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8:こんなこともあろうかと

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 細く短い手足を、効率的かつ規則的にちょこまかと動かし、ミオは外に出ようと扉へ向かう。



 メイドの一人が制する。



「お嬢様、まずは御着替えをいたしましょう。寝巻では見苦しいですよ」



 メイドに言われて、ミオは自分を見る。フリル付きの薄い布でできた寝巻姿をしていた。



 確かに、外に出るには不適当だ。



 何せ、外の状況は分からない。寒いのか暑いのか、危険な動物――特に盗賊や横柄な官憲――の有無など、知らぬことばかりだ。



 最低限の防具でもある服には、気を使うべだろう。



 ミオが思案するや、メイドたちは部屋に併設されているクローゼットの扉を開ける。



「外出着は、多数用意がございます」



「黒から漆黒まで、なんでもございます」



「銀で作られた装飾品に、白粉も口紅もございます」



 メイドたちは嬉々とした態度で、似たような色やデザインの服や装飾品でいっぱいのクローゼットを体全体で示した。


 
 ひたすら黒く、無駄に多くのフリルがついたドレスが並んでいる。大小のドクロと、生命に対する冒涜を表現しているかのような動植物をあしらった装飾品の数々が、不吉な輝きを放っていた。



 肌に塗りたくる白い粉、他の色を際立たせる口紅などの化粧品や香水、化粧道具も姿見の前に並べられていた。

 

「「「お嬢様お好みの道具も、そろえて御座います」」」



 クローゼットの奥には、なにやら突起の多い呪具のような物体が、散見していた。



 色もやはり黒と銀の組み合わせだ。



 執念を見出したミオは感じ入った。



 その意気やよし。ミオは姿見の前に立つと、薄い胸を張り腕を振るう。



「任せる。用意しろ」



「「「ははっ!」」」



 メイドたちは、将軍を前にした武士のように平伏した。



 幕末の長州で殿様でもしていそうな態度のミオと、欧風な世界感に似合わぬ礼儀正しさを見せるメイドたちだった。



 偉そうに顎を上げる小さな主人と、奇妙な動きをする三人のメイドたちを目の当たりにしたハイテは、野蛮人の儀式を見る傲慢な文明人のような心持となっていた。



「どんな主従関係だ」



 メイドたちはハイテの独白を無視しつつ、効率的な連携でミオを着飾るべく動き出す。が、直後、ミオのツッコミが入る。



「で、ハイテよ。いつまで部屋にとどまるつもりなのだ? お前には人の、それも少女の着替えを除く趣味でもあるのか?」



 淑女が着替えようとしているのに部屋から出て行かないハイテに対し、ミオから当然の指摘がなされた。



 途端、ハイテは眉間に深いシワを作って、不満をあらわにした。
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