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第6話『呪界法信奉者とアンビション』

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「で? アンビションにいる元真央界の住人は、虹球界に往けないってことになるんだな。呪界法信奉者と同じ理由で」
 アロンが話を元に戻す。
「その通り。アンビションは当面、因果界とも切り離されて経過を待つことになる。で、ここからが込み入ってるんだが、アンビションってのは真央界の浄化を長いこと手掛けてきた。どういうことかわかるか?」
 ポールが思考を巡らせる。
「ん? えーと、つまり……アンビションで悔い改めない限り、真央界に生まれ変われないんじゃない。因縁の浄化ってやつ?」
「そう、そうなんだよ。アンビションは修羅の世界だ。至るところで絶え間なく戦争があり、略奪があり、悲劇がある。止めたくても止められない。そうしようとすることで争いがまた起こる。そういうところだ。生き地獄だな」
「酷い世界だ。そんなところがあったなんて……」
「うん――」
 ランスとキーツが神妙になる。
「そこまでしないと永遠に目が覚めないってことだな」
「覚めない人は覚めないからねぇ」
 どこか他人事なのはタイラーとポールである。
 マルクの話は続く。
「付け加えれば呪界法信奉者が往かされるところなんだが……世界の大変革後の因果界とアンビションは大きく輪廻が変わることになる」
「へぇ、どんなふうに?」
 気楽に聞くのはナタルである。
「まず、アンビションで亡くなった者は――悔い改めた者もそうでない者も――赤ん坊として因果界に生まれ直す。女性のお腹を借りずに銀霊鳥に運ばれてやってくる。そして住民である呪界法信奉者がこの世話に当たる」
「おいおい……それって後々、困ったことになるんじゃ」
 ポールの危惧はもっともだった。
「それがだな……呪界法信奉者もアンビションから来た赤ん坊も、生まれてきた理由――宿命が変わっちまうんだと」
「というと?」
 キーツが問い返す。
「うーん、それがな。一様に天寿を全うすること、なんだそうだ」
「それってさ、「殺せない・死ねない・逃れられない」ってこと?」
 ナタルの言葉に、マルクが大きく頷く。
「ご名答。もう一括りにしていいと思うんだが、呪界法信奉者とアンビションは表裏一体なんだよな。だから、自分の襟は自分で正せ、というお達しなんだと思う」
 微妙な表情でポールが言う。
「粋な計らい、と言っていいのかどうか……」
 ランスが教訓めいて言った。
「未熟な人間が赤ん坊を育てるほどの苦行も、なかなかないと思いますよ。肝心なところは生命の樹が監視してるんでしょうし」
「呪界法信奉者にはたまらんわな」
 タイラーが珍しく呪界法信奉者に同情をした。

「素朴な疑問なんだけどさ。アンビションの人たちって、どうやって生活してるわけ? そんな争いばっかりの世界じゃ、国どころか町村だって成り立たないでしょ」
 ナタルの疑問にマルクが答える。
「いいとこ突いてる。じゃあ、まずさっきの六芒宇宙の相関図を見てほしいんだが……アンビションに対応している精霊界はどこだ」
「地の精霊界、そうか!」
「なーるほどね、地の精霊界の源、ホドから無限供給されるんだ」
 アロンとキーツは合点がいったようだ。
「しかも、七大神器の一つ、聖穀ホーリーグレインが常駐していますから、その恩恵は計り知れないですよ」
 ランスも大いに納得した。
「はい。つまり、食べ物には困らないから餓死がない。住むところは――気候が温暖らしいから野宿もできるだろ。着るものは……まぁ、おっかさんが拵えるとして、でもだからこそ争いが収束しないんだが」
「ですが聖穀が生み出した食べているのなら、思考バランスの改善も図れるのでは?」
「そうらしいです。アンビションでも戦争が下火になってきてるとさ」
「それは興味深いな。食べ物で戦争中止」
 アロンが言うと、ポールも続く。
「でも、それは呪界法信奉者の課題だから。聖穀を因果界に持ってくるわけにはいかないんだろうし」
 タイラーが異を唱える。
「それじゃ修行になんねぇだろ」
「だよね」
「天寿を全うした魂はどうなるの?」
 キーツの質問にマルクが答える。
「もちろん、虹球界に迎えられる魂もあれば、残る魂もあり……」
「選択は自由なのね」













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