妄想日記1<<ORIGIN>>

YAMATO

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Chapter18(聖夜編)

Chapter18-⑦【Red Nose Reindeer】

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「俺達の目標だったからな。」
ショウは『俺達』を強調して答えた。
「二人でコンテストを目指していたんだ?
どれくらい付き合ってたの?」
酔ったユーキが次々に質問する。
「5年ちょいだよな?」
ショウが振る。
「ああ。」カオルが短く答えた。
「あの頃は毎日8時にジムで待ち合わせしたよな。
トレーニングパートナーとして、互いに刺激し合ったんだ。
カオルはまだ学生だったけどな。」
酔ったショウは饒舌だ。
「あの時はカオルの大切さに気付かなかった。
いなくなって、初めて気付いたんだ。
俺って、馬鹿だよな。」ショウが愚痴る。
ショウが未練があるのは明白だ。
カオルは酎ハイをマドラーで掻き回しながら聞いている。
タケルは俺が苦しむ前にふってくれた。
俺も同様に身を引く事が出来るか、自問自答する。
しかし答えは簡単に出ない。
「そろそろお開きにしようか?」
会話が切れたところで、カオルが伝票を持つ。
「カオルはどこに泊まってるんだ?」
席を立った時、ショウが聞いた。
「ヤマトさんとホテルに泊まっている。」
カオルは向けられた視線を避けて答える。
「そうか。だったら、またメールしていいか?
アドレス変わってないだろ?」
ショウは簡単には諦めない。
「メールは別にいいけど…。
期待してるみたいだから、はっきり言っとく。
俺はショウと、縒りを戻す気はない。
今はヤマトさんを大切にしたいんだ。」
最後にカオルは毅然と言った。
ショウはカオルの手から伝票を抜く。
そして黙ったままレジに向かった。
「これで万事めでたしじゃん。
傷心のショウちゃんを慰めてくるか。
じゃあ、またね。」ユーキがショウの後を追う。
しかしこれでショウが引き下がるとは思えなかった。
 
「ゴメンな。嫌な思いさせて。」
駅に向かう途中で二人きりになると、カオルが口を開く。
「いや、俺は嬉しかったよ。」精一杯微笑む。
「でも、カオルが少しでも悩むんだったら、ちゃんと言ってよ。
今なら、傷も浅いし。」
なけなしの強がりを言う。
「馬鹿だな。ヤマトさんは俺が守るって、言っただろ。」
カオルは気障な台詞を言って、頭を掻いた。
これからカオルは実家に戻る予定になっていた。
「今日は一緒にいようか?」カオルが気遣う。
「大丈夫だよ。両親が待っているんだろ?
甘えて来いよ。」冗談を言って安心させる。
「ゴメンな。鼻が少し赤いぞ。
暖かくして寝ろよ。」
カオルはターミナル駅で降りると、私鉄の乗り換え口へ消えていった。
明日はクリスマス・イヴだ。
今日もホテルは取ってあるが、アパートに戻る事にした。
独りで過ごすには広過ぎる。
イヴ前日の祭日はクリスマス一色だ。
皆、肩を寄せ合い、クリスマスを満喫してる。
明日の夜を想像すると、気持ちが弾む。
豪華なレストランも良いが、部屋でロマンチックに過ごす方がベストだ。
デパートの地下で惣菜やケーキを買おう。
『俺はスーパーマンのスーツを着て、カオルは…。』
カオル用のアメコミスーツを買いにいく事を思い付く。
ふと見上げると粉雪が舞っていた。
初雪だ。
ネオンに反射した儚げな雪が地面に舞い降りる。
マフラーを巻き直し、改札に向かう。
 
コスプレショップは閑散としていた。
店内に客はいない。
レイのプラグスーツを着た男の子が、暇そうにカウンターで雑誌を読んでいた。
「いらっしゃい。」
コスプレと無縁そうな客を一瞥すると、また雑誌に視線を戻す。
店内はアニメのコスチュームが殆どで、目的のアメリカン・コミックス系は見当たらない。
「すいません。
アメコミのコスチュームは扱ってないですか?」
店員に声を掛ける。
男の子は顔を上げると、全身を舐め回す様に見た。
「一番奥の棚に少しあるよ。」顎で通路を指す。
「どうも。」愛想の悪い態度に腹を立てながらも、通路の奥に行ってみる。
ビニール袋が山積みになっていた。
手に取ると、スーパーマン、スパイダーマン、バットマン、キャットウーマン等が乱雑に積んである。
しかしサイズや色違があるだけで、種類自体は少ない。
 
 
(つづく)
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