花嫁と貧乏貴族

寿里~kotori ~

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小鳥たち

リンは15歳でシルバー家から18歳の田舎貴族の次男ユーリに嫁いで仲睦まじく暮らしている。

可憐な美少年のリンと健康的な青年貴族ユーリは男子同士だがお似合いの夫婦であった。

リンは性別は男でもユーリの嫁なのでシルバー家では「姫君」という扱いになっている。

庶子のリンはそもそも宮廷貴族にはいないものとされているので「庶子の姫様が田舎貴族に嫁いだ」で納得されてしまうのだ。

嫡出と庶出の子供では天と地よりも待遇に格差がある。

庶子はどれだけ優秀でも、生家の役に立っても親の遺産などを相続できない。

要は貴族であっても生家の奴隷と変わらないのだ。

だからリンは追い出される形でも、ラン・ヤスミカ家のユーリに嫁げて幸運だった。

形式上でも夫婦になってしまえばリンが男子でもユーリの正妻という立場になる。

つまり、庶子として一生を生家に縛られて、タダ働きをしないで済むのだ。

そんな割にあわない庶子という立場をモモは自ら選んだ。

シルバー家の庶子といえば聞こえはいいが、血縁もない貴族の家をもり立てるためにひたすら尽くす運命が待っている。

「俺が自分で選んだ。誰に強制された訳でもない」

ミシェルを本当に支えて守るためには愛人という立場では役不足だった。

紛い物でも庶出の弟という身分にならないと次期当主となるミシェルの補佐として宮廷に入ることが出来ないのだ。

「そんなわけで面倒だが宮廷に出仕する!俺がいない間もちゃんと勉強しろよ!3人とも」

明日はいよいよ宮廷入りする夜、モモはステフ、マックス、ヒナリザに言い聞かせていた。

ヒナリザとマックスはモモの身を案じて表情を曇らせたが、ステフは好奇心旺盛な瞳を輝かせ無邪気に微笑んだ。

「モモ様はシルバー家の御子息になるんだよね!?お名前も変わるんでしょ?」

「そうだよ。宮廷ではリリィ・ケリー・シルバーって名のる。偽名だけどな!」

「リリィ!綺麗な名前!」

ワクワクしている顔のステフにモモが苦笑いしているとヒナリザが遠慮がちに口を挟んだ。

「あの……モモ様。僕たちも何かお力になりたいです。ミシェル様やモモ様の」

ヒナリザがモジモジしながら告げるとマックスも頷いた。

「俺たちはミシェル様とモモ様に何度も助けられました!ここに来なければ3人とも死んでた。誰にも優しくされないうちに!」

だから、ミシェル様とモモ様のためにどんなことでもすると宣言したマックスにモモは厳しい口調で諭した。

「そんな気持ちは捨てろ!俺もミシェルもお前らにそんなことを望んでない。幸せになってほしい。それだけが願いだ」

俺の分まで……とモモは心で呟いていた。

モモにとってミシェルはもちろん1番大切な存在だが、ステフやマックスやヒナリザも本当の意味でも家族のように思える存在だった。

自分と同じく孤児という身の上だったのに3人は純粋で無垢で、ずる賢さとは無縁な真の意味で天使のような子供だと思っていた。

「お前らはなにも心配するな。危険な目には絶対にあわせない。お兄ちゃんに任せとけ!」

不敵に笑ってみせたモモに向かってヒナリザは泣きそうな声で言った。

「僕は……モモ様と同い年ですよ?」

「あはは!そうだった!でも、俺にとって3人はミシェルと同じくらい大切なんだよ!守るためなら何でもする!」

スミレ色の瞳を光らせて告げるモモにマックスがまっすぐ目を見て訊いてきた。

「なんで、モモ様は俺たちに優しいのですか?俺たちはモモ様みたく賢くない。ミシェル様の役に立たない。利用価値がないのに?」

マックスは3人組のなかでは1番利発で自分達の不安定な立ち位置を理解している。

自分だってミシェルのために働きたいと願うが実力が及ばず、歯がゆい思いがあるのだろう。

モモはそんなマックスの健気さが大好きだが、最も危ういと案じていた。

ミシェルやモモを必要以上に崇拝するマックスは利発な分、危険な真似をしやすい性格だ。

無茶な恩返しをしてほしくてミシェルは3人を助けたわけではなく、モモだってそんなことを望んでない。

ミシェルとモモは都のシルバー家本邸に帰還する際、真っ先に考えたのがラン・ヤスミカ領にステフ、マックス、ヒナリザを残すか否かである。

ラン・ヤスミカ家に残って平穏に暮らした方が3人の幸せだと思う気持ちがモモにはあった。

しかし、ミシェルは3人を都に連れ帰ると決断した。

「あの子たちの安全を考慮するならリンやユーリ殿に頼む方が最善策だ。でも、そんなことをしたら3人は私に捨てられたと思うだろう。あの子らを見捨てる真似はできない」

ミシェルやモモを慕ってラン・ヤスミカ領まで来てしまう3人組の気持ちを踏みにじることはできなかった。

本当にステフたちのことを想うなら嫌われてもモモがラン・ヤスミカ領に残れと命じるべきだった。

だが、モモは彼らに憎まれるような言葉を言えなかったのだ。

「ステフとマックスとヒナリザの身の安全を考えるならリン様にお任せするのが1番だってわかる。俺が邪魔だって言えば3人は逆らわない。でも……」

1人ではなくなった瞬間……それは人間が最も弱くなるときではないか?

利用価値なんてなくてもいい。

危険なら俺が全力で守ればいい。

モモは血縁はなくても兄弟のようなステフ、マックス、ヒナリザを手放すのが嫌だった。

彼らを想うならどんなに憎まれても恨まれても、ラン・ヤスミカ家に残すべきだったのに。

「こいつらの命運は俺にかかってる!絶対に守り抜く!ステフとマックスとヒナリザは……俺の弟だ」

ミシェルだけに頼らず俺が危険から遠ざけるとモモはかたく心に誓っていた。

余計なお世話でも3人が自分の足で立って、歩いていける力がつくまで守り抜く。

そう胸に秘めていたモモの顔を見ていたステフが笑顔で口を開いた。

「モモ様!これ、3人で作ったお守りだよ!」

ステフがモモに手渡したのは小さな木彫り細工のネックレスだった。

「ヒナリザが彫って、マックスが飾りを編んで、僕は紐を通した!」

木彫り細工は可愛い小鳥をかたどっていた。

モモはネックレスを首にかけると3人を抱き締めて礼を言った。

「ありがと!ステフ、マックス、ヒナリザ!お前らがいてくれて助けられてるのは俺なんだ!お守り……大切にする!」

我慢できなくなり泣き出してしまったモモの頬にヒナリザはハンカチをあてて微笑んだ。

「明日、宮廷に参内するなら泣かないでください。目が赤くなります」

「そう…だな。腫れぼったいツラじゃ貴族どもに舐められる」

なんとか泣き止んで笑ってみせるとモモはミシェルの寝室に戻っていった。

扉が閉まるとヒナリザは息を吐いて苦笑した。

「僕は……モモ様が好きだよ。ミシェル様と同じくらい」

足手まといだっただろうに、モモはラン・ヤスミカ領にヒナリザたちをおいてけぼりにすることはなかった。

気弱なヒナリザはモモの聡明さと気丈さに憧れていた。

同い年だから余計に自分よりずば抜けて賢くて、美しいモモの背負っていく未来を思うと胸が痛くなる。

「モモ様はシルバー家に死ぬまで酷使される。庶子になるってそういうことだ」

ヒナリザが呟くとマックスはツラそうな顔で同意した。

「ミシェル様がシルバー家当主になれても。生涯結婚をしなくても同じだ。モモ様は正妻にはなれない。愛人の立場に戻ることもできない。可哀想に」

不要になるまでひたすらシルバー家のため、ミシェルのために尽くして働くしか未来がない道をモモが選んだのは、ひとえにミシェルを愛しているだけでなくてステフたちを守るためでもあった。

「俺たちがしっかりしないとモモ様の重荷になる。だから、考えたんだ」

マックスが決意したように前から考えていた進路をヒナリザとステフに告げた。

「俺は軍人になる。勉強して武術を会得して王立軍事養成校に入る。シルバー家は政治家として突出してても軍人は少ないから」

「マックスは軍人を目指すの?そんなことミシェル様やモモ様はお許しになるかな?」

ヒナリザが不安そうに訊ねるとマックスは意志の強そうな瞳を鋭く光らせた。

「今のシルバー家当主クロード様なら許可する。シルバー家の御子息は誰も軍人になっていない。俺に実力があれば願いをきいてくれる」

守られるだけは嫌だ……俺だって大切な存在を守りたい。

そう心に決めたマックスの表情を見つめながらヒナリザは笑顔で頷いた。

「僕は…軍人は無理だけど……たくさん勉強して大学に行きたいかな?身分は低いけど官吏になりたい」

ここで籠の小鳥のように保護されるだけの人生でなく助けられた命で大切な存在の役に立ちたかった。

モモは誰にも気後れせず恩義なんて感じるなと、ヒナリザたちに言い聞かせたが、これは恩義でなくてヒナリザ自身の意志だ。

シルバー家当主クロードなら才覚さえ認めれば孤児でも手駒として支援する。

大反対するだろうがモモだけにシルバー家の十字架を背負わせない。

そう決心したヒナリザとマックスを見ていたステフは無垢な笑顔で自分の進む道を言った。

「僕はここにいる!ヒナリザとマックスが軍人と官吏になったらシルバー家からいなくなるだろ?そうなるとミシェル様やモモ様は淋しい!」

まだ、何になるかハッキリしないがステフはシルバー家に残り、ミシェルとモモの傍にいようと宣言した。

「誰もいなくなったらモモ様は泣くことができなくなるよ!モモ様。ミシェル様の前では意地でも泣かないもん!」

ステフの言葉にヒナリザとマックスは思わず噴き出して笑ってしまった。

「ステフがいれば安心だね!僕は絶対に法学を学んで官吏になる!」

「俺も王立軍事養成所に受かって偉い軍人になって役に立つ!それをミシェル様やモモ様が反対しても!」

それぞれの道を極めて大切な人たちに尽くそうと誓いあうステフ、マックス、ヒナリザの声を聞いていたモモは嗚咽をもらすのを堪えていた。

「あいつら……ここに来たとき…あんなに怯えてたのに……」

痩せて弱そうだったステフとマックスとヒナリザを守っているようで心配されていたのだ。

「3人の未来が幸せであるよう……俺はシルバー家で生きてみせる!」

宮廷でモモがするべきことはミシェルの補佐と実は、もうひとつ重要な任務がある。

「まずは初の宮廷でバカ貴族どもに気に入られないとな」

それくらい容易にやってみせるとモモは首にかかった小鳥の木彫り細工を強く握った。

リリィ・ケリー・シルバーとして宮廷に出仕する前夜、背負った十字架の重さを鼻で笑うように、モモは軽やかな足どりでミシェルの寝室へと駆けて行った。

end





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