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リンとモモ
お前の生涯はシルバー家に捧げよ。
それがリンを支配する父の言葉であった。
「お前は庶子だ。嫡出の兄姉と違いシルバー家では確固たる地位がない。シルバー家の嫡出ならば役立たずでも飢え死はしない。だが、リン…お前は異なる。能力がなければ切り捨てる。それくらい危うい立場にいると自覚しろ。父の言いたいことは分かるな?」
生まれてきて何度も父に繰り返し問われた言葉だった。
だから、返答は決まっている。
「心得てございます」
正妻ローズから誕生した異母兄姉ならシルバー家では磐石の立場が用意されている。
しかし、リンはシルバー家の子息という立場を維持し続ける試練に常に立たされている。
兄姉がどんなに優しくしてくれても、ローズ夫人がいかに愛情深くても安泰ではないのだ。
「自分の居場所は自分で掴む。シルバー家の庶子として生まれた宿命なんだ」
父は何度も異母兄姉とリンは対等ではないと言い聞かせた。
シルバー家のために生涯を捧げよと躾をしてくれた。
理不尽とも取れる教育だがリンは父の躾を真に受けていた。
「シルバー家の庇護に頼るな。自分の立場を弁えろ。私は庶子だから」
本当に必要ない庶子ならば父はどこか養子に出すなり、修道院に送るはずだ。
それをしないでリンを本邸に住まわせて嫡出同様の英才教育を施すのはリンの素養を見込んでいるから。
ならば、期待に応えて庶子の自分がシルバー家の命運を握る存在になる。
ユーリに嫁ぐ前のリンにはそんな悲愴感があったのだ。
母の血筋を卑しいと言い放った父に対してのリンは敵意さえも抱けなかったのである。
「高貴な血筋のお義母様やミシェル兄上たちと私は違う」
殊勝に庶子として振る舞っていたリンだが、心は父の言う高貴な血筋という言葉に恐怖と違和感があった。
ローズ夫人や異母兄姉は大好きだが、約束された地位と恵まれた環境があるからリンを可愛がる余裕があるだけ。
そんな風に疑う自分が嫌だが心底から甘えられない。
「私が邪魔になれば躊躇いもなく処分する。お義母様もミシェル兄上もエドガー兄様もシンシア姉上もジャンヌ姉様も…そして父上もだ!」
貴族なんて、そういう生き物だとリンは幼心に猜疑心を抱えて成長していた。
表面上は健気な庶子の末弟として生活していたが出会いがあった。
リンの異母兄でシルバー家嫡男であったミシェルが綺麗な子供を連れ帰ってきたのだ。
その子はリンより少し年下でリンと同じ黒髪に大きなスミレ色の瞳の少年である。
兄ミシェルの憐れみで拾われた孤児らしいが、態度が妙に不遜であった。
貧しい暮らしをしていたと聞いたので礼儀作法が分からないのかなとリンは思っていた。
兄ミシェルは「モモ」と呼んでいるが、どこで生まれたのか、両親は誰で、どんな身分か、更には名字すら不明であった。
貴族に引き取られただけでもラッキーなのに恩人であるミシェルへの態度は最低最悪の一言に尽きる。
「あんな野蛮な子。すぐに追い出される」
貴族の恩恵を無視する子供なんて捨てられる。
リンはそう思って、モモの存在を無視していた。
しかし、育ての母ローズ夫人の提案でモモはリンの勉強友達になる。
「リン。お友達ですよ。仲良くお勉強するのですよ。わかりましたね?」
「はい。お義母様。モモ。分からないところがあったら言ってね」
庶子だけど貴族の自分は身分の低いモモに対して優しくしてあげなくちゃ…。
ローズ夫人や異母兄姉がリンに対して、そうしてくれるように、モモは可哀想だから優しく憐れんで接してあげないとダメだとリンは無意識に思い込んでいた。
だが、リンの無自覚な蔑みを見抜いたモモはバカにしたように鼻で笑った。
「リン様だっけ?あんたは一体何を理解してるんだ?俺に分かんなくてアンタに分かることってなに?」
この子……マジで性格最悪で生意気!
大好きな兄上ミシェルが拾った子だから優しくしてあげようと思ったのに。
身分が卑しくて恩すら理解してないのかとリンは本気で腹が立った。
だから、ついついモモの挑発にのってしまった。
「君は何も分かってないよ!ミシェル兄上の弟の私が声をかけたのに無礼な態度!貴族は礼儀が大切なんだ!」
「リン様?俺、貴族じゃねーし!ミシェルには多少の恩はあるが、アンタに恩を売られる筋はない。ミシェルが賢いって褒めてたけど意外とバカだな!」
「そういうの屁理屈って言うんだ!兄上を呼び捨てにするな!孤児のクセに!!」
「うるせーな。ミシェルが勝手に拾ったんだよ。うざいからアンタのことはリン様って呼んでやる。貴族は礼儀が大切なんだろ?」
こんな無礼で恩知らずな子供と一緒に勉強なんて嫌だ!
お義母様の言いつけでも絶対に嫌だとリンが怒っていると様子を見ていた当のローズ夫人が仲裁をした。
「今のはリンが悪いですよ。お友達に対して命令はいけません。モモ。リンは同じ年頃の子と仲良くするのは初めてなの。だから、うまく話せないだけだから許してね」
「承知しました。ローズ夫人。俺もリン様に生意気な口をきいた。それがリン様には不愉快だったのですね。リン様。申し訳ございません。これからは、リン様に合わせた物言いを心掛けます」
そう言ってクスクス笑っているモモにリンは何かぶん投げたい衝動にかられたがローズ夫人の手前なんとかおさえた。
こうしてリンとモモは机を並べて勉強をしていたが友達どころか必要最低限の会話もしない日々が続く。
悔しいことにモモは学問では全く落ちこぼれず、リンと同等に賢かった。
管弦やダンスの腕前はリンより上だと認めざるおえない。
その道のプロである学術、音楽やダンスの教師はモモの賢さと上達の速さを絶賛していた。
モモは恐ろしく、のみこみが秒速で貴族としての礼儀や宮廷でのマナーも即座に吸収する。
「まるで生まれながらの貴公子のようです!」
シルバー家で宮廷での礼儀作法を指導していたリンの父の側近が手放しにモモのことは褒めている。
しかも、特に努力している雰囲気もないのがリンには屈辱であり不思議であった。
リンが必死に努力して得てきた知識や知恵をモモは短時間で会得する。
不遜な態度は変わらないが、モモの優秀さは異常であった。
なので、勉強のあいまに質問してしまった。
「モモはどうして言われたことをすぐに理解できるの?シルバー家に来るまで教育を受けてないのに?」
リンの無神経な問いかけにモモは面倒そうに息を吐くと答えた。
「リン様だって貧民窟に放り込まれてみな。自分の力で生きないと誰も助けない。そんな環境にいたらどんな手段でも覚える。覚えないバカは死ぬしかない」
「つまり、モモにとって学問や礼儀作法は生き残る手段なの?」
「そうですよ。リン様がわざとらしく可愛くて健気な庶子の末っ子を演じてるのと同じ。アンタ、純粋な貴族じゃない自分がコンプレックスなんだろ?権威やら礼儀をうるさく押しつける奴は大抵自分に自信がない」
勝手に自分は可哀想と卑屈になってて痛いとモモの言い方は容赦がない。
結局、お前はシルバー家の手のひらから転がり落ちないよう、しがみつく小物だと核心を突かれたようでリンは無性に悔しくなってきた。
だから口から出てしまったのだ。
「モモが言うように私はシルバー家の子息でありたいと必死で生きてる!でも、それは悪いことなのか?憐れまれて生きてる庶子という立場を変えたい!実力でシルバー家の人間だと皆に認めさせるため努力するのは間違ったことじゃない!憐れまれなくても生きていけるよう成長したいだけだ!」
リンが全力で怒鳴って泣き出してしまっても、平然としながらモモは言った。
「間違ってるとか悪いとか言ってない。単に可哀想だと思ってる。リン様。俺に怒鳴る前に言えばいいだろ?ミシェルになり、ローズ夫人になり、庶子でも自力でお前らより上に立つ。だから、憐れむ必要ないって」
「そんなこと言えるわけない!私は…お義母様や兄上たちを蹴落としたいのではない。ただ…ただ…自分も嫡出で生まれてたら…対等の立場でいられたらと思ってるだけだ…」
「その対等とか嫡出とかこだわって勝手に壁を作って苦しんでるのリン様だけです。どこのバカに吹き込まれたか知らねーけど。場末の芝居小屋の大根役者みてーに泣くなよ。うざい」
リンが泣き叫んで本心を述べても場末のショボい芝居小屋の猿芝居で片づける。
貴族のしがらみとは無縁なモモにはこの苦しさは理解できないとリンは悲しかった。
しかし、泣きながらあることに気がついた。
「モモは私の考えはバカらしいと感じるのか?」
「別に…リン様をバカとは言ってない。吹き込んだ奴がバカって言いたいだけ」
「その訓戒を繰り返し教えたのは父上なんだが?」
シルバー家当主の言葉でもバカだと思うのかとリンは問いかけた。
すると、モモは不敵に笑って言い切ったのである。
「リン様。親父の言葉が全部正しいなんて信じきってるようじゃ同じくらいバカですよ。ミシェルのクソバカの方がまだ賢い」
「そうか……父上がずっと同じこと繰り返すから思い込んでいた」
「ジジイって何度も同じ話するもんです。そんなジジイのお説教なんてクソの役にも立たない。貧民窟の売春宿に娼婦を買いに来て、娼婦に売春辞めろってお説教してるバカオヤジと同レベル」
比較する対象が凄すぎてリンには分からないが、父があれほど庶子の立場を説くのは恐れているのではないかと感じた。
庶子のリンが嫡出より優秀に育ってしまうことへの警戒心。
そして、才覚を自覚したリンが父親を追い落とすのではないかという危険性を考えての牽制ではないか。
だってリンは父によって母を殺されている。
その事実があるから必要以上にリンを支配したがる。
その可能性を話すとモモは面白そうに告げた。
「リン様はきっと何か理由をつけられてシルバー家から遠ざけられる。でも、父上の手駒を装って遠方で実力を示せば状況は変わる。それが幸せかどうかはわかんねーけど」
「なるほど。どんな場所に行っても実力で父上を圧倒する。そのために勉強に励むよ」
リンがそう誓うとモモはニヤリとして頷いたのだ。
モモの読みは当たってリンは国境近くのラン・ヤスミカ領のユーリに仕えることが決まった。
随分と田舎に飛ばすものだとリンは道中で思っていたが、少しワクワクしていた。
都のシルバー家本邸しか知らないリンにとっては旅なんて初めてだ。
「ユーリ・ラン・ヤスミカ様はどんなお方だろう?」
旅立つ直前に問いかけるとモモは楽しそうに口を開いた。
「ド田舎貧乏貴族で美少年好きなんてミシェルの亜種だな!リン様。お父上…シルバー家当主はなんか仕掛けてますよ」
その予想通り、従者としてはるばるやって来たら花嫁にされたリンだが、初夜にユーリの寝顔をみて気がついた。
モモはあらかじめシルバー家当主の画策を見抜くなり、ミシェルを通じて知っていたのだ。
最初は喧嘩してしまったが、リンにとってモモは初めて素の自分をさらけ出すことができた友達となったのである。
end
それがリンを支配する父の言葉であった。
「お前は庶子だ。嫡出の兄姉と違いシルバー家では確固たる地位がない。シルバー家の嫡出ならば役立たずでも飢え死はしない。だが、リン…お前は異なる。能力がなければ切り捨てる。それくらい危うい立場にいると自覚しろ。父の言いたいことは分かるな?」
生まれてきて何度も父に繰り返し問われた言葉だった。
だから、返答は決まっている。
「心得てございます」
正妻ローズから誕生した異母兄姉ならシルバー家では磐石の立場が用意されている。
しかし、リンはシルバー家の子息という立場を維持し続ける試練に常に立たされている。
兄姉がどんなに優しくしてくれても、ローズ夫人がいかに愛情深くても安泰ではないのだ。
「自分の居場所は自分で掴む。シルバー家の庶子として生まれた宿命なんだ」
父は何度も異母兄姉とリンは対等ではないと言い聞かせた。
シルバー家のために生涯を捧げよと躾をしてくれた。
理不尽とも取れる教育だがリンは父の躾を真に受けていた。
「シルバー家の庇護に頼るな。自分の立場を弁えろ。私は庶子だから」
本当に必要ない庶子ならば父はどこか養子に出すなり、修道院に送るはずだ。
それをしないでリンを本邸に住まわせて嫡出同様の英才教育を施すのはリンの素養を見込んでいるから。
ならば、期待に応えて庶子の自分がシルバー家の命運を握る存在になる。
ユーリに嫁ぐ前のリンにはそんな悲愴感があったのだ。
母の血筋を卑しいと言い放った父に対してのリンは敵意さえも抱けなかったのである。
「高貴な血筋のお義母様やミシェル兄上たちと私は違う」
殊勝に庶子として振る舞っていたリンだが、心は父の言う高貴な血筋という言葉に恐怖と違和感があった。
ローズ夫人や異母兄姉は大好きだが、約束された地位と恵まれた環境があるからリンを可愛がる余裕があるだけ。
そんな風に疑う自分が嫌だが心底から甘えられない。
「私が邪魔になれば躊躇いもなく処分する。お義母様もミシェル兄上もエドガー兄様もシンシア姉上もジャンヌ姉様も…そして父上もだ!」
貴族なんて、そういう生き物だとリンは幼心に猜疑心を抱えて成長していた。
表面上は健気な庶子の末弟として生活していたが出会いがあった。
リンの異母兄でシルバー家嫡男であったミシェルが綺麗な子供を連れ帰ってきたのだ。
その子はリンより少し年下でリンと同じ黒髪に大きなスミレ色の瞳の少年である。
兄ミシェルの憐れみで拾われた孤児らしいが、態度が妙に不遜であった。
貧しい暮らしをしていたと聞いたので礼儀作法が分からないのかなとリンは思っていた。
兄ミシェルは「モモ」と呼んでいるが、どこで生まれたのか、両親は誰で、どんな身分か、更には名字すら不明であった。
貴族に引き取られただけでもラッキーなのに恩人であるミシェルへの態度は最低最悪の一言に尽きる。
「あんな野蛮な子。すぐに追い出される」
貴族の恩恵を無視する子供なんて捨てられる。
リンはそう思って、モモの存在を無視していた。
しかし、育ての母ローズ夫人の提案でモモはリンの勉強友達になる。
「リン。お友達ですよ。仲良くお勉強するのですよ。わかりましたね?」
「はい。お義母様。モモ。分からないところがあったら言ってね」
庶子だけど貴族の自分は身分の低いモモに対して優しくしてあげなくちゃ…。
ローズ夫人や異母兄姉がリンに対して、そうしてくれるように、モモは可哀想だから優しく憐れんで接してあげないとダメだとリンは無意識に思い込んでいた。
だが、リンの無自覚な蔑みを見抜いたモモはバカにしたように鼻で笑った。
「リン様だっけ?あんたは一体何を理解してるんだ?俺に分かんなくてアンタに分かることってなに?」
この子……マジで性格最悪で生意気!
大好きな兄上ミシェルが拾った子だから優しくしてあげようと思ったのに。
身分が卑しくて恩すら理解してないのかとリンは本気で腹が立った。
だから、ついついモモの挑発にのってしまった。
「君は何も分かってないよ!ミシェル兄上の弟の私が声をかけたのに無礼な態度!貴族は礼儀が大切なんだ!」
「リン様?俺、貴族じゃねーし!ミシェルには多少の恩はあるが、アンタに恩を売られる筋はない。ミシェルが賢いって褒めてたけど意外とバカだな!」
「そういうの屁理屈って言うんだ!兄上を呼び捨てにするな!孤児のクセに!!」
「うるせーな。ミシェルが勝手に拾ったんだよ。うざいからアンタのことはリン様って呼んでやる。貴族は礼儀が大切なんだろ?」
こんな無礼で恩知らずな子供と一緒に勉強なんて嫌だ!
お義母様の言いつけでも絶対に嫌だとリンが怒っていると様子を見ていた当のローズ夫人が仲裁をした。
「今のはリンが悪いですよ。お友達に対して命令はいけません。モモ。リンは同じ年頃の子と仲良くするのは初めてなの。だから、うまく話せないだけだから許してね」
「承知しました。ローズ夫人。俺もリン様に生意気な口をきいた。それがリン様には不愉快だったのですね。リン様。申し訳ございません。これからは、リン様に合わせた物言いを心掛けます」
そう言ってクスクス笑っているモモにリンは何かぶん投げたい衝動にかられたがローズ夫人の手前なんとかおさえた。
こうしてリンとモモは机を並べて勉強をしていたが友達どころか必要最低限の会話もしない日々が続く。
悔しいことにモモは学問では全く落ちこぼれず、リンと同等に賢かった。
管弦やダンスの腕前はリンより上だと認めざるおえない。
その道のプロである学術、音楽やダンスの教師はモモの賢さと上達の速さを絶賛していた。
モモは恐ろしく、のみこみが秒速で貴族としての礼儀や宮廷でのマナーも即座に吸収する。
「まるで生まれながらの貴公子のようです!」
シルバー家で宮廷での礼儀作法を指導していたリンの父の側近が手放しにモモのことは褒めている。
しかも、特に努力している雰囲気もないのがリンには屈辱であり不思議であった。
リンが必死に努力して得てきた知識や知恵をモモは短時間で会得する。
不遜な態度は変わらないが、モモの優秀さは異常であった。
なので、勉強のあいまに質問してしまった。
「モモはどうして言われたことをすぐに理解できるの?シルバー家に来るまで教育を受けてないのに?」
リンの無神経な問いかけにモモは面倒そうに息を吐くと答えた。
「リン様だって貧民窟に放り込まれてみな。自分の力で生きないと誰も助けない。そんな環境にいたらどんな手段でも覚える。覚えないバカは死ぬしかない」
「つまり、モモにとって学問や礼儀作法は生き残る手段なの?」
「そうですよ。リン様がわざとらしく可愛くて健気な庶子の末っ子を演じてるのと同じ。アンタ、純粋な貴族じゃない自分がコンプレックスなんだろ?権威やら礼儀をうるさく押しつける奴は大抵自分に自信がない」
勝手に自分は可哀想と卑屈になってて痛いとモモの言い方は容赦がない。
結局、お前はシルバー家の手のひらから転がり落ちないよう、しがみつく小物だと核心を突かれたようでリンは無性に悔しくなってきた。
だから口から出てしまったのだ。
「モモが言うように私はシルバー家の子息でありたいと必死で生きてる!でも、それは悪いことなのか?憐れまれて生きてる庶子という立場を変えたい!実力でシルバー家の人間だと皆に認めさせるため努力するのは間違ったことじゃない!憐れまれなくても生きていけるよう成長したいだけだ!」
リンが全力で怒鳴って泣き出してしまっても、平然としながらモモは言った。
「間違ってるとか悪いとか言ってない。単に可哀想だと思ってる。リン様。俺に怒鳴る前に言えばいいだろ?ミシェルになり、ローズ夫人になり、庶子でも自力でお前らより上に立つ。だから、憐れむ必要ないって」
「そんなこと言えるわけない!私は…お義母様や兄上たちを蹴落としたいのではない。ただ…ただ…自分も嫡出で生まれてたら…対等の立場でいられたらと思ってるだけだ…」
「その対等とか嫡出とかこだわって勝手に壁を作って苦しんでるのリン様だけです。どこのバカに吹き込まれたか知らねーけど。場末の芝居小屋の大根役者みてーに泣くなよ。うざい」
リンが泣き叫んで本心を述べても場末のショボい芝居小屋の猿芝居で片づける。
貴族のしがらみとは無縁なモモにはこの苦しさは理解できないとリンは悲しかった。
しかし、泣きながらあることに気がついた。
「モモは私の考えはバカらしいと感じるのか?」
「別に…リン様をバカとは言ってない。吹き込んだ奴がバカって言いたいだけ」
「その訓戒を繰り返し教えたのは父上なんだが?」
シルバー家当主の言葉でもバカだと思うのかとリンは問いかけた。
すると、モモは不敵に笑って言い切ったのである。
「リン様。親父の言葉が全部正しいなんて信じきってるようじゃ同じくらいバカですよ。ミシェルのクソバカの方がまだ賢い」
「そうか……父上がずっと同じこと繰り返すから思い込んでいた」
「ジジイって何度も同じ話するもんです。そんなジジイのお説教なんてクソの役にも立たない。貧民窟の売春宿に娼婦を買いに来て、娼婦に売春辞めろってお説教してるバカオヤジと同レベル」
比較する対象が凄すぎてリンには分からないが、父があれほど庶子の立場を説くのは恐れているのではないかと感じた。
庶子のリンが嫡出より優秀に育ってしまうことへの警戒心。
そして、才覚を自覚したリンが父親を追い落とすのではないかという危険性を考えての牽制ではないか。
だってリンは父によって母を殺されている。
その事実があるから必要以上にリンを支配したがる。
その可能性を話すとモモは面白そうに告げた。
「リン様はきっと何か理由をつけられてシルバー家から遠ざけられる。でも、父上の手駒を装って遠方で実力を示せば状況は変わる。それが幸せかどうかはわかんねーけど」
「なるほど。どんな場所に行っても実力で父上を圧倒する。そのために勉強に励むよ」
リンがそう誓うとモモはニヤリとして頷いたのだ。
モモの読みは当たってリンは国境近くのラン・ヤスミカ領のユーリに仕えることが決まった。
随分と田舎に飛ばすものだとリンは道中で思っていたが、少しワクワクしていた。
都のシルバー家本邸しか知らないリンにとっては旅なんて初めてだ。
「ユーリ・ラン・ヤスミカ様はどんなお方だろう?」
旅立つ直前に問いかけるとモモは楽しそうに口を開いた。
「ド田舎貧乏貴族で美少年好きなんてミシェルの亜種だな!リン様。お父上…シルバー家当主はなんか仕掛けてますよ」
その予想通り、従者としてはるばるやって来たら花嫁にされたリンだが、初夜にユーリの寝顔をみて気がついた。
モモはあらかじめシルバー家当主の画策を見抜くなり、ミシェルを通じて知っていたのだ。
最初は喧嘩してしまったが、リンにとってモモは初めて素の自分をさらけ出すことができた友達となったのである。
end
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