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3.喜多村本家に居候
102.モール脱出作戦パート2
しおりを挟む「あ、ちょっと──キョウ様、胸の内ポケットの金属ケースを」
「何?」
気更来さんの胸から金属のメガネケースを取り出す。
「ああ、これいい」
金属ケースを開けると黒メガネが入ってる。着けてみたかったんだよね、これ。歩鳥さんとか触らせてくれないし。
「それをかけるとですね──」
「うわ~すごい館内の様子が良く分かる」
「──え?」
さっそく着けてみると頭に情報が流れ込んでくる。
シースルーの立体モデルが頭に展開され、建物の周りには赤い点々が映ってる。
館内にも赤い点々があり、一様に階上へ向かってる。青く表示されてる光点に近寄ってみるとサキちゃんと義父様たちが五階のレストランでお茶してる。
「何やってんのよ、あの人たち……」
「あの人とは?」
「サキちゃんたち。レストランでお茶してる。『ここまではやって来ぬから……』って悠長にお茶を愉しんでる」
「──は? いやいや、そんなことまで分かりませんよ?」
気更来さんを見たら、こちらに向けかけた顔を勢いよく逸らされた。黒メガネのすき間からちらっと見えたお目目は円らで可愛らしい。
「どーゆうこと?」
「感受装置を導入していないと、そこまで分かりません。一般人にはせいぜいモニターに階層の平面図が表示され、自分の位置が分かる程度なんです」
「それって──」
「異常事態です」
「──すっごくお得、ってこと?」
「「違います」」
勢いよく二人に否定された……なんでよ?
「どうして、そんなことができるのか……」
「──どうしてか分からん、な?」
なんか警護の二人が困惑してる……。
「いいじゃん。これ、使えば外の様子まで見えるし、館内の人の流れも見える。やっぱり上に向かうエスカレーターは混みこみ、下に降りるのは空いてるよ?」
「…………」
「どうかした?」
気更来さんが黙って考えてる風。
「いえ。では、空いてるエスカレーターから下に降りましょう。案内お願いします」
「オーケー。ん~? すぐの角で左に曲がって、直進」
「羽衣?」
「合ってる」
「キョウ様って……」
「「異常、だよ、な?」」
声を合わせて異常って、なんだよ。でもこれ、すっごく便利だ。
「でも……」
「なんだ?」
「いや、なんでもない」
警護の二人がごにょごにょ話してる。
「そなたら、行けるのか?」
「はい、行けます」
ミヤビ様が停まったままのボクたちの様子を見にくる。
「なんじゃ、黒メガネなどしおって?」
「いいでしょ?」
「そなたには似合わん。では行くぞ」
「あ、はい。すぐを左、です」
「ん? そうか」
ボクの指示で進み始める……。でも、騎馬戦の形って人が集まったところでやっても良かったんじゃ? と思えてきた。
だって思ったより遅い。赤い点々の動きが速いのもあるかも知れないけど。
「良い眺めじゃ……」
ちょっと、後ろから覗かないで、ミヤビ様。
「うん」
「絶景」
「も、もう一枚……」
そこ! 聴こえてるからね? タンポポちゃんの端末に侵入、カメラ機能の停止。よし!
「あれ? あれ?……」
「どうしたのじゃ?」
「カメラが起動しない……」
「どこかにぶつけて壊れたのじゃろう?」
「それくらいじゃ壊れないわ──です」
しずしずと通路を進んで階下に降りるエスカレーターへ。一階へ下りてる途中、外の特殊部隊が突破されたのが鑑えた。
「ちょっと停止する」
「停止って──っとっと」
「おい、エスカレーターが停まったぞ?」
「今ちょっと停めました」
「と、停めたって?」
「特殊部隊が突破されて突入して来ます」
「なんじゃと?」
「シャッターを閉めます。エスカレーターで降りて進路変更、別の出入口に向かいます。エスカレーター再稼働」
「「「…………」」」
「のう、キョウはどうなっておる?」
「「「さあ?」」」
「そなたら……。あのメガネが悪いのではないのか?」
「おそらくそうですけど、今は大変助かります」
「う~む……それは……そうじゃが……」
一階は、ほぼ誰もいないけど……バックヤードにサガラ・クルーが隠れてるな。
まあ、あそこなら巻き込まれないだろう。
「そこ、左へ」
シャッターをすべて下ろしているから時間は稼げる。その先、裏口的な出入口を目指して進む。
熟知している地域住民は大きい出入口に殺到してる。裏口は選択肢になかったようで手薄だ。
人馬は移動が遅くてダメだと始めは思ったけど、足の遅いタンポポたちがいるのでちょうどいい。
「ここ、ですか?」
「うん。今、シャッター開ける。外に少数いる。お願い」
「「「おう!」」」
シャッターを開け始めると、近くにいた女たちが音を聞きつけ集まってくるのが鑑える。
「戸隠さん、角師さん。前を護って」
「「りょ、了解」」
「笹さん、打木さん、先行して突破して行って」
「「え? りょ、了解!」」
特殊部隊な人に指示する。
「そなた、あやつらの名を知っておるのか」
「特殊部隊な人? 頭の表示に出てるから……」
「……そなた、何を言っておる?」
「言葉のまま。その人を知りたいと思ったら教えてくれるん、です」
何を、って言われても光点のことを知りたいと思ったら情報が頭に流れ込んでくるんだもん。
「そなたら、キョウは大丈夫であろうな?」
「分かりません……」
「それはあとで。今は頼りになります」
なんか言ってるけど今は外、だな。外に出るとかなり大回りしないと装甲車に着けない。
遠いところ、手すきの特殊部隊の人を喚ぶか……。
待てよ……おお! 装甲車に接触できた!
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