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4.本家からの再出発

173.入場検問

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「どうだ?」
「問題ない」
「こちらも」
「はい、通っていいですよ~」

『行けって言ってるか?』
『そのようだ……』
『はあ~、肝が冷えた……』
『そうだな……』

 あ~、検問を通過しちゃう~。千載せんざい一遇いちぐうのチャンスかも知れなかったのに~。

 向かってるのは空港か~。飛行機に乗せられるって、やっぱり外国に連れて行かれちゃうの?

 何とかできないかな~? できないよな~。

 せめて身体が動くようにならないと……。マキナ……。

『どうした? 無口になって』
『いや、不測の事態は想定するが……』
『ん?……まあな……』
『取ってつけたような検問がされているのがに落ちなくてな……』
『考えすぎじゃないか?』

『そうかも知れんが……旅客ターミナル経由はやめ、貨物ターミナル直で運ぶか……』
『まあ、その方が楽でいいが』
『それ以上に直接渡した方がいい気がする……』
かん、か……。まあ、それで気が済むなら構わないが』

 お? 停まった。着いたの?

 なんか、駐車場とかに停めた感じじゃないな~

 って! 荷物じゃないんだから丁寧ていねいに扱ってよね~。

 あ~~、ついに出荷されちゃう~。

 ドナドナド~ナ、ド~ナ~……れられてるのはキャリーバッグみたいなヤツか……コロコロ、容れ物の底の車輪が転がってる感じ。

 人が入ったバッグは手荷物に預けられないから非合法な受け渡しがされるんだろう。

 マキナたち、気づくかな~。いや、それ以前に空港に向かったって気づいてくれるかな~?

 外国に出荷されたら、どうなるのかな~?

 食べられたりはしないだろうけど、臓器ドナー? 切り刻まれて残骸ざんがいは標本にされて飾られるとか?

 だめだ……ネガティブなことしか思い浮かばない。



 お~よしよし、泣かないで~……。マキナ、元気な女の子だよ~
 よく頑張ったね~。ほらほら、ちぃちゃい手だよ~。

 え~~? 静かにしろ?
 ごめんごめん。初めての子だから興奮が抑えられないよ~。

 えっ、もう寝る? うん、お休み……いや、待って。何か食べたいもの、ある? 買ってくるよ。

 ステーキ? ちょっとステーキは準備できない、と思う……。

 はいはい、分かった。お休み……。
 あ……。名前、相談したかったな……。あとでいいか……。



 何か、むなしくなってきた……。寝よう。


 ◆


 まだか……まだか……早く……早く……
 オレには祈るしかできない。

 この車が「空港への分岐ぶんきに入った」とことの葉に上がる。

「あのワゴンは?」
 オレは伏せていた顔を上げ聴く。

「もう入場ゲートをすぎてしまいました……」
 気更来きさらぎが申し訳なく言う。

「そうか……。先の監視カメラには?」
「外回りにも……旅客ターミナル前のカメラにも映っていません」

「コンコースも確認しましたが……」
 悔しそうにつぶやく。

「仕方ない。取りあえず空港に入ろう」

 検問が我々には足かせにしかならないので、目標のワゴンが通過後には解除させる。

「駐車場に車はないですね……」

 カメラに映らぬ駐車場に回っている可能性を考え、巡回じゅんかいしてみるが空振り。

「いったい、カメラに映らずどこへ行ったんだ?
「…………」
「なあ、施設パトカーが騒がしくないか?」

 空港パトロールが行き来するのを見て、打木が素朴そぼくな疑問を述べる。

「ああ、そうだな……」
「もしかすると……」
「ああ、やつらが問題を起こした可能性があるか?」
「よし、施設パトカーの行き先の方へ行ってくれ」

 一縷いちるの望みを手繰るように、それにかけてみる。

 車を回し、施設パトカーを追う。旅客ターミナルを素通りして奥の貨物ターミナルへ向かっている。


気更来きさらぎ、あれ」
「ああ、さがしていたワゴンだ」
「貨物ターミナル前に放置するとは……」

 追っていたワゴン車は放置され、パトロールが見つけ、ガードマンが運転手を捜している、と言う図が見える。

「では、もう……」
「いや、飛び立てないから、まだ……」
「飛び立てないだけでは、取り返せない」
「「…………」」

 皆が沈黙する。治外法権に守られる隣国航空機には、立ち入ることができない。

臨検りんけんできないか図ってみるか……」
「マキナ様、そのようなことが?」
「ああ、お館様に頼み、お館経由で殿下、いては陛下へいかに。笹?」
うけたまわりました」

 すぐに笹が黒メガネで連絡を取る。いつまでも隣国政府専用機を留め置けないだろう。時間との勝負か。

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