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Chapter25(沖縄新原編)
Chapter25-⑪【The end of the world】
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「襲われたって、誰に?」
答は分かっていた。
「ユーキの意識が戻らないから、はっきり分からない。」
タケルは溜息を漏らす。
「でも、三浦だよね?」
忌まわしい名前を口にする。
「ああ、間違いないだろう。
ヤマトさんはいつ戻るんだ?」
冷静さを取り戻したタケルが聞く。
「昼の便を予約してるけど、これから空港に行って変更出来るか聞いてみるよ。」
居ても立ってもいられず、スマホを片手に荷物を片す。
「なら便が決まったら、連絡してくれ。
羽田に向かいに行く。」
「助かるよ、後でライン入れとく。」
それだけ言うと、通話は切れた。
「どうかしたのか?」
心配そうな表情が覗き込む。
「知り合いが事故にあったんだ。
悪いんだけど、空港まで一緒に来てくれない?
レンタカーを返して欲しいんだ。」
ユーキの名前は伏せて、説明する。
「そりゃ大変だ。
だったらレンタカーで空港へ向かおう。
車は返しておくから、安心しろ。」
タクミは面倒な依頼を快く引き受けてくれた。
運良く、朝一のフライトに空きがあった。
「面倒なこと頼んで、本当にゴメン。
マジ助かったよ。」
深々と頭を下げる。
レンタカー会社が開くのを、いらいらしながら待たなくて済んだ。
心から礼を言う。
「ユーキにヨロシク言ってくれ。」
最後の握手は慌ただしい中、呆気なく終わった。
ユーキの具合が気になる。
タケルに電話するが、圏外で繋がらない。
仕方なく、到着時間をラインで知らせた。
着信履歴を確認する。
最新の画面はタケルの名前で埋まっていた。
前のページへスクロールする。
その中にユーキの名前があった。
時間は00:24を表示している。
その一時間後から、タケルの着信が連続していた。
『ユーキは俺に助けを求めたんだ。』
ユーキの文字が、滲んで見えない。
涙を拭うと、立ち上がる。
スマホの電源を切り、機中へ向かう。
『きっと罰が当たったんだ。』
幾ら悔やんでも、悔やみきれない。
『罰が当たるなら、俺自身に当たればいい。
どうしてユーキなんだ!』
拳を握り締める。
矛先のない怒りに、余計苛立ちを覚えた。
定刻通りのフライトだった。
到着フロアには多くの人がいたが、タケルの姿はない。
電話をしてみるが、圏外のままだ。
タケルが来ない事には、入院先が分からない。
とりあえず到着した旨をラインし、喫茶店に入る。
『まさか、タケルまで…。』
不安が押し寄せてきた。
コーヒーが冷めていく中、鳴らないスマホを睨み続ける。
1時間待ったが、連絡は来なかった。
ここにいつまでいても、埒が明かない。
ユーキの家に向かう事を思い付く。
入院せずに、家で寝ている可能性もある。
呼び鈴を押すが、返事はない。
こんな事なら、ススムの連絡先を聞いておけば良かった。
今更後悔しても始まらない。
無駄足かもしれないが、タケルのマンションに向かう。
じっと待つのは辛すぎた。
エントランスで部屋番号を押すが、応答はない。
帰ろうと思ったが、何かが引っ掛かる。
丁度宅配業者が出て来たので、入れ違いに中に入った。
直に部屋に行ってみる。
呼び鈴を何回か押すが、やはり応答はなかった。
やはりタケルに限って、寝過ごす事はない様だ。
諦めて踵を返した瞬間、中から足音がした。
「はぁーい。」知らない声だ。
「ヤマトと言いますが、タケル君いますか?」
恐る恐る聞いてみる。
内鍵が開く音がした。
ドアが開くと、浅黒い男が立っている。
タケルと同年代に見える男はボクサーパンツ一枚の裸体だった。
「あの…、タケル君はいますか?」
もう一度聞いてみる。
「タケルは寝ているよ。
ちょっと張り切り過ぎて、ダウンしてるんだ。
裸だけど、起こしてこようか?」
男が悪戯っ子の様に笑う。
「いや、寝てるならいいです。
失礼します。」
振り返り、エレベーターに向かう。
唯一の救いだったタケルに裏切られた。
その思いが重く伸し掛かる。
それでも戦わなくてはならない。
これで最後にしよう。
そう決心し、都心を目指した。
(完)
答は分かっていた。
「ユーキの意識が戻らないから、はっきり分からない。」
タケルは溜息を漏らす。
「でも、三浦だよね?」
忌まわしい名前を口にする。
「ああ、間違いないだろう。
ヤマトさんはいつ戻るんだ?」
冷静さを取り戻したタケルが聞く。
「昼の便を予約してるけど、これから空港に行って変更出来るか聞いてみるよ。」
居ても立ってもいられず、スマホを片手に荷物を片す。
「なら便が決まったら、連絡してくれ。
羽田に向かいに行く。」
「助かるよ、後でライン入れとく。」
それだけ言うと、通話は切れた。
「どうかしたのか?」
心配そうな表情が覗き込む。
「知り合いが事故にあったんだ。
悪いんだけど、空港まで一緒に来てくれない?
レンタカーを返して欲しいんだ。」
ユーキの名前は伏せて、説明する。
「そりゃ大変だ。
だったらレンタカーで空港へ向かおう。
車は返しておくから、安心しろ。」
タクミは面倒な依頼を快く引き受けてくれた。
運良く、朝一のフライトに空きがあった。
「面倒なこと頼んで、本当にゴメン。
マジ助かったよ。」
深々と頭を下げる。
レンタカー会社が開くのを、いらいらしながら待たなくて済んだ。
心から礼を言う。
「ユーキにヨロシク言ってくれ。」
最後の握手は慌ただしい中、呆気なく終わった。
ユーキの具合が気になる。
タケルに電話するが、圏外で繋がらない。
仕方なく、到着時間をラインで知らせた。
着信履歴を確認する。
最新の画面はタケルの名前で埋まっていた。
前のページへスクロールする。
その中にユーキの名前があった。
時間は00:24を表示している。
その一時間後から、タケルの着信が連続していた。
『ユーキは俺に助けを求めたんだ。』
ユーキの文字が、滲んで見えない。
涙を拭うと、立ち上がる。
スマホの電源を切り、機中へ向かう。
『きっと罰が当たったんだ。』
幾ら悔やんでも、悔やみきれない。
『罰が当たるなら、俺自身に当たればいい。
どうしてユーキなんだ!』
拳を握り締める。
矛先のない怒りに、余計苛立ちを覚えた。
定刻通りのフライトだった。
到着フロアには多くの人がいたが、タケルの姿はない。
電話をしてみるが、圏外のままだ。
タケルが来ない事には、入院先が分からない。
とりあえず到着した旨をラインし、喫茶店に入る。
『まさか、タケルまで…。』
不安が押し寄せてきた。
コーヒーが冷めていく中、鳴らないスマホを睨み続ける。
1時間待ったが、連絡は来なかった。
ここにいつまでいても、埒が明かない。
ユーキの家に向かう事を思い付く。
入院せずに、家で寝ている可能性もある。
呼び鈴を押すが、返事はない。
こんな事なら、ススムの連絡先を聞いておけば良かった。
今更後悔しても始まらない。
無駄足かもしれないが、タケルのマンションに向かう。
じっと待つのは辛すぎた。
エントランスで部屋番号を押すが、応答はない。
帰ろうと思ったが、何かが引っ掛かる。
丁度宅配業者が出て来たので、入れ違いに中に入った。
直に部屋に行ってみる。
呼び鈴を何回か押すが、やはり応答はなかった。
やはりタケルに限って、寝過ごす事はない様だ。
諦めて踵を返した瞬間、中から足音がした。
「はぁーい。」知らない声だ。
「ヤマトと言いますが、タケル君いますか?」
恐る恐る聞いてみる。
内鍵が開く音がした。
ドアが開くと、浅黒い男が立っている。
タケルと同年代に見える男はボクサーパンツ一枚の裸体だった。
「あの…、タケル君はいますか?」
もう一度聞いてみる。
「タケルは寝ているよ。
ちょっと張り切り過ぎて、ダウンしてるんだ。
裸だけど、起こしてこようか?」
男が悪戯っ子の様に笑う。
「いや、寝てるならいいです。
失礼します。」
振り返り、エレベーターに向かう。
唯一の救いだったタケルに裏切られた。
その思いが重く伸し掛かる。
それでも戦わなくてはならない。
これで最後にしよう。
そう決心し、都心を目指した。
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