妄想日記1<<ORIGIN>>

YAMATO

文字の大きさ
313 / 354
Chapter27(青春編)

Chapter27-①【希望の轍】

しおりを挟む
ユーキは柔道をやっていた為、骨折慣れしていた。
全治三ヶ月の診断だったが、10月に入ると固定帯は既に取れていた。
「あー、身体が鈍るな。
筋トレしたいよ!」
無精髭を生やしたユーキが伸びをする。
「これに懲りて、少しは自粛しろよ。
実の兄が発展公園でオカマ狩りあったなんて、恥ずかしくて人に言えないし。」
キョウヘイが苦情を口にした。
夏の事件以来、兄弟で居候状態だ。
ただキョウヘイは夜勤があるので、昼勤の時はユーキが自分のアパートに帰っていた。
「そんな事、人に言う必要ないだろう!」
膨らんだ頬を見て、腹を抱えて笑う。
「久し振りに二人揃ったんだから、喧嘩するなよ。
それより俺、引っ越そうかと思っているんだ。」
場が和んだところで、話題を変える。
「えっ!もしかして…、俺達が邪魔?」
ユーキの顔がどんより曇っていく。
「いや、逆だよ。
二人には感謝してるんだ。
だから、もう少し広い所に引っ越そうかと。」
ずっと考えていた想いを告げる。
「但し、二人がこの先も、一緒にいてくれればの話だけど…。」
二人の顔を交互に見ながら、付け加えた。
「そんな無理することないよ。
俺達は平気だよ。
なあ、キョウヘイ?」
ユーキは同意を求める。
「うん、まあ。」
下を向いたキョウヘイは曖昧な答えだ。
どう好意的に見ても、喜ばしい誘いではなかった様だ。
「でもさ、広い方がのんびり出来るし。
まあ、広いと言っても、タケルのマンションみたいにはいかないけど。
金なら、多少余裕があるしさ。
どうかな?」
提案の後に沈黙が続く。
「それなら、アパートを引き払おうかな。
その分、家賃に回した方が、豪華な所に住めるし。
キョウヘイもそうしろよ。」
気を遣ったユーキが前向きな意見を言う。
「そんな急に言われても…。
ちょっと考えさせて。
じゃあ、仕事に行って来る。」
キョウヘイはバッグを持つと、出て行った。
 
「あまり乗り気じゃないみたいだね。」
キョウヘイが出て行ったドアを見詰める。
「気にするなよ。
タイチとの事もあるからさ。
俺達二人で、話進めようよ。
で、どの辺に住む?」
ユーキは早速、賃貸物件のサイトをチェックし出す。
「近くにジムと、プールは必須と。
そうだ!公園も近い方がいい。」
独り言を言いながら片手でスマホを操る。
「普通近くに必要なのは、スーパーや銀行だぜ。」
ツッコミを入れ、ドアから視線を外す。
漠然と考えていた事だが、言ってみて良かった。
楽しげなユーキを見ていると、萎えた気分が上向きになる。
キョウヘイには金の心配はするなと、後で言おう。
そう考えると、少し気が楽になった。
「間取りはどうする?
三人で住むなら、やっぱ3LDKがいいよな!」
一緒にスマホを覗き込む。
間取り図に漂う先が垣間見えた気がしたのだ。
 
アパートを出たキョウヘイは溜息を吐く。
満月が町を照らしていた。
「明日から欠ける一方なのに…。」
憂鬱な気分で、メールを打つ。
『ヤマトさんが引っ越しを考えてる。
俺も一緒に住むように誘われた。』
事象だけを入力し、送信ボタンを押す。
『一体、いつまでこんな事を続けるんだろう?』
自問自答する。
いつもの事ながら、直ぐに返事は来ない。
最近、タイチとは疎遠だった。
始めの頃は塞ぎ込むキョウヘイを心配し、色々と気を遣ってくれた。
しかしそれが長引くと、次第と不満を口にする様になる。
会っても、詰まらぬ事で喧嘩ばかりとなった。
ネガティブな発言ばかりのデートに苛立ちを覚えたのだろう。
タイチが浮気している事は明白だった。
 
メール受信を知らせる着信音が夜道に響く。
『それは楽しそうですね。
トモヒラ君も是非、引っ越ししなさい。
一緒に暮らせば、情報量も増えます。
引っ越し先が決まり次第、知らせなさい。』
三浦からのメールを読み終わると削除する。
本当は非番の日だった。
何ひとつ楽しい事がない。
唯一の希望はユーキだった。
兄弟二人で小さな店を出して、のんびり暮らしたい。
そのために無駄遣いはせず、こつこつと貯金している。
気が付くと、街灯もない川沿いの道に出ていた。
満月を厚い雲が覆い、辺り一面が真っ暗になる。
自分のアパートに帰る気にもなれない。
キョウヘイは真っ暗な闇をさ迷い歩いた。
 
 
(つづく)
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

今度こそ、どんな診療が俺を 待っているのか

相馬昴
BL
強靭な肉体を持つ男・相馬昴は、診療台の上で運命に翻弄されていく。 相手は、年下の執着攻め——そして、彼一人では終わらない。 ガチムチ受け×年下×複数攻めという禁断の関係が、徐々に相馬の本能を暴いていく。 雄の香りと快楽に塗れながら、男たちの欲望の的となる彼の身体。 その結末は、甘美な支配か、それとも—— 背徳的な医師×患者、欲と心理が交錯する濃密BL長編! https://ci-en.dlsite.com/creator/30033/article/1422322

処理中です...