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Chapter26(東京バトル編)
Chapter26-⑪【涙】
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昨夜、キョウヘイに帰れない旨を電話で伝えた。
「力になってくれそうな人と話し込んじゃって…、終電を逃しちゃったんだ。
ネットカフェで時間を潰して、始発で帰るよ。
ごめんな…。」
後ろめたさを感じながら、言い訳を口にする。
「そっか…、気を付けて。」
寂しげな声が返ってきた。
朝起きると、罪悪感に苛まれる。
『俺は何をやっているんだ!
恐怖に怯えているキョウヘイを独り残して!』
自分自身を責めるが、後の祭りだ。
隣で寝ているマサフミを起こさない様にベッドから出る。
「帰るのか?」
服を着ていると、背後から声がした。
「うん、始発に乗りたいんだ。
いろいろありがとう。」
振り返って、礼を言う。
「ちょっと待てよ。
まだ肝心の電話をしてないぞ。
朝飯食ったら、してみようぜ。」
慌てたマサフミがベッドから出て来た。
トースト一枚を食べると、食欲は満たされた。
「もう食わないのか?
身体が資本だから、きちんと食え。
戦う前に、自滅するぜ。」
マサフミがサラダを勧める。
「ありがとう。」
思い遣りが心に沁みた。
朝食を食べ終わったところで、マサフミがスマホを手に取る。
「じゃあ、掛けるぜ。」
流石に緊張の面持ちだ。
数コールで相手が出た。
「もしもし、俺マサフミ。
騒ぎ以来、連絡取ってなかったから、心配になってさ。
どこにいるんだい?」
マサフミがそれとなく聞き出す。
「新宿のホテルか。
なんか困ってる事ないか?
差し入れに持って行くぜ。」
居場所を繰り返し、ウインクした。
「分かった。
ウラさんのマンションに寄って、ポストの中の物を持って行くよ。
昼前には着くぜ。
ああ、904号室だな。」
マサフミは電話を切ると、立ち上がる。
「さあ、居場所が分かった。
出掛けようぜ。
先に寄る所が…。」
勇ましい掛け声を慌てて遮る。
「ちょ、ちょっと待ってよ。
これは俺の問題だ。
マサを危険な目には合わせられない。」
「何言ってるんだ。
ヤマトが一人で行って、三浦がドアを開けると思うか?
これも何かの縁だ。
一緒に三浦をやっつけようぜ。」
力強く抱き寄せられた。
新宿駅から10分程歩いた所に、目的のホテルはあった。
スーパーが開くのを待って、包丁を買う。
『脅すだけだ。
刺しはしない。』
自分に言い聞かす。
しかしホテルを前にすると、足が進まない。
『くっそぉ!意気地無し!』
不甲斐ない己に悪態を吐く。
汗ばんだ肌から、雄の饐えた臭いが漂う。
タケルとの情熱の証だ。
震える足を一歩、踏み出す。
その時、ホテルに入って行く、見覚えのある男が見えた。
『何故、ヤマトが三浦のホテルに?』
疑問が浮かぶが、このチャンスを逃がす手はない。
急いで後を追う。
ヤマトは付き添いの男とエレベーターに乗った。
そのエレベーターが9階で停まる。
『やはり三浦の所だ。』
そう確信すると、エイタも9階へ向かう。
焼けた手が904号室のドアをノックする。
「どなたですか?」
中からしゃがれた声がした。
手汗が止まらない。
「俺、マサフミ。」
ロックが外され、ドアがゆっくり開いた。
「マサ君、久し振りですね。
遠い所、ご足労をお掛けしました。
さあ、中へどうぞ。」
三浦が中に招き入れる。
「もう一人、客がいるぜ。入れよ!」
先に入ったマサフミが手招きした。
遅れて中へ入る。
浴衣姿の三浦は驚きの表情も見せず、にやけ顔で立っていた。
「おや、ヤマトさんではないですか!
懐かしいですね。」
大袈裟に両手を広げ、再会を喜ぶ仕草をしている。
丸で三文役者の様に。
「ふざけるな!今日はお前と決着を付けに来た。」
後ろ手でドアを閉め、啖呵を切った。
「これはこれは勇ましい。
のこのこと一人でやって来て、大口を叩くとは感動的です。」
おちょくる口調に混乱する。
「ひ、と、り?」
同じ単語をなぞり、焼けた顔を見る。
「悪いな。ちょいと金が必要でさ。」
マサフミは軽い調子で、両手を合わせた。
「そ、そんな…。」
注意力が削がれ、三浦が視界から消える。
その瞬間、後頭部に激痛が走った。
息が出来ない。
頭に手を伸ばすが、心がより激しく痛んだ。
涙で視界がぼやけていった。
(つづく)
「力になってくれそうな人と話し込んじゃって…、終電を逃しちゃったんだ。
ネットカフェで時間を潰して、始発で帰るよ。
ごめんな…。」
後ろめたさを感じながら、言い訳を口にする。
「そっか…、気を付けて。」
寂しげな声が返ってきた。
朝起きると、罪悪感に苛まれる。
『俺は何をやっているんだ!
恐怖に怯えているキョウヘイを独り残して!』
自分自身を責めるが、後の祭りだ。
隣で寝ているマサフミを起こさない様にベッドから出る。
「帰るのか?」
服を着ていると、背後から声がした。
「うん、始発に乗りたいんだ。
いろいろありがとう。」
振り返って、礼を言う。
「ちょっと待てよ。
まだ肝心の電話をしてないぞ。
朝飯食ったら、してみようぜ。」
慌てたマサフミがベッドから出て来た。
トースト一枚を食べると、食欲は満たされた。
「もう食わないのか?
身体が資本だから、きちんと食え。
戦う前に、自滅するぜ。」
マサフミがサラダを勧める。
「ありがとう。」
思い遣りが心に沁みた。
朝食を食べ終わったところで、マサフミがスマホを手に取る。
「じゃあ、掛けるぜ。」
流石に緊張の面持ちだ。
数コールで相手が出た。
「もしもし、俺マサフミ。
騒ぎ以来、連絡取ってなかったから、心配になってさ。
どこにいるんだい?」
マサフミがそれとなく聞き出す。
「新宿のホテルか。
なんか困ってる事ないか?
差し入れに持って行くぜ。」
居場所を繰り返し、ウインクした。
「分かった。
ウラさんのマンションに寄って、ポストの中の物を持って行くよ。
昼前には着くぜ。
ああ、904号室だな。」
マサフミは電話を切ると、立ち上がる。
「さあ、居場所が分かった。
出掛けようぜ。
先に寄る所が…。」
勇ましい掛け声を慌てて遮る。
「ちょ、ちょっと待ってよ。
これは俺の問題だ。
マサを危険な目には合わせられない。」
「何言ってるんだ。
ヤマトが一人で行って、三浦がドアを開けると思うか?
これも何かの縁だ。
一緒に三浦をやっつけようぜ。」
力強く抱き寄せられた。
新宿駅から10分程歩いた所に、目的のホテルはあった。
スーパーが開くのを待って、包丁を買う。
『脅すだけだ。
刺しはしない。』
自分に言い聞かす。
しかしホテルを前にすると、足が進まない。
『くっそぉ!意気地無し!』
不甲斐ない己に悪態を吐く。
汗ばんだ肌から、雄の饐えた臭いが漂う。
タケルとの情熱の証だ。
震える足を一歩、踏み出す。
その時、ホテルに入って行く、見覚えのある男が見えた。
『何故、ヤマトが三浦のホテルに?』
疑問が浮かぶが、このチャンスを逃がす手はない。
急いで後を追う。
ヤマトは付き添いの男とエレベーターに乗った。
そのエレベーターが9階で停まる。
『やはり三浦の所だ。』
そう確信すると、エイタも9階へ向かう。
焼けた手が904号室のドアをノックする。
「どなたですか?」
中からしゃがれた声がした。
手汗が止まらない。
「俺、マサフミ。」
ロックが外され、ドアがゆっくり開いた。
「マサ君、久し振りですね。
遠い所、ご足労をお掛けしました。
さあ、中へどうぞ。」
三浦が中に招き入れる。
「もう一人、客がいるぜ。入れよ!」
先に入ったマサフミが手招きした。
遅れて中へ入る。
浴衣姿の三浦は驚きの表情も見せず、にやけ顔で立っていた。
「おや、ヤマトさんではないですか!
懐かしいですね。」
大袈裟に両手を広げ、再会を喜ぶ仕草をしている。
丸で三文役者の様に。
「ふざけるな!今日はお前と決着を付けに来た。」
後ろ手でドアを閉め、啖呵を切った。
「これはこれは勇ましい。
のこのこと一人でやって来て、大口を叩くとは感動的です。」
おちょくる口調に混乱する。
「ひ、と、り?」
同じ単語をなぞり、焼けた顔を見る。
「悪いな。ちょいと金が必要でさ。」
マサフミは軽い調子で、両手を合わせた。
「そ、そんな…。」
注意力が削がれ、三浦が視界から消える。
その瞬間、後頭部に激痛が走った。
息が出来ない。
頭に手を伸ばすが、心がより激しく痛んだ。
涙で視界がぼやけていった。
(つづく)
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