花嫁と貧乏貴族

寿里~kotori ~

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モヤモヤすること

リン・ケリー・ラン・ヤスミカ…旧姓はリン・ケリー・シルバー。

王宮のある都の超がつく名門貴族シルバー家の庶子で現当主の三男にあたる黒髪と白い肌、黒曜石のような大きな瞳が麗しい15歳の美少年。

庶子でありながら聡明さを父親に見込まれ、嫡出と同様の英才教育を受けてきたリンにも悩みがある。

様々な思惑が絡まり嫁入りした田舎の没落貴族の次男ユーリ・ラン・ヤスミカについてだ。

ユーリは純朴で朗らかで健康的な18歳の好青年で頭も決して悪くない。

名門貴族でも庶子のリンは所詮は当主である父親の手駒である。

どんな扱いを受けても文句は言えない立場だったが、運良く都から遠く離れた国境近くの領地を治めるラン・ヤスミカ家の次男ユーリのもとに花嫁という形で送り込まれた。

ここでリンがやるべきことは国境沿いの監視とスパイ活動なのだが、これまた幸運なことにリンを溺愛しているシルバー家当主の嫡男であった異母兄ミシェルが都落ちしてラン・ヤスミカ領に来てくれた。

そのうえ、ミシェルが1番に寵愛しているモモという14歳の美少年がリンの監視という名目で仕えてくれる。

モモはリンと同じく黒髪だがスミレ色の瞳が綺麗で象牙のような艶やかな肌の色気ある美少年だった。

2人はシルバー家にいた頃からの勉強友達でもあるのでリンにとってモモだけは他人に相談しづらいことも言える間柄である。

しかし、ミシェルの愛人筆頭でもあるモモはシルバー家当主も認める賢い少年なので、リンが相手でも結構毒舌だ。

「ハァ?ユーリ様の好みのタイプを内密に探ってくれ?俺、隣国の情報をまとめるんで忙しいんですけど?誰かさんが嫁に来たのに諜報活動しないでのんきに田舎貴族の若奥様してるせいで!」

リンがユーリが性欲をそそられるタイプが知りたくて調査を頼んだら、モモは超絶迷惑そうな塩対応である。

「モモには仕事を丸投げして悪いと思ってる!隣国のことは私も手伝うから調査してほしい」

「イヤです!そんなのミシェルのバカに頼んでください。シルバー家への報告を遅らすことはできないんですよ!?」

「ミシェル兄上は学校のお仕事でお忙しい。ステフたちではまだ不安だし。やはり、モモが調べてくれたら1番なのだが…」

リンが赤面しながらお願いするのでモモは深く息を吐いて折れた。

「わかりました。早急にシルバー家への報告をまとめてから調べますよ!まったく!」

「ありがとう!モモ!よろしくね!」

喜ぶリンを見ながらモモはダルそうに息を吐きつつ用意されている居室に戻った。

居室ではミシェルがステフ、マックス、ヒナリザに勉強を教えている。

マックスとヒナリザは別に勉強しなくてもいいがステフが勉強苦手かつ、マックス&ヒナリザがいないと寂しがるので3人セットだ。

ステフは赤毛で大変愛らしいがトラブルメーカーで利発なマックスと優しいヒナリザが欠かせない。

モモにとっては大事な家族のような存在だが、その存在を守るためにも自分が頑張る必要性がでる。

「おい。これからシルバー家への書簡を書くから。ミシェルはステフたちを連れて違う部屋に行ってくれ」

モモが追い出そうとするとミシェルが近くにやってきた。

「父上宛か?隣国ならば特に問題ないと先週報告したばかりではないか?」

「状況が変わりそうだ。隣国が最近やたらと北の大国に使者を送ってるって情報がある。同盟でも組まれたら厄介だ」

「隣国は我が国と既に同盟を結んでいる。北の大国は軍事国家だ。たしかに怪しいな」

ミシェルが考え込むとステフの手を繋いだヒナリザとマックスが口を挟んだ。

「ミシェル様、モモ様。大事なお話でしたら席を外します」

「ステフ。俺とヒナリザで宿題は教えるから行こう」

気を利かせたヒナリザとマックスがステフを連れていくとモモはドアが閉まるのを確認してミシェルに囁いた。

「北の国は作物が育たない。酪農も満足にできない。だから近隣諸国から富を奪った。そして、軍事国家に成長。奴らが隣国とつるんで狙うのは国境の領地…つまり、ラン・ヤスミカ領ってことになる」

「そうなるな。先の戦争でも同じだ。ラン・ヤスミカ家の領地は壊滅的な被害を受けた。一族が絶えなかったのはシルバー家の援軍と領地の私軍が奮闘した結果だと聞く」

「シルバー家が援軍を送ったのは当時の領主の妻がシルバー家の姫だったからだ。今はリン様がここに嫁いでる。ミシェル。これは偶然じゃなくて必然だ」

モモは北の大国が近く王家の姫を隣国に嫁がせる交渉を行うとシルバー家当主への報告書に記した。

隣国の国王には次期国王になる王太子がいる。

その王子様のお妃にはジャンヌ・グレイ・シルバー姫…つまり、ミシェルの実妹でリンの異母姉が候補にあがっているのだ。

「隣国はジャンヌ様との縁談に乗り気なふりして北の軍事国家の姫とも縁談を進めてる。どちらを選ぶのが得策か?ミシェルならどうする?」

「ジャンヌが妹であることを抜きにして結論を言うぞ。隣国は危険な真似をしている。せっかく良好な我が国を欺き北に加担することは自滅行為だ」

ミシェルの意見を聞いたモモは少し口角をあげると口を開いた。

「その自滅のとばっちりはここにも来る。そこでだ。隣国への牽制として策がある。うちの国と北の大国が先に同盟を結んでしまうんだ」

「軍事国家とか?あの国とは極力関わらない。それが国王陛下や保守派の考えだ。野蛮な北国を軽蔑している」

「そんな平和な意見が通る時間は終わる。ミシェル。お前も宮廷に出入りしてたならわかるだろ?うちの国は文化芸術に産業と交易は発展した。だけど軍事力は弱い。他国の傭兵に頼ってる状態を続けても危険なんだよ」

軍隊は存在するが長く戦争がないので脆弱性は否定できないとミシェルは思った。

それにしても、本来こういう他国間の機密性の高い情報を収集して分析するのはラン・ヤスミカ家に嫁いだリンの仕事である。

リンは絶賛ユーリに恋しているので調査してくれない。

年の離れたリンを甘やかし過ぎたかとミシェルは少し反省している。

「モモ。集めた情報と分析はシルバー家の父上に送ってくれ。次からはリンにも調査するよう言っておこう」

「リン様はユーリ様の好みのタイプを知るまで調査してくれねーよ」

モモが書簡を書き終わるとミシェルは「う~む」とうなった。

「私も知りたかったのだ。前から気がかりだったがユーリ殿はリンを嫌いではないが熱烈に愛してもいない気がする。イヤな言い方なのだが騙されて嫁がされたリンを憐れんでいるような」

「それは否定できないな。惚れてはいるが距離感がお互いに掴めない状況だ。まあ、見てる分には可愛いけど」

「リンが毎晩同じベッドに寝てるのにムラムラしないエロシェンコなユーリ殿だからリンはモヤモヤするのだ!」

久々のエロシェンコ!

エロシェンコさんは王宮で働く近衛兵で硬派な優しい武人で芸術家で小説家なので宮廷の人気者だ。

人気の理由は名前がエロシェンコなクセに39歳童貞だからなのだが、シルバー家のミシェルやエドガーとも親しくて、モモとも面識がある。

ちなみにエロシェンコさんが淡白なせいで性欲がない奴をこの物語ではエロシェンコと呼んでいる。

ユーリは18歳まで没落はしてても由緒ある貴族の子弟なのに領内の女あるいは男に手を出してない。

エロシェンコほどでもないがユーリもエロシェンコの素質十分だとモモは分析した。

「このままエロシェンコされてるとリン様が永久にモヤモヤしてて困るから調査するぞ!」

「モモ。実はエロシェンコにユーリ殿の件を相談する手紙を出してみた。エロシェンコのことはエロシェンコに聞けだ」

他国との情勢より俄然ユーリのエロシェンコ問題に盛り上がるミシェルとモモであった。

大事なお話をしているミシェルとモモを気遣ったステフ、マックス、ヒナリザは宿題を終えると裏庭で執事のシオンと薪を割っていたユーリに話しかけた。

「ユーリ様はリン様のどこがお好きなんですか?教えてください!」

無邪気なステフに訊かれてユーリは照れながら笑顔で答えていた。

「たくさんあるが寝顔が可愛い!あと、賢くて何でもできそうなのに料理と裁縫が下手なとことか!」

「つまり、ギャップ萌えですかい?」

シオンがニヤニヤ茶化すとユーリは赤面しながら頷いた。

「俺、次男だし家督もないから結婚は考えてなかった。でも、リンみたいな綺麗で頭よくて優しい花嫁が来てくれて本当に嬉しいんだ」

屈託なくユーリが微笑むとステフやマックス、ヒナリザが瞳を輝かせた。

「ユーリ様!リン様に今と同じお言葉をかけてください!リン様はきっとお喜びになります」

珍しくヒナリザが積極的に喋るとユーリは困惑したように頭をかいた。

「えっ?でも、同じような台詞。リンに前にも言ったような…」

何度も言うのは照れ臭いと言いかけると薪を割っていたシオンが言った。

「クドイくらい言うのも愛情ですよ。ユーリ様。リン様は何度も言われないと不安なんです」

「そう…なのか?恋人っていなかったから、そういうの疎くてさ」

「なら、リン様のことは嫁で恋人って思えばいいです。お互い好きなら素直に言わないと」

シオンのアドバイスにユーリは顔を紅くしながらコクりと頷いていた。

するとタイミングよくリンが裏庭までやってきたのだ。

「ユーリ。都から届け物……」

リンが言いかけた瞬間にステフが笑顔で声をあげた。

「リン様!ユーリ様はリン様の寝顔と料理下手で裁縫ができなくて賢いとこが大好きって!!お嫁に来てくれてすごく嬉しいって言ってました!!」

ユーリが言わんとした台詞を暴投するステフをマックスとヒナリザが止めたが遅かった。

リンはユーリを見詰めると拗ねたように唇を尖らせた。

「寝顔が可愛いのに何もしないんですね」

「えっ!だって、いつも可愛いなって思うけど寝てるときにそういうことするのは…」

「ユーリが私の寝顔をガン見してる間、ソワソワしてるのに何もしないからモヤモヤするんです!!」

「マジ!?あれって寝たふりだったのか!!?」

驚くユーリを睨むとリンは膨れっ面で行ってしまった。

慌てて追いかけるユーリの姿を見送るシオンはニヤリとしながら呟いた。

「まったく初々しい夫婦だな」

薪を運ぶのを手伝うステフ、マックス、ヒナリザは口々に言い合った。

「ユーリ様はリン様の寝たふりにずっと気づかなかったのかな?」

「本気で驚いていらしたからそうかも」

「ずーっと寝顔が可愛いって見られてるだけは少し嫌だよね」

そんな会話をステフたち美少年トリオがしている頃、ユーリは拗ねてしまったリンの機嫌を直そうと必死であった。

「リンが好きなのは本当なんだ。だから、機嫌なおせ」

「本当に好きな花嫁の寝顔を延々と見てるだけの夫に対して機嫌は直せません!」

リンって割と面倒な性格だが、ユーリは優しいので面倒がらずに言い募る。

何度でも好きだと伝えろとシオンがアドバイスしたのでユーリは実行したが、リンはベッドで背を向けている。

細くて白い肌が震えているのでユーリはドキドキしながら手を伸ばした。

「あと、5つ数えて機嫌直さないと怒るぞ」

リンはユーリの警告を無視して顔を伏せている。

1、2、3、4、5……リンはベッドに仰向けに倒されていた。

そのままのしかかるユーリを細い腕で掴むとリンはソッと瞳を閉じる。

夕食にユーリとリンの姿がないのでモモが訳を訊ねるとシオンは薪割りでのことを説明した。

「エロシェンコからの手紙が無駄になってしまった」

ミシェルの呟きにモモは「どんなことが書いてあった?」と質問した。

エロシェンコさんは忙しい仕事と趣味の合間に律儀にミシェルに手紙を書き送っていた。

そこには「私は実は美しい少女や女性に鞭でお仕置きされるのが好きで18歳の好青年に性欲をわかせる方法はわかりません」と長正直に自分の性癖カミングアウトな内容が記されていた。

エロシェンコさんの性癖を手紙で知ったミシェルはモモに喋りかけた。

「モモ……今夜……私に…」

「鞭じゃなくて斧でいいならお仕置きしてやるけど?」

「モモ様!それじゃ、お仕置きじゃなくて殺害だよ!」

ステフの明るい笑い声で別邸の夕食は和んだが、エロシェンコさんの性癖は今後もネタにされる。

そして、少しお仕置きされたリンは眠っているユーリに何度もキスをすると再び瞳を閉じた。

end









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