花嫁と貧乏貴族

寿里~kotori ~

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ワガママな愛情

ミモザ王子が西の離宮にてモモからラン・ヤスミカ家別邸で働くシオンの窮状を聞かされ、解決法を思案していたころ。

シオンは自爆による貞操掟破りを犯してしまいメンタルがズタボロであった。

執事として別邸で仕事していればエドガーと顔を合わすので私室から出られなくなる。

ラン・ヤスミカ家別邸の主人であるユーリはシオンを病として領地の教会に託して療養状態にさせる。

「労災だ。シオンを病ませたのは主人である俺の落ち度。だから落ち着くまでラン・ヤスミカ家の屋敷から遠ざける」

ユーリの決断にリンは罪悪感で苦悶していた。

そもそも、リンがエロ媚薬を公然と出しっぱなしにしていたからシオンは錯乱してこんな状態になった。

「申し訳ございません。ユーリ。シオンは少し屋敷から離れれば落ち着くでしょうか?」

「保証はできないな。シオンをスカウトしたのはモモ殿だから対処方法を相談する」

「こんなことになるなんて。私のせいでシオンは傷ついてエドガー兄様も苦しんでます。どうすればよいのか……」

リンは自分がしてしまった惨劇で泣きそうであった。

教会では司祭と助祭が協力してシオンが自害しないよう見張っている。

実際にシオンはエドガーとの事件から食事も水も口に入らず、みるみる痩せて衰弱していった。

悪意がなくてもリンの無自覚な行動のせいで大切な別邸の執事が死にかけている。

「私がどれだけ謝ってもシオンは責めはしないが許しはしない。本当にどうすれば?」

ついに泣き出してしまったリンにユーリは厳しく言い聞かせた。

「リン!泣いて許される話ではない。シオンがどうすれば心の安定を取り戻せるか……?考えてやれるのはそれだけだ」

「はい。でも本当に分からないのです!いくら考えても考えても妙案が浮かばない」

そんな問答をユーリとリンが繰り返していると近くで物音がした。

見るとエドガーが出かける様子なのでシオンのところかと尋ねるとエドガーはゆっくり頷いた。

「話に行く。私が原因ならシオンのためにも私はラン・ヤスミカ領を出ていく。それが道理だろう?」

シオンの神経衰弱の元凶はエドガーの存在なのだからエドガーが王宮がある都に帰れば解決する。

エドガーはそう考えているようだがユーリは思案するとソッと止めた

「それですとシオンは自分のせいでエドガー義兄上の居場所を奪ったと苦しみます。ここを去る選択をシオンに話すなら教会には行かないでください」

「では?どうすればシオンは元に戻るのだ?このまま私が屋敷にいる限りシオンは病み続ける」

エドガーのつらそうな声にユーリは決意したようにハッキリ告げた。

「俺がシオンに直接話してきます。シオンの本心を少しでも聞いてから対処します。それまでは待っていてください」

ユーリはリンも伴わずにシオンが隔離されている教会に向かった。

教会の司祭の話ではシオンは個室にこもったまま人前に出てこない。

食事も水も満足にとらないのでベッドに寝込んでいる状態であった。

世話をしている助祭の報告ではベッドに寝ながらブツブツと何か呟いてたまに微笑んでいる。

「産まれてくる子供は男児か女児か……おそらくは過去の記憶をよみがえらせて現実逃避しています。可哀想に」

予想以上にシオンの精神状態は悪いとユーリは息を呑んだが司祭が部屋に案内するのでシオンが寝ている部屋に入った。

薄暗い個室でシオンは痩せた身体を震わせてなにやら呟いていた。

ユーリが知っているシオンの明るく落ち着いた笑顔ではなくなんとも病的な笑みを浮かべて虚空を見つめている。

「もう少し待っててくれ……シオン。もうすぐ君たちのそばに行くから……あと……3日食を絶って水も飲まなければ大丈夫。シオン……」

シオン……シオンは偽名に使っている亡き妻の名前を呼んでいる。

ユーリはこの姿を見たとき真っ先に「これは……手遅れだ」と確信した。

シオン……正確にはイリスの魂はもうほとんど生きることを拒んでいる。

これではユーリがどんなに心を尽くして説得してもイリスをこの世に繋ぎ止めることは不可能だろう。

なにも言えず黙り込むユーリの背後に不意に気配がした。

エドガーが司祭の制止も押しのけてシオンの寝ている部屋に乱入してきたのだ。

「エドガー義兄上!?なりません!シオンに声をかけても逆効果です!」

ユーリが押し留めようとするとエドガーは乱暴に振り払ってシオンのベッドに近くまで迫った。

「シオン!食を絶っても水を絶っても私が無理やり口に押し込む!絶対に死なせん!悲しんだままお前を天国に逝かせない!」

「エドガー義兄上!?大声出すとシオンが動揺します!」

「構わぬ!シオン!お前は私を愛しているとたしかに言った!薬のせいでも抱けとせがんだ!ならば責任をとるのが道理だ。死ぬ以外で」

エドガーが声高に告げるとシオンはビクッと身体を硬直させてエドガーの方に顔を向けた。

「責任もとらず天国に逝っても妻子は相手にしまい」

「わかったようなことを言うな!シオンに会いたい死んだら合えるってそれだけを頼りに生きてきたんだ!俺はお前なんて好きじゃない!」

「それでも構わぬ。それだけ怒鳴れるのなら容易に死ねない。私は……2度と悲しみ心細い思いで死んでいく人を見たくはない!」

エドガーがそう叫ぶとシオンはなんのことやら理解できないといった顔で首をかしげた。

ユーリにはエドガーが叫んだ悲しみ心細い思いで死んでいった人が誰かハッキリわかった。

それはリンの生母だとユーリが納得するとエドガーが痩せていったシオンの身体を抱きしめて言った。

「私はお前を幸せにできない。幸せにすると言ってやる自信がいまはない。でも手放すのはイヤだ」

「……は!子供かよ?」

ようやくシオンの声音に生気が戻ってきた。

ユーリはエドガーに抱かれるシオンを見ながら思った。

人は誰かに求められることで命を吹き返すこともあるのではないか?

シオンのように根が真面目な人間の気持ちを好転させるものは自分を必要としてくれるワガママな愛情なのだろう。

エドガーにはシオンが必要だからシオンは不本意だが生き続ける。

それは消極的でもシオンの紛れもない意思の現れである。

愛情ではないがそういう形の希望があってもいい。

ユーリはシオンの瞳に光が戻ったことを確認するとエドガーを引き離そうとしているシオンに告げた。

「モモ殿に手紙を書いてご報告する。体力と気力が戻るまでは教会で養生してくれ。シオン……本当にごめんな」

「今回の騒動は全部俺の落ち度です。誰も悪くない。それだけです」

シオンの言葉にユーリは頷くとエドガーを促して帰ろうとした。

エドガーは名残惜しそうに「また、見舞いに来る」とシオンに囁いている。

シオンはその後も寝たり起きたりを繰り返しているがエドガーを見ても体調を崩すことなく笑顔が戻ってきた。

モモはユーリからの手紙でホッと胸を撫で下ろしたがミモザ王子は手紙を確認してポツリと呟いた。

「モモ。シオン……本名はイリス・アンバー・ライラック。この者の伯爵の位を剥奪した陰の首謀者がわかった」

「え?シオンが家族を殺した騒ぎで取り潰しになったんじゃ?」

ポカンとするモモにミモザは息を吐くと真実を告げた。

「シオン……イリスの奥方に毒をもったは彼の実母と実兄の仕業だろう。しかし……黒幕はおそらくはアンバー・ライラック家が奪われた領地を引き継いだ者だ」

ミモザ王子の発言にモモは雷が直撃したような衝撃を受けた。

シオンの実家が保有していた領地と富を引き継いだのは隣国の王家の関係者だった。

そうなると最初からシオンは領地を奪う目的で見えない敵に嵌められたことになる。

「シオンが脱獄できたのは看守が王家の関係者の思惑を知っていたからだ。斬首になる前にシオンは看守に殺される手筈だった」

「でも!看守はシオンを牢獄から解放した!なんで!?」

モモは考え込んだがハッと閃くものがあった。

直感だがシオンを生きて逃がすメリットはこれしかない。

「シオンが逃げるなら国境を超える……ラン・ヤスミカ領付近に潜伏すると看守はあらかじめ考えていた?」

「そうだ。この国に亡命すれば貴族は基本無罪になる。看守はそれを読んでいてシオンに国境を超えろと促したはず」

「シオンは……いや!アンバー・ライラック伯爵家は反国王派の一味だった?だから、御家騒動に偽造して抹殺された」

モモが口から絞り出すとミモザ王子は深く頷いた。

「隣国の王家はまんまと若いシオンにすべてを擦り付けてアンバー・ライラック家を潰した。しかし、隣国はそれくらい反国王派を疎んじていた」

隣国の情勢は予想外にキナ臭いなとミモザ王子は笑った。

「シオンはそんな国の思惑なんて知らずに家族を殺して亡命した。看守はなにも知らないシオンに同情して逃がしたのだろう」

15歳のシオンでは自分の家の危ない状況など容易に気づけまい。

そして、永遠に気づかなくてよいとモモは強く願った。

シオンはこれからも苦しむだろうがエドガーがそばにいればいたずらに命を絶たないだろう。

モモがそうであって欲しいと祈っているとミモザ王子は鋭く目を光らせて冷やかな声で告げた。

「いずれ……隣国には大鉈をふるわねばならぬ」

隣国の王家の周辺が腐りきっているとこちらの国まで悪影響だとミモザ王子は言い切った。

「まあ、先の話だ。モモ……シオンが本調子になるまで手紙を書いておやり」

「はい!あの……ミモザ王子?なんで俺にも分からなかった隣国の情勢を知れたのですか?」

モモの問いかけにミモザ王子は唇に人差し指をやると少しからかうように微笑んだ。

一方のラン・ヤスミカ領ではようやく起きあがることができるようになったシオンを支えながらエドガーが言った。

「シオン。お前がどう嫌がっても私はシオンを愛人にする」

「勝手にしろ。なら……2人だけのときはエドガーって呼んでいいか?」

シオンの要求をエドガーは超絶イケメンフェイスで快諾したのである。

end
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