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Chapter26(東京バトル編)
Chapter26-③【ファイト!】
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キョウヘイは暗い気分で、指定されたホテルを目指す。
風と雨は強まる一方で、傘は全く役に立たない。
誰かに相談したかったが、こんな恥ずかしい事を話せる相手はいなかった。
当然、タイチに相談出来る内容ではない。
ユーキに何度も電話をするが、繋がらなかった。
職場に電話して、体調が悪いと休みを貰う。
ホテルに行けばどうなるか、安易に想像出来た。
「ファイト!戦う君の唄を闘わない奴等が笑うだろう。」
自分を鼓舞しようと、CMで聞いた唄を口ずさむ。
事の始まりはユーキの不始末だ。
ジムでの三浦は紳士的だった。
忌々しい記憶が蘇る。
コンテスト経験者の見事な肉体に見惚れてしまった日を思い出す。
「トモヒラ君はコンテストを目指しているのですか?」
インターバル中の三浦はその視線を逃さない。
汗を拭きながら話し掛けてきた。
本名はキョウヘイだが、ジムや飲み屋ではトモヒラで通している。
「ええ、まあ…。」
見事な筋肉に気後れして、曖昧に答えた。
豆だらけの指がシャツの上から身体を触りだす。
「素晴らしい。骨太の骨格上に、しっかり筋肉が付いています。
上背もあり、将来性あります。」
褒められ、悪い気はしない。
「ありがとうございます。」
半分お世話だと思いながらも礼を言う。
「トレーニングパートナーはいますか?」
三浦はバーをガッチリ握り、股間を突き出す。
白いスパッツにペニスがくっきりと浮かび上がった。
「いや、いません。」
視線を逸らし、ボソッと答える。
「それはいけません。
独りでトレーニングすると、どうしても甘えが出ます。
追い込むにはパートナーが必要です。」
ブリッジした体勢でバーを持ち上げ、筋肉と股間を誇示した。
「コンテストまで、私がサポートしましょうか?」
バーを戻した三浦がベンチに横たわったまま誘う。
「えっ!いいんですか?」
半信半疑で聞き返す。
「ええ、勿論です。
トモヒラ君のやる気次第ですが。
私は将来有望な若者の手伝いをする事が生き甲斐なんです。
少し大袈裟ですがね。
自分の叶えられなかった夢を若い人に託したいのです。」
殊勝な誘いに全身が奮い立つ。
「やる気は誰にも負けません。
よろしくお願いします。」
差し出された手をガッチリと握った。
トレーニング後、三浦と合流する。
今後のトレーニングについて話したいと、待っていてくれたのだ。
居酒屋に入り、ビールを注文する。
「先ず出場する大会を決める事が大切です。
そのターゲットに向けて、筋肉をピークにもっていきます。
二兎を追う者は一兎をも得ずです。
ターゲットは一つです。」
饒舌な三浦が人差し指を一本立てた。
耳を傾け、何度も頷く。
経験談には重みがあった。
出場者に認められ、アルコールのピッチが上がる。
「トモヒラ君は兄弟がいますか?
とても似ている人を知っているので。」
二杯目のビールが運ばれて来たタイミングで話題が変わった。
「ええ、兄がいます。
ユーキといいますが、知っていますか?」
不安が胸を掠める。
「やはりユーキさんのご兄弟ですか!
本当に良く似ている!」
驚きの声が不安を増長させた。
「実はユーキさんの事で困っているのです。
弟のトモヒラ君には言い難いのですが…。」
案の定、困惑の表情が浮かぶ。
「ユーキが何か?」
金銭トラブルでない事を祈る。
「ユーキさんのトレーニングも見ているのです。
彼はあちらの方もかなり強くないですか?
毎晩のように私の家へ押しかけて来るのです。」
三浦は言葉を濁した。
「あちらとは?」
意味が分からず、聞き返す。
「セックスです。」
潜めた声だが、聴き間違いではない。
「…。」恥ずかしさで、言葉を失う。
「困り果ててしまって…。
こんな事はしたくないのですが、強行手段を行使しようかと考えていたのです。」
溜め息混じりの発言には聞き慣れない単語が含まれていた。
「きょ、強行手段!」
今度は自分の大声に驚く。
「これを見て下さい。」
受け取ったスマホを見て、落としそうになる。
画面には猿轡で喘ぐ、見知った顔が映っていた。
悶絶した声が今にも聞こえてきそうだ。
「これをSNSに載せて、お相手を紹介してあげようかと考えていたのです。
そうすれば私に構っている時間がなくなると思いまして。」
老獪な笑みから本気さを感じ取る。
「ちょ、ちょっと待って下さい。
ユーキには俺から言います。
二度と迷惑を掛けませんので、投稿は止めて下さい!」
テーブルに額を付けた。
(つづく)
風と雨は強まる一方で、傘は全く役に立たない。
誰かに相談したかったが、こんな恥ずかしい事を話せる相手はいなかった。
当然、タイチに相談出来る内容ではない。
ユーキに何度も電話をするが、繋がらなかった。
職場に電話して、体調が悪いと休みを貰う。
ホテルに行けばどうなるか、安易に想像出来た。
「ファイト!戦う君の唄を闘わない奴等が笑うだろう。」
自分を鼓舞しようと、CMで聞いた唄を口ずさむ。
事の始まりはユーキの不始末だ。
ジムでの三浦は紳士的だった。
忌々しい記憶が蘇る。
コンテスト経験者の見事な肉体に見惚れてしまった日を思い出す。
「トモヒラ君はコンテストを目指しているのですか?」
インターバル中の三浦はその視線を逃さない。
汗を拭きながら話し掛けてきた。
本名はキョウヘイだが、ジムや飲み屋ではトモヒラで通している。
「ええ、まあ…。」
見事な筋肉に気後れして、曖昧に答えた。
豆だらけの指がシャツの上から身体を触りだす。
「素晴らしい。骨太の骨格上に、しっかり筋肉が付いています。
上背もあり、将来性あります。」
褒められ、悪い気はしない。
「ありがとうございます。」
半分お世話だと思いながらも礼を言う。
「トレーニングパートナーはいますか?」
三浦はバーをガッチリ握り、股間を突き出す。
白いスパッツにペニスがくっきりと浮かび上がった。
「いや、いません。」
視線を逸らし、ボソッと答える。
「それはいけません。
独りでトレーニングすると、どうしても甘えが出ます。
追い込むにはパートナーが必要です。」
ブリッジした体勢でバーを持ち上げ、筋肉と股間を誇示した。
「コンテストまで、私がサポートしましょうか?」
バーを戻した三浦がベンチに横たわったまま誘う。
「えっ!いいんですか?」
半信半疑で聞き返す。
「ええ、勿論です。
トモヒラ君のやる気次第ですが。
私は将来有望な若者の手伝いをする事が生き甲斐なんです。
少し大袈裟ですがね。
自分の叶えられなかった夢を若い人に託したいのです。」
殊勝な誘いに全身が奮い立つ。
「やる気は誰にも負けません。
よろしくお願いします。」
差し出された手をガッチリと握った。
トレーニング後、三浦と合流する。
今後のトレーニングについて話したいと、待っていてくれたのだ。
居酒屋に入り、ビールを注文する。
「先ず出場する大会を決める事が大切です。
そのターゲットに向けて、筋肉をピークにもっていきます。
二兎を追う者は一兎をも得ずです。
ターゲットは一つです。」
饒舌な三浦が人差し指を一本立てた。
耳を傾け、何度も頷く。
経験談には重みがあった。
出場者に認められ、アルコールのピッチが上がる。
「トモヒラ君は兄弟がいますか?
とても似ている人を知っているので。」
二杯目のビールが運ばれて来たタイミングで話題が変わった。
「ええ、兄がいます。
ユーキといいますが、知っていますか?」
不安が胸を掠める。
「やはりユーキさんのご兄弟ですか!
本当に良く似ている!」
驚きの声が不安を増長させた。
「実はユーキさんの事で困っているのです。
弟のトモヒラ君には言い難いのですが…。」
案の定、困惑の表情が浮かぶ。
「ユーキが何か?」
金銭トラブルでない事を祈る。
「ユーキさんのトレーニングも見ているのです。
彼はあちらの方もかなり強くないですか?
毎晩のように私の家へ押しかけて来るのです。」
三浦は言葉を濁した。
「あちらとは?」
意味が分からず、聞き返す。
「セックスです。」
潜めた声だが、聴き間違いではない。
「…。」恥ずかしさで、言葉を失う。
「困り果ててしまって…。
こんな事はしたくないのですが、強行手段を行使しようかと考えていたのです。」
溜め息混じりの発言には聞き慣れない単語が含まれていた。
「きょ、強行手段!」
今度は自分の大声に驚く。
「これを見て下さい。」
受け取ったスマホを見て、落としそうになる。
画面には猿轡で喘ぐ、見知った顔が映っていた。
悶絶した声が今にも聞こえてきそうだ。
「これをSNSに載せて、お相手を紹介してあげようかと考えていたのです。
そうすれば私に構っている時間がなくなると思いまして。」
老獪な笑みから本気さを感じ取る。
「ちょ、ちょっと待って下さい。
ユーキには俺から言います。
二度と迷惑を掛けませんので、投稿は止めて下さい!」
テーブルに額を付けた。
(つづく)
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