてくれて。


「どっこいしょっと。」
 天使がアタシを抱えている。あれっ?死んだら体重とか関係なくなるんじゃないの?


「お前、からだは小さいのに、持ち上げるとけっこうくるなあ。その赤いリボンが重たいのかなあ?冗談だよ。へへへ。オレってすぐに嘘ついてしまうからなあ。」
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