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第9話『お話の結末』

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「こうして名のない力は天窓の鍵の中へと入りこんでしまい、万世の魔女の心のドアをノックして生命の樹へと旅立ちました。みんなに怖がられていた名のない力は、生命の樹によって世界の構造を変える原動力になりました。そして、ついに本当の幸せが宿る世界、虹球界へと誘う、世にも幸せなお役目に就いたのでした」
 しん、と水面を打った静けさから拍手が上がった。
 そこにいたのはNWSのリーダーたちだけではなかった。
 NWSの集まったメンバーたち。他の団体のメンバー。童話の里の仲間が揃っていた。
 それだけではなかった。
 他の六つの里の人々。世界各地に散らばる万世の秘法の位階者たち。パイオニアオブエイジの関係者。
 これらの人々が一斉に拍手を送っている様子がテレパスでわかった。
 さらには人界の王、万世の占術師、ウェンデス・ヌメンもこの話に耳を傾けていた。
 そしてもちろん、万世の魔女、レンナ・モラルも――。
 これだけの人々が、今朝訪れた夢の意味を考えていた。
 そうして目指す答えに辿り着いたのだった。
 呆然とするポールをせっつくキーツ。
「ポール、ちょっとポールってば。おーい、聞いてる?」
 我に返るポール。
「えっ、えっ? なに?!」
  まるで夢から覚めたような有様だった。
「なにってなに? こんだけの衆目集めておいて、なんで無自覚なわけ?」
「えっと――俺、何かやったっけ?」
「はぁ?」
「もしかして、これは――」
 ランスがうろたえると、マルクが一言置いた。
「そう、神懸かり」
 しかし、その声は押し掛けた人々によって遮られた。
 大勢の人に握手を求められて、困惑するポールをよそに、NWSのリーダーたちはその記録に余念がなかった。
「トゥーラ、記録取ってるな」
 マルクが言うと、トゥーラは頷いた。
「途中から接ぎ穂を挟まなくなってから、速記で対応したわ。でも――」
 ところが、聞いていたのは人間だけではなかったのである。
 その場にいた人々の意識を吸い寄せるように、透明なオーブが現れた。
 それがふわぁっと円卓で一塊になって、ポンと飛び出した物。

『名のない力の訪れ』

 世界の運命——希望が綴られた絵本の誕生である。
 これには当のポールもNWSリーダーたちも度肝を抜かれた。
 またも童話の里の魔力が発動したのだった。
 いや、単なるそれではなく、世界に広がるグランドクロスが成さしめた奇跡の一片なのではないだろうか。
 世界が世界の大変革に向けて活性化している証拠だった。
 それを遠巻きに見ていた人々は感動しきりだったが。
 NWSのリーダーたち、特にポールは、微妙な顔で状況を流すしかなかったのである。
















 
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