花嫁と貧乏貴族

ことぶき

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幸せな出逢い

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リンの機転とモモの天性のギャンブルの才能によって資産を増やしたラン・ヤスミカ家は次男ユーリとリンが暮らすための別邸を増築した。

リニューアルされた本邸にはユーリの両親と兄夫婦と甥っ子と姪っ子が変わらず住んでいて執事のトーマスが付き従う。

新しい別邸…ユーリとリンの新居には当然だがラン・ヤスミカ家の若夫婦ユーリとリンが主として暮らし、領地の学校の先生に転職したリンの異母兄ミシェルとその愛人というか内縁の妻のような存在の少年モモも居室を持っている。

そして、別邸の執事はモモがスカウトしてきた賭場のならず者だったシオン。

シオンの手下だった者たちは本邸と別邸それぞれに配属されて働いている。

ラン・ヤスミカ家の人々は他人を差別をしないというより素晴らしくおおらかで大雑把な性格なのでミシェルが美少年大好きでもOKであり、モモが前科少なくとも14犯くらいあっても気にせず、シオンたちが元裏賭場のならず者でも受け入れる。

寛大を軽く越しているが、そもそも、神経質な一族だったら次男坊に美少年でも男子の嫁がきた時点で嫌がるはずだ。

面倒な事態を見抜く能力は高いのだが、最終的には「まあ、なんとかなる!」で済ます家系である。

軽く触れたが、数百年前のラン・ヤスミカ家当主は漆黒のドラゴンとか右腕に秘めている自称黒天使の申し子だったようなので戦争ボロ負けしても「俺ら黒天使の申し子だし。なんとかなる!」とか考えていた可能性もある。

楽天的な一族なのでユーリに嫁いだリンも居心地が良かった。

今日もユーリが留守中にリンは兄嫁フィンナと縫い物をしながら楽しく喋っていた。

ちなみにミシェルが学校で仕事中はモモも基本はリンの傍にいる。

フィンナは領内のご婦人たちと親しく、世間話のネタは尽きない。

「リン様。モモ様。牧場の奥さんのお話なんだけどスゴいのよ!ご主人が奥さんに告げたの。奥さんの貧乳に惚れてたって!ご主人。毎日牛の乳搾り過ぎて嫁は貧乳が良いって決めてたみたい!愛よね!?」

「フィンナ義姉上。なんで牧場のご主人は唐突に奥さんの貧乳が良いなんて告白したのですか?タイミングが理解できません」

「牛の乳搾りし過ぎて貧乳好きになるは完全な職業病だな」

こんなほのぼの系の会話をしながらリンもモモはフィンナに家事を教わり、少年なのに花嫁修業している。

モモは生来器用なので手縫いでミシェルの着るものなども問題なく作れるが、リンは教わってもユーリにピッタリの衣装が作れない。

聡明なリンでも実家のシルバー家で裁縫は教わっていないからだ。

「縫い目が揃わない。刺繍って難しい」

リンがため息を吐くとフィンナが微笑みながら言った。

「リン様。焦ることないわ。心を込めて縫えば上達するものよ」

フィンナに励まされるリンのとなりでモモは黙々と刺繍を仕上げていく。

その腕前は玄人裸足なのでリンとフィンナが驚いているとモモが針をとめずに語った。

「俺の母親はお針子でした。途中から売春婦に転職したけど。結局は売春婦も辞めて男と逃げた」

それだけ言うとモモは縫い物の続きをした。

リンがなにか声をかけようとした瞬間にフィンナが笑顔でモモに囁いた。

「私も少し似てるわ。母に捨てられたの」

唐突な過去暴露にリンとモモが顔をあげるとフィンナが穏やかに言葉を紡いだ。

「私の実家…もう実家とは呼べないけど…ラン・ヤスミカ家と親しい貴族でね。お父様と結婚した母は屋敷の従者と逃げちゃったわ。私を産んですぐ」

母親の不倫でフィンナは不義の子と認定され、実家で冷遇されてしまった。

「見かねたラン・ヤスミカ家の先代当主様…エセルとユーリのお祖父様が私を引き取ってくれた。エセルの許嫁として」

つらい思い出を笑顔で語るフィンナを見て、リンは少し立場は異なるが自分も似たような境遇だと思った。

リンは実母ではないがシルバー家当主夫人のローズに大切に育てられ、異母兄姉も優しくしてくれた。

他家が心配するレベルなのだからフィンナは相当に実家で苦しい思いをしていたのだ。

静かになった部屋でフィンナはクスクス笑うと朗らかに言ったのだ。

「変なことを話してごめんなさい。私は母というよりは実家に捨てられたけど幸せよ。ラン・ヤスミカ家の皆様は私を本当の家族のように接してくれた。実家で育つより幸運だったと思うわ」

フィンナのこの言葉にモモはポツリと「俺も似たようなもんだ」と答えた。

縫い物のあと、リンはシルバー家のローズ夫人や異母兄姉に手紙を書くことにした。

思えばリンがシルバー家で形見の狭い暮らしをしないで済んだのはローズ夫人の優しさが大きい。

そしてミシェルをはじめエドガー、シンシア、ジャンヌという異母兄姉4人が庶子のリンを疎まず、憐れまず、本当の弟として愛してくれたからだ。

リンは自分はシルバー家の慈悲と憐れみで生かされていると信じて成長した。

父であるシルバー家当主はリンの賢さは認めたが、父親としての愛情を示してくれることはなかった。

その代わりに嘘偽りなくリンを慈しんでくれたのはローズ夫人であり、ミシェルたち異母兄姉だ。

なんで庶子の自分を疎まず大切にしてくれるのかリンはローズ夫人やミシェルたちには訊けない。

優しい育ての母や異母兄姉たちが何を思ってリンに優しくしてくれたとしても同じだ。

リンは生涯その愛情に報いるために生きていく。

「親愛なるお義母様…お元気ですか?ラン・ヤスミカ領は少し肌寒くなりました…」

リンが手紙を書いているとユーリが別邸に戻った。

手紙を中断して出迎えに行くとユーリは籠に詰まった木の実を見せた。

「畑の手伝いでもらった!」

「ユーリ!私はあなたと結婚できて心から幸せです!ユーリのことが大好きなんです!」

木の実に無反応で抱きついてくるリンにユーリは困惑しつつ照れたが、木の実の籠を執事のシオンに渡すとぎゅっとリンを抱きしめた。

「俺も同じだ。リンと結婚できて嬉しい」

抱き合うユーリとリンを見守っていたシオンは木の実をジャムにしようと一礼して厨房に下がった。

「リン様は素直だな。モモ。お前も少しは見習え」

シオンの軽口に厨房で野菜の皮を剥いていたモモは拗ねたように口をとがらせた。

「リン様みたく素直に言えたら苦労しねーよ。ミシェルにお前に拾われて幸せなんて」

「十分幸せそうに見えるがな!」

シオンにからかわれてモモはムキになり叫んだ。

「ああ!幸せだよ!ミシェルに出逢って初めて人を好きになった!変態でもアホでも美少年好きエロ男色でも!物心ついてから犯罪歴=年齢な俺を1番好きだって言ってくれたのはミシェルだけだ!!」

「モモって14歳だろ?前科14犯か。パネエな!俺ですら前科3犯なのに」

執事が前科3犯なあたりでラン・ヤスミカ家別邸は相当にヤバい。

しかし、ここで重要なのはモモとシオンの前科対決でなく、さりげなくミシェルが仕事から戻っていたことだ。

厨房にいるモモに会いに行ったミシェルは当然だがモモの本心を聞いている。

そして、嬉しすぎて厨房に飛び込んでモモを抱きしめ、シオンが見ている前でキスしまくっている。

「モモ!!金貨はあとで払うからキスを存分にさせてくれ!!」

「ミシェル!?聞いてたのか!?やめろ!ここ厨房だぞ!」

「厨房と閨房なんてほぼ同じではないか!?」

「全然ちげーよ!お前それでも先生か!シルバー家での英才教育は脳から消えたのか!?」

嫌がりながらも厨房でミシェルとイチャイチャするモモにシオンは笑いながら茶々を入れた。

「悪いがイチャつくならお部屋へどうぞ。ミシェル様。シルバー家よりお手紙が届いてます」

「ありがとう!いまはモモと部屋に行きたいからあとで読むことにする!」

「至急って書いてますよ?」

「私にとってはいまが至急だ!では、またあとで!!」

「おい!ミシェル!シルバー家から火急の知らせなら速く確認しろ!」

モモにげんこつを食らった発情ミシェルはしぶしぶ至急の手紙の封を切った。

「なになに……母上とエドガーからだ。ステフとマックスとヒナリザが近くラン・ヤスミカ家に来る。面倒みることか…」

ステフとマックス、ヒナリザはモモと同じく孤児でミシェルに引き取られていた美少年トリオだ。

色々ありミシェルやモモと離れて暮らしていたが、ようやくラン・ヤスミカ領に向かう許可がおりたのである。

リンはあらかじめ3人が来ると読んでいたので別邸に部屋をもうけている。

モモは3人が滞在すると別邸はますます忙しく賑やかになると笑った。

「久しぶりにステフたちに会える!俺だけじゃミシェルのバカの相手は疲れたからタイミングがいい」

「モモ!そんなこと言わないで少しは嫉妬してるような言葉を言ってくれ」

仲良く出ていく2人を見送るシオンはシルバー家からの手紙でスルーしたがかなり重要な箇所を突っ込んだ。

「さっきの手紙。至急が子宮になってたが誰も指摘しねーな」

ミシェルとモモとは別にユーリとリンも部屋で仲睦まじく寄り添っている。

「ユーリ。さっきシルバー家の家族に手紙を書いてました」

「そうか!リンは家族想いだな」

「家族にはユーリのことが大好きと書きました。どんな理由でもここに嫁げて幸せだと」

そう言ってリンが微笑むとユーリも笑顔でリンを抱き寄せた。

一方でミシェルに抱きしめられながらモモは何気なく言った。

「あの手紙。シオンはスルーしたが至急を子宮って書いてたぞ。エドガー様。何があった?」

エドガーとはミシェルのすぐ下の実弟でシルバー家次期当主である。

今現在わかっているエドガー情報はNTRものが好きな貴公子。

ちなみにシルバー家の当主の子供は上から年齢順に長兄ミシェル27歳、次男エドガー25歳、長女シンシア22歳、次女ジャンヌ21歳、そして三男リン15歳となる。

ミシェルはモモの言葉に何事もないように答えた。

「おそらくエドガーは至急を子宮と書いてしまうくらい頭でエロ妄想をしてるのだ。エドガーは私が言うのもだが、澄ましたド変態だから」

至急が子宮になるハプニングはあったが遠からずミシェルの美少年愛人トリオがラン・ヤスミカ領にやってくる。

最後に兄嫁フィンナの実家がないのは帰る家がないの意味でなく物理的にない。

冷遇された報復でフィンナが自作の手榴弾を投げて爆破させたからだ。

この爆破事件は雪合戦中の不慮の事故として処理されている。

フィンナ14歳、夫となるエセル15歳、ユーリ8歳の冬に遊んでるふりしてフィンナの実家に手榴弾投げて逃げた。

これはリンも知らないがモモやシオンに少しばかり前科があってもみんな気にしないのは自分らも立派な前科があるからである。

end










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