57 / 276
第6話『人類の行方』
しおりを挟む
またある時、ナタルがマルクに尋ねた。
「それで改めて質問なんだけど……生命の樹が俺たち人類をレベル毎に振り分けるんだよね。どういう風にしていくわけ? いろいろな事情があるだろう。それを一つの意思で振り分けるってかなり難しいと思うんだけど」
ポールも改めてそう思った。
「そうだよね……例えばさ、ある家族がいて親父がどうしようもない呑んべぇで、妻子に暴力ふるって荒れてたとする。この親父は俺が判断するに因果界往きね。でもさ、妻子はそれを免れるけど、この親父に依存心を持ってたら? それでも引き離されちゃうのかな」
「うーん」
マルクも唸ってしまった。
「普通に考えて……引き離された方が妻子のためだよね」
キーツが言うと、アロンは疑問視した。
「その場合、あとのフォローは誰がするわけ?」
「——周りにいる人間でしょうね」
ランスが成り行きを考えて言うと、ポールがまとめた。
「ね? そう考えていくと、混乱がどんどんどんどん水増ししてくのよ。振り分けるまではいいよ、問題はその後さ」
「あ、俺も思いついた。戦争で兵士になった人たちね。心ならずも人を殺してしまったとするだろ。でも、本質的にその人は善なんだよ。後悔したり悩んで苦しんだり、人がもういいよ、って考えるよりも深く傷ついて……そういう人たちは? 法律では罪を問われることもあるし、問われないこともある。生命の樹はどう判断するんだろう」
ナタルの疑問に、ランスが答えた。
「きっとそういう人たちには深い癒しが必要ですから、みんなと一緒に虹球界に往けるんじゃないでしょうか。彼らには戦争という者の愚かさ虚しさを後世に伝えるという役割を担ってもらったらどうでしょう。二度と戦争を起こさないために、新しい世界をどう導くか。その布石をお願いできたらいいと思いませんか」
「もういいじゃないかって言ってあげられる判断があったら素晴らしいですよね」
ルイスも大いに賛同した。
アロンも思いついたようだ。
「あとさ、精神的に心を病んでいる人って、どう振り分けるんだろうね。少し間違えば、判断が狂えば自傷することもあるだろ。因果界往きでは気の毒だし、かと言って真央界に残って万世の秘法を正しく理解することも難しいだろうし」
これにはタイラーが答えた。
「それはだな、俺が思うに因果界往きはないと思う。言ってみればまま子みたいなもんで、万世の秘法の理解よりも健康で暮らせることの方が重要だから、別枠を設けるような形になると思うぜ」
「そうか――そういうことになるのか」
メモを取りながら、合いの手を入れているのはナタルである。
「でもさ、今の時点で真央界では病気扱いだけど、因果界では正常だって例はごまんとあるじゃない。一概には言えないと思うな……」
キーツが言うと、ポールはさらに付け加えた。
「そんなこと言ったら呪界法信奉者はどうなるわけ? 負エネルギーの土地にいるから異常だって扱いでしょ。ある意味障害ある人よりわかりやすいんじゃないの」
ランスがなだめる。
「その場合、呪界法信奉者は負エネルギーを利用し、世界に混乱をもたらす悪ですから。自発的な分だけ選択肢が一つしかないということでは?」
「ああ、なるほど」
「じゃあこれは? 自殺して亡くなった人。神様からいただいた命を投げ捨てたってことで、一部には人間にしばらく生まれ変われないって処断もある。その法則は虹球界でも適用されるのかな」
キーツの意見に、タイラーがおぼつかなげに言った。
「そう……じゃないか。新しい世界には往けるが、輪廻はやり直しってことで」
アロンは納得しながら言った。
「ということは、これまでの法則が大体生きてるんだね。生命の樹の判断っていうのは、あくまでも神の法の中でのことなんだ」
「新しい世界には往けます。ただし因縁は考慮されます、ということですね」
ランスがまとめると、ナタルがふーっと息を吐いてから言った。
「ほんのちょっとしたきっかけで道を外れてしまった人もいるのに、常に良心を問われてるんだね」
キーツも頷くと言った。
「今、こうしている間にも選択はなされてるんだよね。事実を知ってる僕らはともかく、知らない人には不公平かも」
ランスも続いた。
「きっと目に見えない高き存在が、必死に働きかけてるんでしょうね。少しでも多くの人が虹球界へ往けるように」
アロンが締めくくる。
「たぶん、俺たちの想像が及ばないくらいにね」
「それで改めて質問なんだけど……生命の樹が俺たち人類をレベル毎に振り分けるんだよね。どういう風にしていくわけ? いろいろな事情があるだろう。それを一つの意思で振り分けるってかなり難しいと思うんだけど」
ポールも改めてそう思った。
「そうだよね……例えばさ、ある家族がいて親父がどうしようもない呑んべぇで、妻子に暴力ふるって荒れてたとする。この親父は俺が判断するに因果界往きね。でもさ、妻子はそれを免れるけど、この親父に依存心を持ってたら? それでも引き離されちゃうのかな」
「うーん」
マルクも唸ってしまった。
「普通に考えて……引き離された方が妻子のためだよね」
キーツが言うと、アロンは疑問視した。
「その場合、あとのフォローは誰がするわけ?」
「——周りにいる人間でしょうね」
ランスが成り行きを考えて言うと、ポールがまとめた。
「ね? そう考えていくと、混乱がどんどんどんどん水増ししてくのよ。振り分けるまではいいよ、問題はその後さ」
「あ、俺も思いついた。戦争で兵士になった人たちね。心ならずも人を殺してしまったとするだろ。でも、本質的にその人は善なんだよ。後悔したり悩んで苦しんだり、人がもういいよ、って考えるよりも深く傷ついて……そういう人たちは? 法律では罪を問われることもあるし、問われないこともある。生命の樹はどう判断するんだろう」
ナタルの疑問に、ランスが答えた。
「きっとそういう人たちには深い癒しが必要ですから、みんなと一緒に虹球界に往けるんじゃないでしょうか。彼らには戦争という者の愚かさ虚しさを後世に伝えるという役割を担ってもらったらどうでしょう。二度と戦争を起こさないために、新しい世界をどう導くか。その布石をお願いできたらいいと思いませんか」
「もういいじゃないかって言ってあげられる判断があったら素晴らしいですよね」
ルイスも大いに賛同した。
アロンも思いついたようだ。
「あとさ、精神的に心を病んでいる人って、どう振り分けるんだろうね。少し間違えば、判断が狂えば自傷することもあるだろ。因果界往きでは気の毒だし、かと言って真央界に残って万世の秘法を正しく理解することも難しいだろうし」
これにはタイラーが答えた。
「それはだな、俺が思うに因果界往きはないと思う。言ってみればまま子みたいなもんで、万世の秘法の理解よりも健康で暮らせることの方が重要だから、別枠を設けるような形になると思うぜ」
「そうか――そういうことになるのか」
メモを取りながら、合いの手を入れているのはナタルである。
「でもさ、今の時点で真央界では病気扱いだけど、因果界では正常だって例はごまんとあるじゃない。一概には言えないと思うな……」
キーツが言うと、ポールはさらに付け加えた。
「そんなこと言ったら呪界法信奉者はどうなるわけ? 負エネルギーの土地にいるから異常だって扱いでしょ。ある意味障害ある人よりわかりやすいんじゃないの」
ランスがなだめる。
「その場合、呪界法信奉者は負エネルギーを利用し、世界に混乱をもたらす悪ですから。自発的な分だけ選択肢が一つしかないということでは?」
「ああ、なるほど」
「じゃあこれは? 自殺して亡くなった人。神様からいただいた命を投げ捨てたってことで、一部には人間にしばらく生まれ変われないって処断もある。その法則は虹球界でも適用されるのかな」
キーツの意見に、タイラーがおぼつかなげに言った。
「そう……じゃないか。新しい世界には往けるが、輪廻はやり直しってことで」
アロンは納得しながら言った。
「ということは、これまでの法則が大体生きてるんだね。生命の樹の判断っていうのは、あくまでも神の法の中でのことなんだ」
「新しい世界には往けます。ただし因縁は考慮されます、ということですね」
ランスがまとめると、ナタルがふーっと息を吐いてから言った。
「ほんのちょっとしたきっかけで道を外れてしまった人もいるのに、常に良心を問われてるんだね」
キーツも頷くと言った。
「今、こうしている間にも選択はなされてるんだよね。事実を知ってる僕らはともかく、知らない人には不公平かも」
ランスも続いた。
「きっと目に見えない高き存在が、必死に働きかけてるんでしょうね。少しでも多くの人が虹球界へ往けるように」
アロンが締めくくる。
「たぶん、俺たちの想像が及ばないくらいにね」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる