進芸の巨人は逆境に勝ちます!

木mori

文字の大きさ
15 / 76
第一章

第十四部分

しおりを挟む
食堂から寮に繋がる白い通路を使って寮に移動する美散。部屋のところまで、ずっと白いままで、どれだけ歩いたのか、わからないし、自分の部屋の番号である、99号室という番号もドアに彫られているだけであり、見つけるにはひと苦労であった。
中に入ると、普通の人間感覚で六畳のイメージの部屋で、壁には窓がなかった。白いライトが天井に組み込まれていた。わずかにベッドや家具らしきものも判別できたが、壁、天井と同色の白であり、全てが一体化しているような感じだった。
「ここって閉鎖空間じゃない。白い空間にあたしひとりが置きざりにされてる感じだよ。音も何もしない。ほかに誰がいるのか、わからない。何もない。たったひとりの異空間だよ。こんなところにひとりで生活するなんて、あり得ないよ~。」
『ピンポンパンポン。室内放送だぜ。』
「ランボウさんの声だよ。どこから喋ってるんだよ。」
「室内スピーカーに決まってるだろ。奥の壁内に設置されてるのさ。って、そんなことはどうでもいい。寮の部屋が真っ白なのにはちゃんと理由がある。すべてが白であることによって、物体の大きさを自覚させない、選手の心のケアを考えたシステムだよ。白がイヤなら、漆黒のブラックホールのような部屋もあるから、そこに入ってもらってもいいぜ。」
「これが心のケア?ふざけないでよ!ううう。」
美散は悲しくなり、眠りにつくまでひたすら泣いていた。

美散は翌日も球場に来ていた。起きている間に部屋に留まるのは、気が狂いそうになるからであった。外に出た方がマシということである。寮にいるか、野球をするか、二つの道しか与えないと、必ずどちらかを選んでしまうのは、弱い心理を突く効果的な戦略である。
「今日は打撃練習だ。投げてくる球をひたすら打って打って打ちまくれ!野球をうまくなるには練習しかないぞ。これは愛の無知なんだからなっ。」
「それは愛を知らないという意味になるよ。痛い、痛い、痛い!」
打撃練習と言っても、ランボウがバッティングマシンを使って、デッドボールを美散にぶつけているだけである。ヘルメットをかぶっている頭部が保護されているだけで、全身でボールを受けるというサンドバッグ状態である。
「そりゃ、そりゃ、そりゃ。これがよけられないようじゃ、到底野球はできないぞ。」
「そもそもあたしが野球をやる意味がいまだにわからないよ~。」
「そんなことは考えなくていい。貴様には野球しかないんだよ。わかったか。」
「全然わからないよ!ゴツン。痛い!」
「何やってんだよ。テキトーっていうか、デタラメに投げてるだけだぞ。百発百中で当たるってのは、おかしくね?」
「デタラメになんか投げてないよね。あたしがよけても、投げる球は顔やからだに当たってるじゃない。これは狙い投げだよ。」
「気づいていたか。ハナマル、二重丸をやるぜ。」
「そんな丸、いらないよ~。」
ランボウのマシンによる攻撃はひたすら続いた。美散は大量出血で体力を失ってきた。
「キャプテン、もういい加減にしてはどうですの。」
銀色で長い艶やか髪。しっかりとした大きな瞳は柔らかな笑顔に溶け込んでいる。ユニフォーム姿ではあるが、手に赤く四角の紙を持っている。背番号は4。他の選手と違い、ドスン、ドスンという音が聞こえない。静かな歩き方に気品が感じられる。
「なんだ、トモヨン。来るの、遅せえじゃないが。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!

ユウ
ファンタジー
乙女ゲームの王子に転生してしまったが断罪イベント三秒前。 婚約者を蔑ろにして酷い仕打ちをした最低王子に転生したと気づいたのですべての罪を被る事を決意したフィルベルトは公の前で。 「本日を持って私は廃嫡する!王座は弟に譲り、婚約者のマリアンナとは婚約解消とする!」 「「「は?」」」 「これまでの不始末の全ては私にある。責任を取って罪を償う…全て悪いのはこの私だ」 前代未聞の出来事。 王太子殿下自ら廃嫡を宣言し婚約者への謝罪をした後にフィルベルトは廃嫡となった。 これでハッピーエンド。 一代限りの辺境伯爵の地位を許され、二人の幸福を願ったのだった。 その潔さにフィルベルトはたちまち平民の心を掴んでしまった。 対する悪役令嬢と第二王子には不測の事態が起きてしまい、外交問題を起こしてしまうのだったが…。 タイトル変更しました。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...