花嫁と貧乏貴族

寿里~kotori ~

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隣国の泥沼兄弟

ユーリ・ラン・ヤスミカは生まれも育ちも父ラクロワが治める田舎ラン・ヤスミカ領であり、領主の次男で由緒ある貴族なのだが庶民的である。

父ラクロワと母リーサとの間に長男エセルが誕生して7年後に生まれたこともあり両親&兄に愛されて成長した。

ユーリが物心つく前に兄エセルの妻となるフィンナがラン・ヤスミカ家に引き取られ、兄嫁フィンナにも実の弟のように可愛がられた。

貴族にしては穏やかな過ぎる家庭環境で少年期を迎え、なんと9歳で叔父になる。

兄夫婦が10代半ばで子をなしたからだ。

甥っ子と姪っ子は双子兄妹のジャンとクレールである。

ユーリは弟妹ができたようで嬉しくてジャンとクレールの世話を喜んでしていた。

色素が薄い茶色の髪と日焼けした小麦色の肌に若葉のような緑の瞳が健康的で朗らかな笑顔が魅力的な田舎貴族の次男坊。

誰も言及しないがユーリは洗練はされていないが結構な美形であった。

しかし、自分が貴族様とか特権階級という自覚ゼロなので逆に領民から親しまれ、慕われている。

そんなユーリの明朗快活で気どらない優しさがリンは大好きだ。

「少し鈍感だけど怒ったときの真剣な顔がイケメンで押し倒す力が強くて!!」

ユーリと形式上でなく名実ともに夫婦として結ばれたリンは久々に調査もなくラン・ヤスミカ家の別邸の居室で休んでいたモモに報告というかノロケ話をしている。

モモは束の間の休日に急ピッチでミシェルやステフやマックス、ヒナリザの衣服をあつらえるので忙しいのに激迷惑だった。

慎重なモモはミシェルたちの衣服を屋敷の召し遣いには頼まない。

疑っているわけではないが、何かの謀略で毒針でも仕込まれたらヤバいからだ。

執事のシオンやスカウトした元ゴロツキは信頼できるが、皆それぞれ屋敷の仕事で忙しいので針仕事まて任せるのは酷だ。

モモが恐れているのはミシェルの元妻の実家がミシェルやステフたちに危害を加えることである。

元妻は修道院に隔離されているがミシェルやモモたちへの恨みは消えていないだろう。

「厄介だな。もう単に元妻の個人的な恨みじゃない。元妻の実家とシルバー家との勢力争い。代理戦争になっている」

だから、あれほど本妻を蔑ろにするなと忠告したのにとモモはミシェルのアホさに腹が立っていた。

そして、そのアホの異母弟リンからは夫ユーリとの初体験の話を延々と聞かされている。

「モモ!ユーリが朝目が覚めたときすごく照れてて!その顔が赤くて可愛くて!!」

「うるさいです!!念願のセックスしたならシルバー家からの花嫁としての役目を果たしてください!近く隣国の王子が静養で領境の温泉に滞在します。何らかの意図があると思いますが?」

「隣国の王子…王太子か?」

リンがようやく仕事モードになったのでモモは縫い物をしながら首を横にふった。

「違います。静養にくるのは第2王子クリス・バティスト様です。兄君である王太子を廃して王座を狙っている。隣国は後継者争いが水面下で起きている」

「そうか。隣国の王子はそれぞれ腹違いだ。王太子エドワード様は前王妃の子で第2王子クリス・バティスト様は現在の王妃の子供」

「あの国は身内で食い合うようなとこがあります。王太子にはリン様の姉君ジャンヌ様が嫁ぐ予定。しかし、北の大国が第2王子に嫁を提供する気配がある。それを阻止するのがシルバー家当主からの命令です」

つまり、第2王子クリス・バティストが下克上する前に北の大国との結婚話を白紙に戻せ。

他人の結婚を邪魔するのは悪いがリンにとってジャンヌは大切な異母姉なので幸せになってほしい。

モモの集めた情報と分析力は優れているが、リンは姉ジャンヌが果たして隣国の王太子に嫁ぐか疑問だ。

「モモ。隣国の王太子エドワード様はどのようなお方だっけ?」

「前王妃によく似た美しい貴公子と評判ですよ。頭脳明晰で君主の器だと国内外からも人気があります。知ってるでしょ?」

「知ってるけど確認だ。第2王子のクリス・バティスト様は?」

リンの真顔にモモは息をはいて答えた。

「ダメンズと評判です。美形ですが色情狂で攻撃的で狡猾でわがまま。男女問わず気に入った者を愛人にする。人妻でも妻子持ちでもお構い無し。かなりクズなお方だって話です」

「ジャンヌ姉様はダメンズ大好きだ。王太子みたいな模範的な貴公子はタイプではない」

「いや、ジャンヌ様の好みなんて政略結婚では関係ないです」

政略結婚さえなければミシェルの元妻も嫉妬に狂って凶行にでることもなかった。

嫁いだ家で孤立して夫が美少年大好き野郎だったら大抵の女は頭おかしくなる。

ひとりの女性の人生を狂わせた原因と責任が自分にもあると思うとモモだって罪悪感はあるのだ。

11歳の貧民窟の堕天使だった頃は生きるために何をしても平気だったのに。

シルバー家のミシェルに窮地を救われ、引き取られて暮らすうちに気持ちが変化したとモモは密かに笑った。

ミシェルの元妻は決して性格が優しいとはいえない高慢な女だったが、もう少し幸せに暮らせる道があっただろう。

隣国や北の大国の情勢のほかにそちらも解決策はないものかとモモは頭を悩ませていた。

すると、リンが閃いたように瞳を光らせ言ったのだ。

「シルバー家と敵対しているヴィオレッド家の姫だったミシェル兄上の元奥方を隣国の王太子に嫁がせるのはどうだ?」

「は?隣国に政敵の姫を再嫁させる?ミシェルの元妻を隣国に嫁がせ王妃にさせるのですか?」

「そうすればヴィオレッド家だって隣国と太いパイプができてシルバー家への恨みも薄れる。何より恩を売れる。そして、ジャンヌ姉様はダメンズと結婚できる」

「危険な賭けですが吉と出ればミシェルへの報復どころではなくなるか。ヴィオレッド家なら家柄だって申し分ない。王太子は典型的な慈悲深い御仁のようなので前夫に冷遇されて修道院にいる女性を助けたいとか思うかも!」

早速シルバー家当主に提案するかとモモは問いかけるとリンはうっすら笑って「少し待って」と呟いた。

「この打診は静養に来られる第2王子…クリス・バティスト様にしてみよう。モモ。クリス様が温泉に来る日に交渉に向かう」

「わかりました。王子はお忍びですが宿も特定できる。リン様が行くのは危険です。俺がシルバー家の名代として行ってきます。どうなるかは予想できるけどな」

モモがニヤリとするとリンがつられて笑った。

「くれぐれも頼んだよ。モモ」

それから数ヵ月後のことだ。

シルバー家のミシェルの元妻は隣国の王太子の妃として修道院から嫁いで行った。

ヴィオレッド家がミシェルやモモたちを狙う心配はなくなり、シルバー家は政敵を懐柔できたのである。

ユーリは近くの温泉街からの客人と話していた。

「では、王座を捨ててまで亡命を!?王太子の身分を捨ててまで!」

ラン・ヤスミカ家別邸に保護された隣国の王太子エドワードは疲れた顔で頷いた。

「僕は前王妃の息子なので王座を巡って側近たちが弟と熾烈な争いをしてました。何度も命を狙われ、大切な人を失った。今の王妃と弟が権力を欲するなら渡してもいい!」

隣国の王太子エドワードは政治闘争に嫌気がさして亡命する計画だった。

リンは静養に来るのは弟王子でなく王太子と見抜いてモモに暗殺される前に保護を命じたのだ。

暗殺されたという事実が必要なのでモモはエドワード王太子と背格好が似ている男の死体を替え玉にして温泉に投げ込んだ。

その死体はミシェルの暗殺を命令されたヴィオレッド家の刺客であった。

モモがシルバー家に頼んで用意してもらったスケープゴートである。

結果、王太子は静養先で急死となり、第2王子クリス・バティストが王太子となる。

そのクリス・バティスト王太子にミシェルの元妻は再嫁したのだ。

エドワード元王太子はラン・ヤスミカ領でかくまわれた後に北の大国に逃げた。

リンが外交カードとして送り込んだのである。

モモはミシェルやステフたちの安全が確保されてホッとしたが当のミシェルから聞いた話に戦慄した。

「エドワード殿下は妻子持ちの若い男性が大好きらしい。単なる既婚でなく妻子持ちで若いを強調していたのが凄い変態仮面な才能を感じる。エセル殿もいいなと言っていた」

「そうか。さっさと北に送り込んで正解だったな」

北の大国に逃げたエドワードに代わって王太子となったクリス・バティスト殿下は愛妻家でミシェルの元妻とも良好らしい。

後々知ったが隣国は王座を争う以前にエドワード元王太子が若い妻子持ちの男性をストーカーするので問題になっていた。

ストーカーされた男性がそれを苦に妻子連れて逃げたらしい。

隣国の国王夫妻とクリス・バティスト王太子殿下から「変態を追い払ってくれてありがとうございます」とシルバー家は感謝されたがリンはなんとなく複雑であり、モモは本物を暗殺しときゃよかったと少し後悔した。

end









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