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第二章

第二十五話

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木憂華は倒れた絵梨奈をものともせず、話を続けた。

「ヤマンバはこのあとのことはわかるじゃん。」

「要はあたしがやらされことを三人で一緒にやるってことなんだよね。まあ慣れたし。わかったよ。」

「じゃあ、Qは腐った血液集めをするじゃん。ワクワクじゃん。」

「どうしてこんなに血液にこだわるんだよ?」

「血にもいろいろあるじゃん。」

「A型とかB型とか?」

「そうじゃん。血の味にはそれぞれ個性があるじゃん。A型はクセがなくて、渇いたノドに合う。B型は味が濃く
て、肉食系の吸血鬼好み。O型はまろやかでたくさん飲める。AB型は味わい深くツウの吸血鬼が嗜むじゃん。」

「へぇ~。そんなに違うんだなあ。やっぱり吸血鬼なんだなあ。改めて感心したぞ。でも吸血鬼がどうして、この魔法歯医者学園都市に来たんだ?」

「Qたち、吸血鬼の環境変化によるものじゃん。」

「よくわからないよ。地球温暖化とか?」

「それも遠因にはなってるじゃん。でも一義的には血液不足。昔みたいに、人間の血を自由に飲むことが許されなくなったじゃん。人権擁護という規制がグローバルスタンダードになってしまって、吸血鬼界は、血液を輸入するしかなくなったじゃん。でも輸入血液はすごく高価なもの。Qたち、貴族はまだしも、庶民では手が出せないお宝になっているじゃん。」

「きゅうりさんは貴族だったんだ!サプライズだ!でも、そんなちっちゃいなりで。プププ。」

「ほっとけじゃん。それで吸血鬼界としては、歯周病等で汚れた安価な血液を輸入して、浄化する技術を開発したじゃん。」

「すごいなあ。吸血鬼界も科学的なんだなあ。」

「バカにするんじゃないじゃん。山に籠もるヤマンバ族よりも遥かに文化的じゃん。とにかく吸血鬼界にとって、歯周病患者の安価な血液を集めるために、Qはここに来たじゃん。」

「そうだったんだ。ただのちっちゃい女の子じゃなかったんだ。いや、ちっちゃいのはそのものか。」

「ちっちゃい言うな!」


『タラ、タラ、タラリ。』

紫色の血が無数に滴り落ちている。血だらけ、肉だらけで化け物にしか見えない三人寒女。

「気持ち悪いですわ。どうしてワタクシがこんな目に合わないといけないんですの?」

絵梨奈は憤然として口を尖らせている。

「牙狼院さん。目から流れている血が透明なんだけど。」

絵梨奈の目はいかにも虚ろで、とろーりとろけそうである。

「生肉のニオイ、すごくクサイですわぁ。」

クサイという言葉とは裏腹に、絵梨奈は自分の体に巻いた生肉をおいしそうにしゃぶっている。
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