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第16話『書くことの最初』

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「参りました」
「いいえ。私の本の方はどう?」
 トゥーラが聞くので、ポールはにんまり笑った。
「これってトゥーラの心の世界?」
「そんなつもりはないけれど……季節が散りばめられてる歳時記みたいでほっとするの。生活の知恵とか昔からのしきたりとか、それを折り目正しく綴っていくことって、とても深いと思うわ。でも、そうね。私が文章を書けたら、こんな本を作りたいわ」
「俺は韻を踏んでいるタイトルから気に入ったなぁ。なんか女性のおしゃれの真髄だよね。あと、形見だけに全体に漂う死生観が寂しさを演出してるのもいいと思う。トゥーラには寂しさよりも、豊かさとか幸せとかに気持ちを向けてほしいけど」
「……私に書けるかしら?」
「書けるよ! 書いてみたら? まずは自由に書いてみる。それが難しけりゃ日記から始める。一日いちにちを愛おしむ。トゥーラにぴったりじゃんか」
「「自分で創作してみようと思った時から、誰にでもストーリーテラーになる素質が眠ってる」。これはポールの言葉だったわね」
「うん、そうそう。初めはね、どうしても自分の思い通りには書けないかもしれないよ。いいと思ってる作品と比較したりして、こねくり回したくなるんだよ。けど、それは大概上手くいかない。それでも書いたものを残しておいて、書いてしばらく経ったものを比較すると明らかに違いが出る。——自分の言葉で書いてることができてるんだ。それが第一関門なわけ」
「……やっぱりポールは書くことに詳しいわね」
「正しいかどうかは知らないけど、これは俺が実際にやってみて得た経験だから。トゥーラも試して経験してみてよ。楽しいぜ、きっと」
「あなた、書いたら読んでくれる?」
「もちろんだよ、大歓迎! トゥーラがどんな表現をするのか、すっげー楽しみにしてる」
「……うん」
 ほんのり頬を赤らめるトゥーラ。やっぱり綺麗な人だな、とポールは改めて思った。
 そしてまた、何となく本を読み始める。
 すると、遠くから声をかけられた。
「あれー、お二人さん、デート?」
 なんとキーツだった。背中にギターケースを背負っている。
「おお、キーツ。奇遇だね」
 ポールが言うと、キーツは笑った。
「いや、お邪魔かと思ったんだけど、知らんぷりするのもどうかと思ってさ」














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