上 下
7 / 28

しおりを挟む
噂はすぐに広まった。

名方さんが私に優しかったのは、異動してきて早々と目をつけていたからだの、私が色目を使って名方さんを陥れただの、好き勝手に憶測が飛び交っていた。

やがてそれは部長や社長の耳にも入ることになり、名方さんは異動を余儀なくされた。

元々いた支店ではなく、別の売上も低く、顧客も少ない部署で、明らかに左遷だった。

こんなことになってしまったのは私のせいだと名方さんに泣き謝ったけど、こんな状況になっても名方さんは優しく、少し頭を冷やしてくると笑って私の元を離れた。

そんな時に私の妊娠が発覚した。

もちろん名方さんにも報告はした。

私は名方さんの家庭を壊すつもりはなかったし、名方さんの人柄に心を奪われてはいたが一緒になりたいとまでは思っていなかったので、1人で産んで育てると決意していた。

名方さんは堕ろしてくれとは言わなかったので、私に同意してくれたのだと思う。

とは言っても、私には相談相手がいなかったので、終始不安だった。

仕事でも助けてくれなかった人がプライベートでも助けてくれるはずはないと、会社の人に頼るのは諦めた。

元々顧客問題があった時から退職は頭にあったし、妊娠をきっかけに早々と会社を去った。

妊娠したことはもちろん口外しなかった。

会社に残る名方さんにこれ以上の汚名を重ねることはしたくなかった。
しおりを挟む

処理中です...