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河口先生に手渡された物は、キーホルダーだ。

本来は僕の物じゃなかった。

これは僕の親友だった、けいすけから譲り受けた物だ。

けいすけも僕と同じこの中学に入学する予定だった。

が、両親の転勤で小学校卒業を前に遠くへ引っ越すことになった。

せめて卒業までは一緒にいたかったけど。

家庭の都合じゃ仕方がない。

引っ越しの当日、別れの挨拶にだけ学校に来たけいすけが、ランドセルに付けていたキーホルダーを僕にくれた。

「突然すぎてこんな物しかないけど」

と言って差し出されたキーホルダーはけいすけの宝物だったことを僕は知っている。

野球が好きだったけいすけは、昔お父さんに球場へ連れて行ってもらって、そこでこのキーホルダーを買ってもらったと言っていた。

それが本人にとっては想い出の品であり、宝物。

だからランドセルに付けて肌身離さず持っていたんだ。

そんな物を手渡された僕は恐縮してしまい、とてもじゃないけど受け取れないと返したのだが、大事な物だから大事な人に持っていて欲しいのだと言われてしまうと返せなくなった。

代わりに僕もその時自分が持っていた最大の大事な物―――と言ってもけいすけの宝物とは程遠いシャープペンシル を渡したのだった。
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