天使

寿里~kotori ~

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天使

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俺の職業は死神・・・職務はもっぱら死んだ人間をあの世につれてくこと

求人広告で大量に採用募集していたので、いつまでもフリーターしてると親がうるさいし応募したら即採用された。

「この仕事は単なる運搬作業なので死んだ人間は納品する物と考え私情は交えないこと。簡単なんだけど結構これが出来なくて辞めたり、職務違反して解雇される子が多くて困ってたんだよ」

俺が配属されたエリアの責任者がそう嘆く通り、死んでいく者に妙に感情移入してしまい3日か1週間でバックレたり、クビになる同期も多かったが俺は死人なんてどうでもよかったので仕事は順調で責任者からも信頼され早くも独り立ちして死者を迎える役目を任された。

「はい、今回の担当だよ。前回までは先輩と一緒だったけど君ならもう安心だからヨロシク」

指示書を確認すると以前も訪れたことがある病院だったので俺は死者の死亡予定時刻を記憶して少し早めに仕事先の白い巨大な病院に向かい人間には視えない事をいいことに早めに今夜死者が出る小児病棟をフラフラしながら担当する死亡予定者の傍に近づくと昏睡状態で寝ていた子供の瞳がふわりと開き俺に声をかけてきたのでビックリした。先輩から聞いたが稀に子供の死者にはこちらが見えることがあるというが本当のようだ。

「ねえ・・・お兄さんは・・・僕を連れてくの?」

なかなか物分かりの良い子供に俺が頷くと子供はゆっくりと看病と泣き疲れでうたた寝している父親らしい若い男を見て奇妙な事をお願いしてきた。

「パパは僕が病気になって疲れきってる・・・ママとも口をきかなくなってるんだ・・・お兄さん、僕が死んだらパパを慰めて・・・お願い」

死亡予定時刻が近づいてきたので俺は死者にちょっかいを出すのは御法度だが死者の遺族の様子を1回くらい見る分には職務違反にはならないだろうと判断して返事をした。

「いいぜ。お前はもうすぐ死ぬけど俺が責任もって天に連れてくからな」

「ありがとう・・・おにい・・・さんは・・・天使さま・・・だね」

いや、死神死神!!と訂正する間もなく子供の容態が急変して微睡んでいた父親が飛び起き医者や看護師、母親らしき女も駆けつけたが俺は冷静に子供の魂を運搬用の小箱に入れると素早く病院を去った。

「御臨終です・・・」

の言葉の後に誰かの泣き叫ぶ声が聴こえたが構わず撤収したのだ。

無事に納品を終えた俺は数日間の有給を使い律儀にも、あの死んだ子供の約束を少し守り子供の父親の様子を見守ることにしたが父親は子供を弔うと再び何事もなく働き、生活しており若干拍子抜けした。一方の母親はそんな夫を冷やかに見詰め四六時中、死んだ我が子の写真に話しかけ続けている。

「こりゃ、離婚は秒読みだな」

そんなことを呟きながら俺は父親の様子を何気なく見ていたら違和感に気づいた。

誰もが気遣うのに微笑む彼を周囲は気丈だと褒めるが俺には分かる。子供の父親は笑っているが目にまったく生気がなく魂をどこかに置き忘れたように瞳に何も映していないのだ。

誰もそれに気づかない・・・妻でさえ子供が死んでもヘラヘラしてると叫び怒鳴り散らすが彼は微笑んだまんまだ。

俺の有給の最終日に遂に妻が出ていった。

それでも、あの父親は少し困ったように笑ったまんま何事もなくしている。

「こりゃダメだな・・・心が悲しみで麻痺してる」

有給が終わったので俺はうしろ髪引かれながらも子供の父親から去ったが何となく気になり、それ以降、仕事のついでに様子を見るのが習慣になり早めに仕事場に行くふりをして彼を見守り続けた。そんな状態がしばらく続いたある日、エリアの責任者に俺は呼び出され、ある指示書を差し出された。

「おめでとう。君は真面目だから今度の仕事が成功すれば昇給できるよ。頑張ってね」

昇給という言葉に心が踊って指示書を見た俺は思わず声をあげてしまった。

「彼が・・・・・・?」

「そう、今夜自殺するからよろしく。言ってなかったけど死神である君が彼の傍でウロウロしたから彼はますます死にとり憑かれた・・・まあ、これも彼の運命だから気にしない気にしない」

俺のせいで彼が死ぬ・・・・・・

呆然とする俺に責任者は不気味なほどニッコリ笑って忠告した。

「言っとくけど自殺を止めたり妨害行為をしたら君は解雇はもちろん処罰される。業火に焼かれて存在そのものが消えるから慎重に行動してね」

責任者の忠告に俺は生返事をするとフラフラと事務所を出て何度も通った彼の家に向かった。
自殺予定時刻ギリギリまでは家への侵入が禁止され俺はようやく身体が家のなかに入れるようになるとリビングに薬が散乱して白い顔をした男が倒れている。

「何も考えるな・・・考えるな・・・はやく魂を回収しないと・・・」

間近で安らかな顔で死んでいる男から魂を回収すると俺はどうしても我慢できず真っ白な男の唇にキスをした。

さっきまで生きていたであろう温もりが俺をより一層虚しく苛んだ。


あの魂を納品してすぐに俺は死神の仕事を辞めた。

周りからは説得されたが俺は二度と無感情に魂を運ぶことができそうにない。

しばらく無職でぷらぷらして家にいたら、ある日突然に前職のエリア責任者が訪ねてきて驚く俺に手紙を差し出した。

「これは君が固執した男の遺書の写しです。君に読ませたくて無理に持ってきました」

その言葉に慌てて封筒に入った便箋の文字を読むと、そこには最後にこう書かれていた。

(幻かもしれないけど僕をいつも見守ってくれた天使様がいました。見えないふりをしてたけど僕は彼が見ていてくれてどんなに救われたか・・・ありがとう)

自然と俺の目から涙が流れるのを責任者は静かに見守っていたがやがて俺にある提案をしてきた。

「実は今度ヘッドハンティングされて魂を転生させる会社で役付きになります。君を部下にしたいけど承諾してくれますか?」

そんな話の末に俺は何とか転職できて現在は魂転生の仕事を続けている。

最初に俺が転生を任されたのは彼の魂だった・・・


淡く優しく光る魂に俺は少しだけ触れると誰にも聞こえないよう語りかけた。


「俺の幻の恋・・・いつかまた逢えたら・・・」

俺の言葉が終わらぬうちに魂は消えて一瞬彼の笑顔が見えたような気がしたが俺は首をふり残りの仕事を続けた。


end







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