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4.本家からの再出発
183.妊娠検査薬
しおりを挟む「キョウちゃん、無事だったんだね?」
「ああ、危ないところだったが奪還できた……」
「それで何か問題が?……」
重苦しい雰囲気を分かってツバキが言葉少なに訊いてくる。
昏睡状態で連れ帰り、壁内病院で目覚めたものの居もしない赤子の幻想に囚われていることを説明する。
「──アヤメ姉さん次第なんだね……うちもキョウちゃんのところに居るよ……」
そう言い、ツバキは子供たちを追って寝室に向かう。
「ただいま~……って、どーしたの?」
能天気なアヤメがリビングに顔をだす。
「アヤメ姉、空気読んでよ」
さすがにカエデもアヤメに文句を言う。
「キョウが赤子が居ないと言って、ふさぎこんでいる。お前が要らないことを言ったせいで……」
「何か言ったっけ?」
「マキナ姉が妊娠してるって姉貴が言うから」
「妊娠してるんじゃないの?」
「まだ、してない」
また言いがかりをつけてくるアヤメに反論する。
「検査はした?」
「妊娠してないのに、するわけなかろう」
「これだから素人は……」
さも専門家だと言うようにアヤメが処置なしとばかりに頭を振る。
「ここに妊娠の玄人はいないよ? 姉貴だって妊娠どころか初体験も──」
「だ、誰が童貞じゃ! 初体験のひとつやふたつ、私だって」
「はあああ……」
自分と同じ反応で、不本意ながら妹だと確認できた。初体験に二回はないぞ。
「と、とにかく、検査してダメだったら次は秋だね?」
そろそろ、春期は大詰めだし……と、アヤメが細長い箱を差し出してくる。
「それは……」
「妊娠検査薬。さっさと検査してすっきりしなよ」
「妊娠してないのにムダだろう?」
「ムダでも何でも、やってみれば?」
「何? 怖いの? 手伝おうか?」
「バカにしてるのか? ひとりでできるわ……。しかし、尿意がな~」
「コーヒーでもガブ飲みする?」
「はあああ……。食後のコーヒーでも飲むか……」
コーヒーブレイクで落ち着くのも良いかと、メイドを呼びコーヒーを用意させる。
「そんな……」
トイレに立ち検査器に尿を当てる。しばらく待つと薄らマーカーが現れていた……。
「マキナ姉、どうだった?」
トイレのドアをノックしてカエデが聴いてくる。
「……ちょっと調子が悪い、な」
「調子って……。アヤメ姉、検査薬の調子が悪いって~」
「察してやれ。冷静になったらトイレから出てくるよ」
「……分かった。妊娠してるって決定?」
「まあ、そうだね~。お披露目の次の日に妊娠発覚って、二重にめでたいって言って良いのやら。複雑だろうね~」
「マキナ姉の妊娠が分かれば、キョウちゃんの気落ちも解消するかな~?」
「少しはね~。産まれるの先だから……」
トイレの外がうるさい。好き勝手言ってるが……これは間違いだ。
「アヤメ、他に検査薬はないか?」
聞こえてくる雑言に苛立ってトイレから出て訊く。
「どれ、見せて?」
「いや、これは違うんだ」
「はいよっと!」
「おい!」
詰め寄るアヤメから検査器を隠すと、回り込んだカエデに奪われる。
「これで妊娠してるの?」
「ほうほう……ほんの初期の、着床したばかりだろうね~」
二人して検査器のマーカー表示窓を確認している。
「違う。間違いだ──」
「まあまあ、落ち着いて。何なら血液検査してみる?」
アヤメが押し戻してソファーに座らせる。
「おめでとうございます、マキナ様」
「「おめでとうございます!」」
「私は、御館様に報せてきます」
「あっ、おい! 待て」
護衛たちが祝いを述べ、先走って打木がリビングから駆け出す。
「まあまあ、心を落ち着けて。妊娠初期は気をつけてね。月並みだけど……」
「そうだ。夕食は何か御祝いにした方が良いね?」
「ねえねえ、妊娠とか御祝いって?」
寝室からツバキが戻ってくる。
「マキナ姉に子供ができたんだよ」
「えええっ、子供ってそんなに直ぐできるものなの? もっと苦労するんじゃないの?」
「まあ、そうだよ、ね……そこんところアヤメ姉、どうなの?」
「ふふふぅ~ん、キョウちゃんは特別、だからね~」
わがことのようにアヤメが胸を張る。何を浮かれてるんだ。そう簡単に妊娠などするものか。それが、ぬか喜びにならないと良いがな。
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