7 / 84
第一章
第六部分
しおりを挟む栄知は自分の体重から魂の分だけ軽くなったことを実感しながら、トボトボと帰宅した。2階建のこじんまりした、小市民的な木造建築の家屋。
「「うほー!お兄ちゃん、おかえり~、抱き!」」
満面の笑みを以って玄関で栄知にしがみついたふたつの小柄な女子物体。わずかに赤みがかった頬、まん丸な鳶色の瞳、申し訳程度にちょこんとついた鼻に、蕾のような唇がそっくりで双子のようである。共に黄色い髪のハーフツインで、片方のひとりは、ハーフツインに加えて、バカ殿様のようにツンと立てている。
「ああ、もううるさいし、重たいし、もういい加減にしてくれよ。桜子に、母さん。」
栄知はふたりを引き剥がしにかかるが、地球規模の強力な磁力を操っているのか、なかなか離れようとしない。
「あ~、また母さんって死語を言ったぁ!永遠の妹・梅子って呼んでよ、母さんは青い空のホシブドウになったんだからぁ。って、ここはホシブドウじゃないんだからねぇ。ギラギラの巨峰だよぉ。」
三本ツインが結構な出来映えおっぱいを栄知に押し付ける。
「あ~、お母さん、ズルいよ。お兄ちゃんのお世話は桜子の仕事なんだからね。すりすり。」
二本ツインは柔らかな頬と胸で同時にマーキングしている。
「ふたりともいい加減にしろ!」
容易に分離できないふたりを30分かけて、ようやく処理した栄知。
「「じゃあ、お兄ちゃん。お風呂にする?梅子桜子をご飯にする?それとも大船駅で大船に乗って超ソッコー、ベッドインする?」」
「その選択肢からはお風呂しかないだろ!」
「「え~?残念!」」
顔と腕を×印にして、残念そうに廊下の奥に引き下がったふたり。
「毎日、毎日、帰宅するとこれなんだよな。まあ、風呂で癒すにはちょうどいい疲れかもだけど。」
ブツブツと不満を垂れ流ししながら浴室に向かう栄知。
栄知は勢いよくシャワーを出して、からだを洗う。
「今日も久里朱はバイトに行ったのか。何のバイトか知らないけど、言わないっていうのが気になるよな。危ないバイトじゃなければいいけど。」
やり切れない思いに発達する前の、疑念という思考のタマゴが徐々に栄知の心を浸食し始めていた。
一方梅子、桜子はこっそりと浴室に侵入して、脱衣場で、すりガラスに耳をソバ立てていた。栄知の耳がいいことは先刻承知で、音のしない高性能スリッパを使用している。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
四人の令嬢と公爵と
オゾン層
恋愛
「貴様らのような田舎娘は性根が腐っている」
ガルシア辺境伯の令嬢である4人の姉妹は、アミーレア国の王太子の婚約候補者として今の今まで王太子に尽くしていた。国王からも認められた有力な婚約候補者であったにも関わらず、無知なロズワート王太子にある日婚約解消を一方的に告げられ、挙げ句の果てに同じく婚約候補者であったクラシウス男爵の令嬢であるアレッサ嬢の企みによって冤罪をかけられ、隣国を治める『化物公爵』の婚約者として輿入という名目の国外追放を受けてしまう。
人間以外の種族で溢れた隣国ベルフェナールにいるとされる化物公爵ことラヴェルト公爵の兄弟はその恐ろしい容姿から他国からも黒い噂が絶えず、ガルシア姉妹は怯えながらも覚悟を決めてベルフェナール国へと足を踏み入れるが……
「おはよう。よく眠れたかな」
「お前すごく可愛いな!!」
「花がよく似合うね」
「どうか今日も共に過ごしてほしい」
彼らは見た目に反し、誠実で純愛な兄弟だった。
一方追放を告げられたアミーレア王国では、ガルシア辺境伯令嬢との婚約解消を聞きつけた国王がロズワート王太子に対して右ストレートをかましていた。
※初ジャンルの小説なので不自然な点が多いかもしれませんがご了承ください
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
聖女の力は使いたくありません!
三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。
ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの?
昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに!
どうしてこうなったのか、誰か教えて!
※アルファポリスのみの公開です。
断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。
パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。
将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。
平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。
根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。
その突然の失踪に、大騒ぎ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる