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第7話『オリーブとタイラー』
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「不利、っていうか完敗だな」
タイラーが一言いった。
陣中見舞い、という名目で、レンナとサクシードが童話の里を訪問した翌日のことだった。
週の真ん中、水曜日。いい感じに疲労感がある夕方。
リーダーたちは誘い合って飲み会に興じていた。
いつものウイスキーのロックで杯を空けたタイラーが呟いた。
「エリックでしょ? 同感だけど、可哀想よ」
オリーブが隣でしみじみと言った。
「レンナちゃん、綺麗になってたもんね?」
「まぁな。それも驚いたが、あのサクシードの全身の気迫だ。代表や俺たちと話すときはあくまで穏やかだったが、悠然と構えた姿。まったく隙がない。あれは戦士の鑑だ」
「ふぅん」
「……つまらなそうだな」
「レンナちゃんを守ってくれるなら、どんなすごい人かなんて興味ない。大事なのは能力じゃない、ここでしょ」
オリーブがタイラーの左胸に指を突きつけた。
「誰だってレンナちゃんの立場に置かれたら、少なからずピリピリする。それが感じられなかった。いつもの私たちのことを気遣ってくれるレンナちゃんのままいてくれた。それが周りにいる人間の力なら、サクシード君はその中心で心を通わせる大事な人と捉えるべきよ。とってもいい感じ。それ以外に何も望まないわ」
「……」
その後、「神様、ありがとうございます」という小さな声を、タイラーは確かに聞き取った。
「——サクシードは代表を愛しているよ」
「えっ?」
タイラーから出た意外な言葉に驚くオリーブ。
「代表を見る時の眼差し、添えられる手、向けられた身体、大事なものを庇う言葉——俺たちに向けられる無条件の信頼さえ代表を思えばこそだ」
クスッとオリーブが笑った。
「意外、タイラーがそんなことを言うなんて」
「俺の話が誰かさんのお気に召さないようなんでな」
「ごめん、男性に支えられるって感覚がイマイチわかんないから、男らしさを説明されてもピンとこないの」
「周りにロクなのがいないって?」
「そうは言ってないけど。タイラーやみんなは仲間だし、支えたり支えられたりで、頼りすぎても頼らなすぎてもいけないことはわかってるんだけどね」
「——そうか」
「あのレンナちゃんが信頼を込めてサクシード君を見上げてるところが、同性の私から見てもかわいいな、って思って。でもってちょっと羨ましい」
「それは珍しいな」
「レンナちゃんが嬉しそうに、サクシード君が自分のことを信じて、万世の秘法について教えてほしい、って言ってくれた、って話してたでしょ。あの幸せな表情、私にはマネできない」
「俺はてっきり、あんたも素直で幸せな女だと思ってたけどな」
「あ、そういうこと言う? 私だって内心は複雑怪奇なんです!」
「複雑怪奇、ね」
「タイラー、告白したことある?」
突然話の舵を切られたタイラーだったが、一言いった。
「いや、ない」
「そうなの?」
「好きなやつならいるが」
「えっ、マジ?」
「ただ、今告白すると殴られそうなんでな」
「なにそれ? 体育会系!」
「苦労するぜ。そいつ、俺の気持ちに全然気づかないんだ」
「私はあるよ、告白したこと」
「……へぇ」
「女と思ったことなんか一度もねぇよ、ってね、玉砕」
「ふぅん」
「あ、つまんない?」
「いや……俺が聞いていい話なのかと思ってな」
「いいよ、全然OK。私のかわいくないところは、それで女の子らしくしようと思わなかったことなんだけどね」
「あんたらしいな」
「女らしいことが私らしくないんだからしょうがないってことにしてね。女らしいって言えばトゥーラだけど、あっちはあっちでそれで好きでもない相手に迫られたりして辟易してたわけ。ウマが合う理由がわんさかあると思わない?」
「なるほどな」
タイラーが一言いった。
陣中見舞い、という名目で、レンナとサクシードが童話の里を訪問した翌日のことだった。
週の真ん中、水曜日。いい感じに疲労感がある夕方。
リーダーたちは誘い合って飲み会に興じていた。
いつものウイスキーのロックで杯を空けたタイラーが呟いた。
「エリックでしょ? 同感だけど、可哀想よ」
オリーブが隣でしみじみと言った。
「レンナちゃん、綺麗になってたもんね?」
「まぁな。それも驚いたが、あのサクシードの全身の気迫だ。代表や俺たちと話すときはあくまで穏やかだったが、悠然と構えた姿。まったく隙がない。あれは戦士の鑑だ」
「ふぅん」
「……つまらなそうだな」
「レンナちゃんを守ってくれるなら、どんなすごい人かなんて興味ない。大事なのは能力じゃない、ここでしょ」
オリーブがタイラーの左胸に指を突きつけた。
「誰だってレンナちゃんの立場に置かれたら、少なからずピリピリする。それが感じられなかった。いつもの私たちのことを気遣ってくれるレンナちゃんのままいてくれた。それが周りにいる人間の力なら、サクシード君はその中心で心を通わせる大事な人と捉えるべきよ。とってもいい感じ。それ以外に何も望まないわ」
「……」
その後、「神様、ありがとうございます」という小さな声を、タイラーは確かに聞き取った。
「——サクシードは代表を愛しているよ」
「えっ?」
タイラーから出た意外な言葉に驚くオリーブ。
「代表を見る時の眼差し、添えられる手、向けられた身体、大事なものを庇う言葉——俺たちに向けられる無条件の信頼さえ代表を思えばこそだ」
クスッとオリーブが笑った。
「意外、タイラーがそんなことを言うなんて」
「俺の話が誰かさんのお気に召さないようなんでな」
「ごめん、男性に支えられるって感覚がイマイチわかんないから、男らしさを説明されてもピンとこないの」
「周りにロクなのがいないって?」
「そうは言ってないけど。タイラーやみんなは仲間だし、支えたり支えられたりで、頼りすぎても頼らなすぎてもいけないことはわかってるんだけどね」
「——そうか」
「あのレンナちゃんが信頼を込めてサクシード君を見上げてるところが、同性の私から見てもかわいいな、って思って。でもってちょっと羨ましい」
「それは珍しいな」
「レンナちゃんが嬉しそうに、サクシード君が自分のことを信じて、万世の秘法について教えてほしい、って言ってくれた、って話してたでしょ。あの幸せな表情、私にはマネできない」
「俺はてっきり、あんたも素直で幸せな女だと思ってたけどな」
「あ、そういうこと言う? 私だって内心は複雑怪奇なんです!」
「複雑怪奇、ね」
「タイラー、告白したことある?」
突然話の舵を切られたタイラーだったが、一言いった。
「いや、ない」
「そうなの?」
「好きなやつならいるが」
「えっ、マジ?」
「ただ、今告白すると殴られそうなんでな」
「なにそれ? 体育会系!」
「苦労するぜ。そいつ、俺の気持ちに全然気づかないんだ」
「私はあるよ、告白したこと」
「……へぇ」
「女と思ったことなんか一度もねぇよ、ってね、玉砕」
「ふぅん」
「あ、つまんない?」
「いや……俺が聞いていい話なのかと思ってな」
「いいよ、全然OK。私のかわいくないところは、それで女の子らしくしようと思わなかったことなんだけどね」
「あんたらしいな」
「女らしいことが私らしくないんだからしょうがないってことにしてね。女らしいって言えばトゥーラだけど、あっちはあっちでそれで好きでもない相手に迫られたりして辟易してたわけ。ウマが合う理由がわんさかあると思わない?」
「なるほどな」
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