花嫁と貧乏貴族

ことぶき

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クロード・ルカ・シルバーはシルバー家当主として国王の政務を補佐する重臣である。

現国王の従姉妹にあたるローズがシルバー家に嫁いでいる関係で王室とシルバー家はとても縁が深い。

なので国王からの信頼は絶大で宮廷において圧倒的な地位と権力を誇っている。

これにはライバル関係にあたるヴィオレッド家の当主も敵わず実際、シルバー家の優秀さと実力を認めている節があるほどだ。

ヴィオレッド家はシルバー家と同じく名門の大貴族だが、国政や外交、交易などの手腕に秀でたシルバー家とは異なり、文化芸術方面に長けた一族である。

なので芸術や学問の庇護を推進して宮廷での文化芸術担当である。

お互いの棲みわけがハッキリしてるため多少の小競り合いでは関係が破綻しない。

むしろ、片方が消えたら国家の危機となるので共存していると言った方が正しい。

そんなヴィオレッド家の現当主の名はルイス・ラヴェル・ヴィオレッド…50歳。

このヴィオレッド家当主ルイスはシルバー家当主クロードと同じく息子の件で頭を悩ませていた。

「ジゼルにも困ったものだ。きいてくれクロード殿。恋の病で部屋から出てこない。引きこもり!あれはニートになる兆しだと妻が嘆くんだよ!」

過去にヴィオレッド家出身の姫がシルバー家嫡男だったミシェルに嫁いで確執が生まれていたが、いまは和解して普通に喋っている。

ヴィオレッド家側からしても嫁がせた娘の性格に難ありだと理解していたのでミシェルだけが悪いのではないことを知っている。

その性格に難ありな姫はシルバー家のはからいで隣国の王太子の正妃として再嫁して幸せにやってるそうなので結果オーライと考えていた。

ヴィオレッド家の当主は安心したが、すぐに次の苦難が待ち構えていた。

跡継ぎである嫡男ジゼル・エフィー・ヴィオレッド18歳が突如引きこもりに。

ヴィオレッド家は嫡出の男児はジゼルだけなのでジゼルが引きこもりになるとヤバい。

ある意味、シルバー家より激ヤバ家族問題である。

クロードとしては我が家も変態仮面エドガーの扱いや、次期当主の擁立をどうするか悩んでるのに他家の引きこもり嫡男の対処まで相談されても困る。

しかし、ヴィオレッド家とはライバルであり、盟友でもあるので無下にはできない。

「ご子息ジゼル殿は聡明で音楽や芸術にも秀でた素晴らしい貴公子!そんなジゼル殿が気鬱とは深刻ですな。恋の病ということはお相手がいるのか?」

息子問題で悩んでる親父同士として話くらいは聞こうと思った。

シルバー家当主クロード…嫡出と庶出を含めて三男二女の計5人の子供がいるパパとして、ヴィオレッド家当主ルイスの相談にのろうとしたが数秒後、のるんじゃなかったと大後悔したのだ。

ヴィオレッド家当主ルイスは深く息を吐くとクロードを見て言ったのだ。

「ジゼルが塞ぎ込んでいるのは…クロード殿。あなたの御子息であるエドガー殿が原因らしくて。ジゼルはエドガー殿にゾッコンで結婚したいと譲らず。しかし、エドガー殿が家督を継ぐと決まり、果ては静養の旅に出てしまい。ダブルショックでジゼルのメンタルのライフはゼロです」

変態仮面エドガーのせいでヴィオレッド家の嫡男が恋の病でメンタル崩壊寸前!

ヴィオレッド家嫡男ジゼルはクロードが知る限り、普通に聡明で容姿端麗、文句なしの貴族の子弟である。

シルバー家によってジゼルの姉姫はさんざんな目に遭って、離婚して再嫁という騒ぎになったのに元凶とも言えるミシェルの実弟であるエドガーに恋してる精神がクロードには理解不能であった。

そもそも、バカチン市国のエドガーになんで惚れたのか疑問である。

エドガーとジゼルでは7歳くらい年齢が離れていて接点もなさそうなのに。

クロードが黙り込むとルイスが申し訳なさそうに口に出した。

「ジゼルは繊細な子でしてね。宮廷での駆け引きとか苦手で本当は静かに書物を読んだり、楽器を奏でたい性格なのです。ですから同年代の貴族の賑やかさより、凛々しいお顔で宮廷でも澄まして読書にふけるエドガー殿に惚れてしまって。ほら、学校の教室とかで孤独に読書してるボッチを好きになるパターン」

ジゼルがNTR小説を澄ました顔で読んでいるエドガーにひとめぼれしたことにシルバー家当主クロードは冷や汗噴き出すほど焦った。

宮廷のサロンでも孤立してエロ読書してるエドガーは金髪碧眼にスラリとした美しい佇まいから、シルバー家の近寄りがたい寡黙な美男子として密かな人気がある。

近寄りがたいというよりは、近寄りたくない貴公子だとは宮廷貴族は誰も知らない。

NTR本やエロ本は厳重に装丁して難しい書物に偽装してるのでエドガーは澄ました知識人という誤解が宮廷内で流れていた。

要はイケメンが黙って静かに読書してれば、たとえ書物の中身がエロエロでも誤魔化せるというイケメン無罪の典型である。

嫡男だったミシェルは社交を仕事と割りきって、宮廷の貴族連中を相手に洗練された優雅な貴公子として振る舞って人気も上々だった。

女性に興味なしという貴族の嫡男として致命的な欠点さえなければ、クロードにとってミシェルは自慢の息子である。

対して次男のエドガーは不肖の息子というか、ミシェルと同じ教育を受けさせたのに、なんでこうなったと神様に問いたいレベルのクソ息子であった。

エドガーの澄ました雰囲気だけに惚れたならヴィオレッド家嫡男ジゼルもバカチンである。

さらにエドガーに恋した理由で嫡男としての役割を放棄して寝込んでるならバカチン市国の市民でもトップクラスのバカボンである。

恋は人を変えると言われるが、エドガーに恋した結果、他家の嫡男までバカチンになりつつある現実はクロードを打ちのめした。

しかし、ここでエドガーは本当は澄ましたムッツリのバカチン市国と暴露したら御家存続の危機である。

「それは……我が愚息(※ここ重要)エドガーがジゼル殿の心を惑わすなどあってはならぬこと!愚息(※ここ重要)エドガーは聡明なジゼル殿が惚れるに値しない未熟な男です。どうか御子息には愚息(※ここ重要)エドガーなんて忘れるよう説得してくだされ!」

ジゼルのことを非難せずエドガーを愚息と連呼することでシルバー家当主クロードは必死で体裁を保とうとしたが、ヴィオレッド家当主ルイスは謙遜している。

「愚息なんてクロード殿も嘘が下手ですな!シルバー家の御子息と御息女は素晴らしく優秀と宮廷では知らぬものはなし!ジゼルは平凡な子です。しかし、可愛い息子の恋をなんとかしてやりたい親心。そこで改めてお頼み申しあげる」

この流れはすごーく嫌な予感がしてくるとクロードは身構えた。

そして嫌な予感は半分だが的中したのである。

「静養中のエドガー殿にはご迷惑と存ずるが、ジゼルに手紙を書いてくれまいか?文通だけでもできたらジゼルの気鬱も晴れると思うのです。どうかクロード殿!エドガー殿さえよければジゼルに情けを!」

ぶっちゃけ、ラン・ヤスミカ領にジゼルを行かせたいとかお願いされると思ったクロードはホッと安堵した。

手紙ならば誤魔化してエドガーに代わりモモに代筆されていれば絶対バレない。

「そんな!どうか頭をあげてくだされ!ルイス殿。手紙でジゼル殿をお慰めするよう愚息(※ここ重要)エドガーにお伝えします。エドガーもきっと喜びますぞ」

「ああ!クロード殿!貴殿はやはり盟友!流石はシルバー家当主ですな!うちの高慢娘が別邸ブッ壊した件があるのに慈悲をかけてくださる!」

ヴィオレッド家当主ルイスが安堵して涙ぐむのをシルバー家当主クロードはなにも言わず見ていた。

「まあ、ヴィオレッド家の機嫌を損ねないに越したことはない」

急ぎラン・ヤスミカ領にいるモモに早馬で手紙を代筆しろと命じなくてはと思っていた。

「また仕事増やしやがったとか絶対モモはキレる。賞与に言い値で金貨でも宝石でもあげるって書いとけば仕事するであろう」

変態仮面エドガーのお陰で無駄な手間ができたとシルバー家当主クロード・ルカ・シルバーはため息を吐いていた。

そして、シルバー家からの連絡がモモに渡り、度重なる過重労働にモモはキレながらもヴィオレッド家嫡男ジゼルに手紙を書き記していた。

「チッ!なんでエドガー様に恋したヴィオレッド家の嫡男様へのお手紙を代筆しないとダメなんだよ!?エドガー様らしさを出しつつ、バカが露見しないよう詩情あふれる才気ある手紙って!?要件多いな!クソガ!!」

文句を言いながらもジゼルを慰める、当たり障りない内容の手紙をモモはエドガーに代わって書いていた。

ミシェルの話では宮廷でエドガーとジゼルが会話しているのを見たことはなく、ミシェルが接した限りのジゼルは芸術や文学を愛好する繊細な貴公子だという。

しかし、ミシェルが知らないところでエドガーがジゼルと接触があり、会話もしていたら代筆でボロが出る。

用心深いモモは念のためエドガーにジゼルのことを訊いてみた。

「エドガー様。ヴィオレッド家嫡男であるジゼル様のことはご存知ですか?」

エドガーは澄ました顔でNTR小説ハードエロを読んでいたが、モモの質問に顔をあげた。

そして、ミシェルによく似た高貴な顔を傾げて告げたのである。

「ジゼル殿?ミシェル兄上の元鬼嫁の弟君か?宮廷で楽器を奏でているのを見かけた程度だな」

「つまり、交流はないと?」

「ない。私は宮廷でもサロンでも基本は読書をして過ごしている」

宮廷の社交界まで出向いてサロンで引きこもるなとモモは呆れたが、それならば違和感ない手紙の代筆ができるだろう。

ミシェルが見せてくれたエドガーの筆跡に似せつつ、本人より少し流麗なタッチでモモはエドガーの手紙を代わりに書いていた。

これがのちのちシルバー家の後継をめぐる厄介ごとに少なからず影響を与える結果となる。

それから少し月日が経過してヴィオレッド家当主ルイスはシルバー家当主クロードに丁重にお礼を述べた。

「ジゼルはすっかり喜んでます!いやはや!エドガー殿は詩人ですな~!あれほど詩情あふれた手紙ならばジゼルが恋をするわけです!お返事を書くとジゼルは張り切っておりますよ!」

「はは…それはそれは。愚息(※ここ重要)エドガーのつたない文がお役に立てたなら、なにより!エドガーも急な静養の慰みになりますよ」

どんな手紙をモモが書きやがったのか知らないが、ヴィオレッド家との仲は良好を保てているので何よりであった。

国の重臣ツートップが仲良しなら国王はなにも言わないが分かっていたのだ。

「クロード…絶対に他の何者かに代筆させよった」 
国王陛下はそう確信していたが、沈黙を通した。

手紙はなるべく当たり障りない内容を心がけて書いていたモモだが、変態エドガーにハートを撃ち抜かれたジゼルの恋心にモモの手紙が火種となり大きく燃え広がる騒ぎに発展する。

ちなみにミシェルはユーリにこぼしていた。

「仕事でも代筆であっても私のモモが私以外に恋文を書いている現実は愉快ではない。それ以前に私はモモから恋文なんて貰っていない!金貨寄越せって書き付けしか貰っていない」

ユーリはなにも言えず苦笑いしかできなかった。

end









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