ヘタレ王太子と人質花嫁

寿里~kotori ~

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愛という狂気

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 ダイアナ女王陛下の許可が出たので、正式に王太子コクトーの父ミモザ殿下が東宮にやって来る。ミモザ殿下は東宮にコクトーの弟妹も同伴させているので賑やかなことになるだろう。

「コクトー! 舅殿……ミモザ殿下は日頃から王婿として色々と大変でお疲れだろう? 少しでも東宮でリラックスしてほしい」

 ナナはモモに頼み込んで、ミモザ殿下とコクトーの弟妹たちをおもてなしするために特別な品を取り寄せていた。

「俺の祖国では主流な白樺の葉を使った茶を用意した! 北は寒いから白樺の茶は健康維持には必須!」

 モモが独自のルートで入手したので、ミモザ殿下が飲んでも心配ないとナナは笑っている。コクトーとしてはナナが嫌がらずミモザ殿下たちの来訪を喜んでいる姿を見るのが嬉しかった。

「ナナが僕の家族を歓迎してくれて嬉しいよ。ミモザ父上や弟妹たちも喜んでくれる」

 ヘタレではあるが聡明なコクトーは父ミモザのずば抜けた賢さと外交力を知っている。北の大国の第4王子であったナナが輿入れしてきたのも父ミモザの計略で、他国との力関係や交渉に有利だからコクトーにナナを娶らせたのだろうと読んでいた。

 容姿は父と息子でクリソツなのにコクトーは父ミモザが苦手というよりは怖かった。

(お優しいミモザ父上だけれど何をお考えか僕にはわからない。ナナを北の大国への人質にしているなら。僕はミモザ父上を許さない!)

 王太子としてコクトーは全力でナナを守りたいが、親子なのにミモザ殿下の腹が読めず、悔しかった。

 そんな王太子コクトーの心情を誰よりも理解している存在はコクトーの教育係であるモモだ。

 モモはミモザ殿下の側近でもあるので、ミモザ殿下はコクトーが考えているような冷酷な策士でないことは知っている。ミモザ殿下はたしかに賢いが、その慈愛の心から真に残酷な決断を下せない。

(ナナやその姉姫を助ける理由だって本来はなかった。放っておいてもナナの祖国は内乱で自滅しただろうからな)

 それでもミモザ殿下が敢えて危険を覚悟で北の大国からナナを助けたのは計略もあるが、もっと単純な動機だろう。

(ミモザ殿下はおそらく単純にナナの命を救いたかった。14歳の王子が内乱の巻き添えで死ぬのを看過できなかっただけ)

 ナナの姉姫を救って極秘で王宮の西の離宮に匿っているのも外交カードというよりはミモザ殿下の慈悲だ。

「コクトーは誤解してんな。本来のミモザ殿下は狡猾さとは無縁の優しいお方。それが結果的に外交を有利に進めているだけにすぎない」

 コクトーたちには聞こえないようモモが呟くとそれを聞いていたマックスが同意するように頷いた。

「ミモザ殿下はシルバー家に縛られていたモモ様を直々に側近にしました。ミシェル様が亡くなって気落ちしていたモモ様をコクトー王太子の教育係に任命したのもミモザ殿下です。普通ならそこまで温情をかける必要はない」

 マックスの言葉にモモは苦笑いすると首肯してみせた。

「そういうお方だからダイアナ女王陛下はミモザ殿下を心から愛する。でも、コクトーにはそういうミモザ殿下の真意は伝わっていない」

 コクトーにとってのミモザ殿下は実父だが、狡猾でなにを考えているかわからない畏怖すべき存在であった。

「そういう誤解が此度の東宮来訪で解けてくれたらいい」

 そんなふうにモモが切に願っているとマックスが静かに告げたのだ。

「思春期の子が親に反発は立派な反抗期です。コクトー王太子はそういうお年頃なのでしょう。それは、ドヘタレだった王太子が心身ともに成長している証です」

「そうだな。マックスの言う通りだ。コクトーは立派な王太子だ。賢い子だからミモザ殿下の気持ちもいずれ理解してくれる」

 モモの言い方はまるで我が息子を案ずるようである。マックスはそういうモモの愛情深さが大好きだった。辛辣だが、モモは大切な存在に対してはとことん親身になる。ミシェルがモモを最も愛したのもそんなモモの美しい心に惹かれたからだろう。

(そんなモモ様の負担にはなりたくない)

 決意をかためたマックスはソッとモモの傍らに近づき耳打ちした。

「もう好きでもないヤツと遊ぶのにも飽きました。私生活は改めるのでモモ様とずっと一緒がいいです」

 それだけモモに願うとマックスはコクトーとナナの許に行ってしまった。残されたモモは少年期から自分を一途に慕ってくれたマックスの誠意に感謝しながらもマックスのこの健気な願いを受け入れていいものか悩んでいた。

「それがマックスの決断なら俺に止める権利はないな」

 マックスがいくらモモに想いを寄せても、亡きミシェルだけを愛しているモモはそれを受け入れることはできないのだから。

 それでもマックスがモモの側にいたいと願うならば自由にさせてやろうとモモが腹を決めようとしていたら不意に東宮の侍従が駆け込んできた。

「申し上げます! リデル王子が東宮の門前でお待ちです! マックス様に用があると。薔薇の花束を持って!」

 ミモザ殿下たちが到着前にリデル王子が先回りして東宮にやって来た。

「追い返せ。ミモザ殿下が正式に東宮にご来訪されると知っていて押し掛けたリデル王子の行動は王太子への無礼にあたる!」

 モモが顔を険しくして侍従にそう命じていると様子を伺っていたコクトーが口を挟んだ。

「追い返さないで! モモ。僕はリデルを無礼とは思わない。リデルはマックスと話したいだけ。東宮の主人として門前払いは禁じる!」

「モモ。俺もコクトーの意見を支持する! リデル王子は無礼を承知で来たんだ。そんなリデル王子の行動を舅殿……ミモザ殿下が知らないはずはない」

 コクトーとナナはあくまでもリデル王子を東宮に迎えるつもりだ。それにモモが反論しようとした瞬間、マックスが部屋を出ていこうとした。

「東宮ではなく門前で俺がリデル王子と話せば済むことです。大袈裟にしないでください」

 それだけ言い切るとマックスはリデル王子が待つ東宮の門前に行ってしまった。

「コクトー。引き続きミモザ殿下たちを歓迎する準備をするぞ!」

 威勢のいいナナの口調にコクトーは笑顔で応じると何事もなく父ミモザと弟妹たちを迎えるための支度に戻った。

「まあ! たしかにマックスとリデル王子の問題だからな! 勝手にやってろ! 俺も準備を手伝う」

 なるようになれと、モモは半ば開き直り、コクトーとナナの許に近づき、毅然とモモに意見したコクトーの頭をクシャリと撫でた。

「弱虫なコクトーが俺に意見とはいい度胸だな! 俺が殴るたびに泣いていたのに!」

 茶化すモモの顔を見ながらコクトーは真剣な表情で言った。

「僕にとってのモモは父上同然だよ。辛辣で怖いし厳しいけど尊敬してる。ミモザ父上と同じくらい!」

 やはりコクトーはミモザ殿下を畏怖する気持ち以上に父親として尊敬していた!

 あんなに気弱だったコクトーをここまで成長させたのはモモではなく計略で嫁いできた王太子妃ナナだということがモモには身に染みてわかる。

「ナナ。コクトーの花嫁でいてくれてありがとう。これからもコクトーをよろしくな」

 目に涙をにじませながら声を絞り出すモモに向かってナナは快活な笑顔で告げる。

「モモって涙もろいな! 俺にとってもお前は父上同然! だから泣くな!」

 忖度ない明るい笑顔のナナを前にモモはひたすら泣くのをこらえた。


――

 マックスが東宮の外にでると薔薇の花束を持ったリデル王子が待っていた。

「まだ寒いのに外にずっといては風邪をひきます」

 明らかに凍えているリデル王子を心配したマックスがとりあえず東宮のなかに入れようとするとリデル王子は拒否して、薔薇の花束だけを渡した。

「嫌なら捨ててくれてかまわぬ。用は済んだから退散する」

 本当に花束だけを渡して立ち去ろうとするリデル王子だったが、長時間、寒い外にいたのがこたえたらしくフラりと倒れ込んだ。

「リデル王子!?」

 流石に動転したマックスが抱き起こすと、リデル王子は震えていて、高熱を発している。

「東宮まで運びます! 誰か! ステフを読んでくれ! あと、寝床の支度を!」

 マックスが命じると門兵たちはあわてて東宮のなかに去った。

 震えるリデル王子を抱きしめながらマックスは悔しそうな、それでいてどこかあきらめた口調で言ったのだ。

「馬鹿ですか? 俺にそこまでする価値はどこにもないのに!」

 言いながら泣き出したマックスに対して意識が混濁しているリデル王子はか細い声で微笑んだ。

「私は気がおかしくなるくらいマックスが好きだ。全部、私の狂気の身勝手」

 そう告げると意識を失ったリデル王子を抱えながら、マックスは涙が止まらなかった。

 気が変になり、高熱をだすほど自分を好いてくれるこの哀れな第2王子の気持ちに応えないと絶対に後悔する。まだ年端をゆかぬリデル王子がマックスを生涯愛してくれる保証なんてどこにもない。

「でも、保証なんて関係ない! 身勝手な俺をリデル王子は好いてくれた」

 涙を拭いてリデル王子を担いで、東宮に入ると、モモが待っていて用意された病室に案内してくれた。

「ミモザ殿下には俺が伝える。マックスは無理しない程度にリデル王子に付き添え。リデル王子は回復するまで東宮で静養させる」

 モモは事務的にそう告げるとマックスにリデル王子を託して、部屋から出ていった。

 高熱にうなされるリデル王子を介抱しながらマックスは思っていた。

(おそらくミモザ殿下は故意にリデル王子が寒空のなか東宮に行くことを見逃した)

 それが親心なのか策略なのかはわからないが、リデル王子が回復するまでミモザ殿下たちは東宮に来ることを見合わせるという。

 幸いにもリデル王子の熱は解熱剤で下がったが、寒い風に吹かせたせいか凍えている。このままでは心身が冷えきりリデル王子が死ぬのではと案じたマックスは少し悩んだが、決意してリデル王子が横たわるベッドに入った。

「これは性行為ではなくて単なる介抱だから」

 そうやって言い訳をしてマックスは震えるリデル王子の身体を優しく抱きしめた。

 そうして抱きしめているうちにマックスも眠ってしまい、静かになった病室を覗いたモモは、苦笑いした。

「マックスがこんなに無防備に寝てる顔を見るの久々だな」

 愛し合う恋人どうしのようにベッドで抱き合って眠るマックスとリデル王子を見届けると、モモは心配そうに右往左往していたコクトーとナナに声をかけた。

「もう心配ない。リデル王子もマックスもな!」

 熱もひいたし、少し安静にしていればリデル王子は完治すると知ったコクトーは安堵のためか息を吐いた。

「無事でよかった。マックスの迅速な判断のお陰だ」

 マックスが無視していたらリデル王子は風邪をこじらせて命が危うかった可能性がある。弟が死ななくてよかったと涙ぐむコクトーを抱きしめながらナナはモモに訊いたのだ。

「マックスはリデル王子に恋をしたのか?」

 ナナのその問いにモモはニヤリと笑いこう答えた。

「まだまだ始まりだ。恋愛のお楽しみはこれからなんだよ!」

 ベッドで目覚めたリデル王子は自分を抱いて眠るマックスの顔を見て、こう錯覚した。

「私は死んだのだな。神様が私に憐れみを示して幻をみせてくれた。これは2次元の世界だ」

 普通に3次元なのだが、マックスに抱きしめられてベッドにいるなんてリデル王子にとっては2次元を超越して、神イベントであり現実性はない。

「神の慈悲に感謝して私は召される」

 召されないようにマックスが介抱しているのにリデル王子は昇天する気満々だ。

 するとリデル王子を抱きしめながら眠るマックスが寝言をもらした。

「ん……。ダメです。モモさま……」

………

「あ! これはリアルな世界だな!」

 マックスの寝言を聞いた瞬間にリデル王子はこれは現実だと即決したという。


【続く!】





 
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