上 下
186 / 203
4.本家からの再出発

186.実名報道

しおりを挟む


「ぐぬぬぬ……」
「ギリギリ……」
「…………」
 その様子は三者三様で、アヤメさん一人がにやにや観ている。

「ファッションショーは、こんな意味があったとは……」
「浮かれて見ていた自分がずかしい。でも……」
「まったくだ……」

「ま、まあ、ただで衣装いしょうが手に入ったし……」
「スマン。キョウ、どんな服でも買っていいからな? もちろん通販で構わない」
「いいんだよ……。ミズキ義叔母おば様のモールがもうかるんだから」
「キョウ……」
 マキナは申し訳なさそうにボクを見てくる。

「三回もお邪魔じゃますると壁外そとの危機感がやわらいだ気がするし」
「「キョウちゃん……」」
 可哀想なものを見る目でカエデさんたちが見てくる。

『──当選者の皆様、おめでとうございました。賞品がお手元に届くまでお待ちください……。そして、本日、少年K──お名前を公表して良い許可をいただきました。お名前をキョウ様とおっしゃいます』
「「えええ~~!」」
「……やれやれ」
 カエデさんたちが声を上げ、マキナは嘆息たんそくする。みんな、今さら気づいたのかよ!
 少年Kから変わってキョウくん、キョウくんって呼んでくるので公表されるのは時間の問題だと思ってたよ?

「これ、問題だよね?」
「抗議だ抗議!」
「ダメじゃない? 許可もらったって言ってるし」
「ぐっ……」
 カエデさんたちが苦渋くじゅうをにじませてうなる。

『──一部、SNSで画像などが流れていますが、ぼう商店に訪れたのを、当方で収めました映像をお見せしましょう。……どうぞ!』
 画面は、中継映像からV(録画映像)に切り替わる。この期におよんで、まだ某商店で通すんだね。

 流れてくる映像は、お昼前にやったファッションショーの模様を映している。
 ボクが衣装を受け取り、試着室とは名ばかりのカーテンの中に消え、着替えて出てはステージで展覧てんらんすると言う、ダイジェストに仕上がっている。

「これ、可愛かった……」
「私は、これし」
「…………」
 次々、現れるボクの衣装に言葉をえている。マキナは意見ないのかよ?

「これらの衣装はどこにあるの?」
「「…………」」
「……知らんな」
 カエデたちは無言で顔を見合せ、マキナが無情なことを言う。

「えっ? 着て見せた報酬ほうしゅうが服だったのに~」
「お前が居なくなって、それどころじゃなくなったからな」
「あ~~、それもそうか……」
 それじゃタダ働き? あれでしばらく生活するはずだったのに……。

「アヤメさん、蒼湖おうみ放送に抗議。報酬をもらってない」
「え~~、なんで私? いや、いいけどさ~」

『──それでは、エントリー・ナンバー1。向日葵ひまわりあしらわれたワンピースです……』
「なんかショッピング番組になっちゃってるな~」
 蒼湖おうみのローカル放送は自由すぎる。
 映像が中継に切り替わり、ワンピースを着せた人形ひとがたがフレームインしてくる……。

「そうだな。確実に同じ服を手に入れるには買えばいいからな。確かに叔母おばのところはもうかるんだろう」

『──ご応募は本局のホームページからお願いいたします。次、空色のグラデーションがあしらわれたワンピースです……』
 淡々たんたんとサガラは、賞品を紹介していく。

「ダメ。局につながらない。きっと、郵送か持ってくるか、するでしょ?」
 ちゃんと電話してくれたアヤメさんが報告してくれる。

「また、買えばいい。次はネット注文だな」
「それが良いんだけど、即時性と現物を見れるのがいいよね?」
「まあ、そうだが……」
 やはりお店は、現物を見られる強みがあるんだよね。

 和気わき藹々あいあいとテレビ観賞しつつ食事を終え、食後のお茶になる。
 マキナは、食欲不振と思えないほど、するすると食べてくれた。


「キョウ、様子を見にきたわよ~?」
「……わよ~」
「テレビ、見た?」
 タンポポちゃんたちも食事を終えて部屋に訪れる。

「テレビって……アレか~。一応、見たよ」
「キョウのファッションショーになってるわね~?」
「ん、なってる」
「そうだね。いいのかな~、あんなので」
 話しながら、タンポポちゃんが恐る恐るひざに乗ってくる。となりに座るマキナの機嫌きげんうかがっているのか。それくらいでマキナは怒らない。

 残る二人がマキナと反対の席を争っている。
 できれば、そちらの二人が膝に乗ってくれる方が軽くていいんだけど、乗る順番を決めているのでそう言えない。

「私も応募したわよ。今度こそ手に入れる」
「応募した~」
「絶対、手に入れる」
「前もほしいって言ってたけど、手に入れてどうするのよ?」
「そりゃ、飾るのよ」
「抱いて寝る」
「大きくなったら着る」
「そ、そう。当たるといいね?」
 そこまで執着しゅうちゃくすることかな~? 大きくなるころは着れなくなってるだろうし。

「キョウ様、いらっしゃいますか?」
「は~い、いま~す」
 歓談かんだんしているところに笹さんがやって来る。

「お館様が、お呼びです」
「サキちゃんが? 何だろ」
「そこまでは分かりかねます」
「分かった。向かいます」
「お願いいたします」
 何だろう。学校のこととかな?

「キョウ、一人で大丈夫か?」
「ん? 大丈夫だけど?」
「……そうか」
 マキナは心配性だな~。

しおりを挟む

処理中です...