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第四章

第十五話

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生徒会室に戻った4人はオレを真ん中に寝かせて、取り囲んでいる。視線はいずれもオレの顔に向けられている。オレはすっかり血の気を失っている。
 美緒は窓の外に視線を移す。まだ夜は明けておらず、星が見える。

「都が死んだってどういうことなの?水に入ってから時間は少ししか経過してないわよ。」
 絵里華のからだから元に戻った由梨が口を尖らせて、美緒に詰問している。両手をわなわなと震わせながら。
 美緒はホワイトボードの前に立った。ペンを手に持っている。ボードに『肉体』と『魂』と大きく綺麗な文字で書いた。

「それなんだが、肉体的にどうこうというのではない。都はプールで溺死したように見えるが、本来それはあり得ないことだ。」

「そうでしょ。でも今までは夢遊病者のように動いてたのに、つついてもまったく反応がなくなってしまったのも事実だわ。不思議。」
 オレが死んだというのに、どことなく緊張感に欠ける話ぶりの由梨。強がりを見せているようだ。

「この神が思うに、都は、今までは意識がない状態だったが、からだは活動していた。だが今は魂が動かなくなったように見える。つまり『魂の死』だ。」

「『魂の死』?じゃあ、都は本当に死んだっていうこと?」

「フフフ。そういうことになりますね。」

「李茶土!たまにしか登場しない、脇役執事だわ!」

「由梨さん。これはご挨拶ですね。まあいいでしょう。脇役かどうかは別にして、出番が少ないのは事実ですから。ハハハ。」

「いきなりここに出てきたということは諸事情は一切把握しているということだな。李茶土。」

「その通りでございますよ。神代生徒副会長。」

「いちいち苗字をつけなくてよい。生徒副会長は唯一無二だ。」
 会長はひとりだが、副会長は複数いる場合もあるが。

「それは失礼致しました。それでは事態をどうするか、お話致しましょう。クランケは確かに死んでいます。」

「クランケって、何?まっほは知らないよ。」

「ドイツ語で患者という意味です。言うまでもなく都さんのことです。クランケはジバクに溢れたプールに浸かることで、魂がカオス状態になったと推測されます。つまり、たくさんの害意あるジバクに魂がずたずたに引き裂かれてしまったのです。通常の状態であれば、みなさんと同じように、そういうジバクに対しては魂のガードをごく自然に行っているのですが、いかんせん無意識ですので、ガードの施しようがなく、無防備なところを攻撃されてしまったようです。」

「ということは都は元に戻らないということ?」
 由梨の顔から色が失われていく。

「残念ながら、そういうことになります。」

((都はんは本当に死にはりましたんやろか。))

「都たんが死んだ。」

「都。・・・。」
 生徒会メンバーが声を失い、生徒会室は深夜の静寂に包まれた。四人とも俯いて何も放そうとしない。人間界でのお通夜と言えば、静かそうに思われるが、実際は久しぶりに集まった親族たちが故人を偲びつつも、酒を飲みながらわいわいがやがや過ごすことが通例である。いわば親族の同窓会でもある。しかし、この四人は本当に一言も喋らず、これぞ真のお通夜状態である。
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