お薬手帳

寿里~kotori ~

文字の大きさ
1 / 1

お薬手帳

しおりを挟む
薬がきれた・・・今夜は眠れないので夜間だが病院に行くことにした。

「いってきます・・・」

返事する者はいない・・・家族はもう僕を家族とも人間とも見ていない。年金も払えないゴミ、できれば可燃に出したいと思っていることは明白だ。

僕も昔はこんなではなかった。

元気でヤンチャで友達も沢山いて女の子にも何回か告白された・・・そんなキラキラした子供時代なんて過去で現在の僕は大卒でなんとか入った会社を先輩との不仲が原因で鬱病になり、そのまま退職した。

僕は悪くない・・・なのに先輩を非難する者も僕を気遣う同期も皆無だった。

「自業自得」

そんな風に一部の同期からは笑いながら囁かれていた。

僕は元気でみんなの人気者だったはずなのになんで、そんな僕をみんなが否定するのか訳が分からなかった時に病院への道を歩いていたら中学の同級生を遠目で見たが知らん顔された。妻にベビーカー・・・理想の大人の構図だ。アイツは中学の頃は気弱で僕は何度もからかって遊んだ。遊んでやったのに無視なんて酷い。

ふらふらと道を歩いていたら病院に到着したが本日の診療は終わりだと医療事務が告げたので僕は怒って薬が欲しいと駄々をこねたら奥から聞き慣れない声がした。

「特別に診療しますよ。どうぞ1番診察室へ」

その声に導かれて1番診療室に入ると普通の診察室に似合わない奇妙な人物が座っている。

カラフルなピンクの髪に瞳も派手な赤色になんと頭には鬼か魔物のような角が生えている。

「どーも、私は精神科医でもカウンセラーでもない。貴方の罪状を知らせに来た使者です。これから簡易的に貴方の裁判をします。終わるまで病院からは出られないのでよろしく」

「僕の罪・・・僕は苦しんでいるんです!!会社で先輩に虐められて・・・バカなことは言わないで薬ください」

何かの冗談だろと思い詰め寄る僕に角の生えた男は「ふんふん」と頷いてメモをしている。

「一方的な加害者意識・・・貴方は教育係の先輩が貴方の為に朝も早く来て貴方へのマニュアルを作成していたこと、ご存知ですか?なのにろくに読まず指示を無視してコピー用紙を無駄にしたり頼んだ仕事を忘れたのに報告しなかったり・・・先輩は貴方がいない方が仕事がはかどるけど貴方を思ってあれこれ注意してましたよ。それを貴方はパワハラと騒ぎ立てた・・・先輩に同情します」

笑いながらも目はまったく笑っていない奇妙な男の言葉に僕は反論した。

「でも!何かあるとすぐに注意ばかりで僕も疲れたんです!!」

「貴方さ~注意する立場の気持ち分かる?ほんとはバカな無能なんて放置したいんですよ。先輩は貴方を放っておけず嫌われるの覚悟で注意してました。叱るって苦痛なんですよ。貴方がパワハラパワハラと触れ回るから先輩も相当に辛かった・・・自己中の最悪の例ですね」

「アンタは何をしたいんだよ!!俺は患者・・・」

「はい、怒らない。言っときますが、その自己中な性根を改めないと薬のんでも同じです。貴方が病んで心配してくれた友達はいますか?恋人は?家族は?遠巻きに見られて孤独・・・それが貴方の性格がもたらした結果です」

次々と絶望的な核心を突いてくるピンク髪の男がニッコリ笑い僕を見て言った。

「私は責めてはいませんよ。経過と確認をしてるだけです。人気者と勘違いして残酷なことをする人間ってわりと多いですから・・・貴方は中学時代に気弱な生徒をからかい、ふざけて机にゴミを置いた・・・ゴミを置かれた生徒は今は家庭があり1児の父で貴方は無職で病気・・・楽しいですね!」

「楽しくなんかない!!これ以上、バカなことを責めるなら帰ります!!」

「いいですよー!私もだいたいのデータは取れたので・・・お大事に~」

医療事務から薬を引ったくると僕は病院を出たが、思えば今は夜中の2時だ。病院がやっている時間ではない・・・家に帰り、今日病院で処方された薬を飲むと不思議な夢を見た・・・中学の頃の自分が弱い生徒のイスにわざと腰かけ、その生徒が来たのに立ち上がらない夢、こぼした給食をわざと置いた夢、クラスのゴミランキングでゴミを机に置いた男子生徒の名前を黒板に書いた夢・・・

僕は楽しそうに笑っているが皆が僕を見る視線は軽蔑と憎悪・・・僕は人気者だったはず・・・皆が楽しそうに笑うからやっていただけなのに

連日のようにそんな夢を見て僕は薬が怖くなり、ますます情緒不安定になり家で暴れるようになり家族に病院に入院させられた。

「はーい!銀河メンタルクリニックへようこそ!!大分、弱ってますね~いい傾向です」

押し込められた病棟に現れた医者はあの夜の不思議な男だ。

「なぁ・・・僕は助かるのか?」

「う~ん・・・反省より自己愛が先だから当分はダメですね。僕は貴方の最低で無様な様子にとことん付き合うので遠慮なく弱ってください!!でないと貴方に傷つけられた人達の悔しさが晴らせません」

こうして僕は現在は銀河メンタルクリニックにいるが誰もお見舞いに来ない・・・両親さえも

夜は自分の笑顔とそれを見詰める憎しみの視線に苦しめられ叫んでも、暴れても誰も来てくれない。

そんな日々がしばらく続いた、ある日のこと僕に面会人が訪れた。前の会社で確執があった先輩だ。

「入院したって聞いて・・・今さらだけどゴメンな。俺の言葉が足りないせいで君を傷つけてしまった」

頭を下げて詫びる先輩に僕はゲッソリした顔で問いかけた。

「僕がいて迷惑でしたか・・・?」

「違うよ。俺の後輩指導が下手だったんだ。君が心配でついつい干渉した。迷惑だったのは俺だよ」

そう謝る先輩に僕は何も言えず泣き出すと先輩は優しく泣く僕の頭を撫でて言った。

「君は俺が初めて任された後輩だったんだ。だから、何があっても君だけの責任じゃない。俺も同罪なんだよ。色々あったけど俺は君の事が心配だし自分を大事にしてほしい・・・また、話そう」

そう微笑んで先輩は帰って行ったので僕が放心していると、ピンク髪の主治医が顔を出した。

「どうです、優しい人ですね。貴方のやるべきことは分かりますか?」

その言葉に僕はベッドからとびおりて帰るために病院の出口に向かっていた先輩に駆け寄った。

「先輩・・・色々とご迷惑かけて、不愉快な思いをさせてすみません!!」

先輩の手をにぎって叫ぶ僕に先輩は優しく笑うと言った。

「俺への謝罪は十分だ。今日を大切に生きて・・・君はもう大丈夫だよ」

それだけ言って手を振って去っていく先輩を見送っていた僕のそばに、いつの間にか主治医がおり笑顔で言った。

「明日、退院です!」

それから僕は銀河メンタルクリニックを退院して再就職活動をしてなんとか勤め先が決まった。

通院と薬も必要なくなり実家を出て独り暮らしだが先輩とは度々、家飲みしたりで会社にいたときより仲良くしている。

今日は先輩の自宅で飲む約束なので僕は仕事を早く終わらして先輩のマンションのチャイムを押してドアをあける時に冗談で行ってみた。


「ただいま・・・」


end
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

美澄の顔には抗えない。

米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け 高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。 ※なろう、カクヨムでも掲載中です。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

処理中です...