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第一章

第一部分

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アホ毛付きの長い金髪を軽やかに流している16歳の女子。
名前はヴァーテックス=オブシディアン、通称ヴァーティは魔法界の大貴族の長女である。山吹色ワンピースに金色ロングヘアが窓からの光を浴びて煌めいている。うしろに大きな紫のリボン。ベルトにはダイヤモンドを象った黒曜石のエンブレムが異彩を放っている。ヴァーティは、開けばひときわ目立つ大きな赤い瞳を閉じたまま、うっとりした表情で、胸の前で手を合わせている。
「ほわわわ。わたしの王子様~。ぶちゅう、ぶちゅう、ぶちゅう。」
女子は恍惚としながらもディープキスの猛打賞である。相手は中年の淑女であり、頭頂で金髪を巻き貝のように纏めていていかにもセレブというオーラを発している。
ここはオブシディアン家の大広間。巨大なチューリップをぶら下げたようなシャンデリアの下にあるソファーの前に立っている3人の女性。
「ヴァーティ、ふしだらなことは、おやめなさい!」
「やめないわよ~。わたしを攻撃してるのは王子様よ~。ほらモフモフしてるじゃない~。」
今度は自分の両手で中ランク胸部をモフしているヴァーティ。
「お姉様、妄想から現実にお戻りなさって。バチン!ギヒギヒ。」
「痛~い!」
妹のユズが黒い扇子形の魔道具ハリセンで姉を叩いて、ようやくヴァーティは現実に帰還した。ユズは肩に当たっているツインテールの銀髪に手を当てて、何やら満足気にも見える。なお、ユズの本名は、ユサープ=オプシディアンである。
「はっ。わたしって、いったい、誰?わたし思うゆえにわたし在原業平?」
「もう普段に戻っているのでしょ。ごまかしはききませんよ、ヴァーティ。」
「ただいま、お母様。ご機嫌麗しいですわ。」
スカートの裾を軽くつまんで、お嬢様挨拶を展開したバーティを呆れ顔で見る母親。
「ヴァーティの妄想癖にはとことん呆れます。いつも自分に都合の悪いことで追い込まれると、こんな風に夢魔法で現実逃避をしてしまいます。本当に困ったものです。」
「ゴメンナサイ、お母様。って、謝るつもりなんかないわよ。」
「バーティ、あなたはいつもそう。でも私たちもそんなバーティのことを嫌というほど理解しています。だから、もう正統な魔法使いの道はあきらめて、お見合いをするんですのよ。これは母親としての命令です。ユズもそう思うでしょ?」
「そうですわ。こんなダメお姉様に、お見合いという最後のチャンスを与えてくださるお母様に感謝すべきですわ!さもないとワタクシのかわいいハリセンにもっと鳴いてもりいますわ。今度はもっと賑やかなお祭り太鼓モードがてぐすねひいてますわ。バシバシ、ギヒギヒ。」
 黒い瞳を波目に揺らしながらハリセンを掌で叩いているユズ。
「お母様、お言葉だけど、私はこの縁談見送りしたいと考えてるわ。」
「ヴァーティ、まだそんなことを言ってますの?これはヴァーティにとって決して悪い話ではないのです。ヴァーティがユズと違って、力不足な魔法使いだから、せめてもの親心で、お見合いの話を持ってきたのですよ。」
「お姉様はお母様の優しい親心を踏みにじるおつもりですの?」
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