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佳き日の園遊会~前編~
天使の祝福の歌声が聴こえるような爽やかな晴れの日であった。
国王陛下の愛娘でゆくゆくは女王陛下に即位することが決まっている王女ダイアナ・アニス・ヴェルレーヌ・ぺオニア・ラクティフロラの婚約が正式に発表される王宮の園遊会が催される。
園遊会には国内屈指の名門貴族、外国からの大使などの選ばれし貴人たちが一同にかいする。
王宮で最も美しいと謳われる華やかな庭園は花も羞じらうほど優美に着飾った貴婦人や貴公子であふれていた。
「これぞ常春の煌めきという光景だ。高貴な方々の姿で庭園がますます華やいでいる」
ひとりの身分ある青年貴族が感嘆の声を漏らすと隣にいた貴婦人が賛同するように微笑んだ。
「本当に美しゅうございますね。天に祝福された晴天の花園に現れるダイアナ王女様はさぞかし美麗でしょう」
「ダイアナ王女の美しさ聡明さは国内外に轟いている!お姿を直に見られるなんて畏れ多い」
庭園に集った貴族たちは国王夫妻の自慢のひとりの娘……ダイアナ王女の登場を心待ちにしている。
王女の婚約発表なのに肝心の結婚相手であるミモザ王子の存在はまだまだ空気かと思ったら1部の貴族たちが興奮した様子で語り合っている。
「皆さま……私の夫が婚約の祝いのお手紙をミモザ王子に送りましたの……」
「まあ!あなた様のご主人も?私のところもお手紙を書いたわ……!そうしたらね!素敵なお返事を頂いたのよ!」
「やはりそうですの!?私の主人のもとにもミモザ王子からのお返事がきましたわ!」
「流麗な筆跡で私ったら見惚れてしまって!お手紙の内容も理知的でお優しそうでしたわ!ミモザ王子って気難しい御方だと誤解してましたが違うのね?」
思っていたイメージと全く異なると1部の貴族たちはミモザ王子のことで盛り上がっている。
意地悪な者はあれは誰かに代筆させたのだろうと嘲笑ったが、ミモザ王子の離宮にあれほどの手紙を代筆できる従者はいないとミモザ王子を見直し始めた貴族は反論した。
「離宮には限られた従者しかいない!シルバー家のご子息が仕えているが筆跡が同じで代役とは思えません!」
実はモモが代筆した手紙も若干混じっているが、それもミモザ王子が口述筆記させている。
大半はミモザ王子が直々に返事をしたためているのが真実だ。
「まさか……王子からお返事がくるなんて予想外でしたわ!絶対に無視されると思ったのに」
「私の主人は以前、病で臥せったでしょう?ミモザ王子は主人の身体を気遣うお手紙をくれたの!」
心遣いにあふれたお手紙で感激しましたわ~っと貴婦人たちは笑顔で絶賛していた。
宮廷貴族たちは陰気で気難しい性格だと思っていたミモザ王子が、それほど高慢でもなく細やかな気遣いができると知って評価を徐々に変えている。
「王子がそれなりにマシなのは認める!だが、何年も西の離宮から外に出ていないなら容姿は美しいダイアナ王女に劣る貧弱で青白い惨めな姿に違いない!」
華やかで麗しいダイアナ王女の引き立て役だな、と笑う貴族派閥とそんなことないと反発する貴族の特にご婦人たちのかしましい声が庭園にキンキン響いている。
少し離れた場でそれを聴いていたミモザ王子は愉快そうにクスクス笑っていた。
「ここで僕の悪口を聴いてる方が愉快ですね」
自分を侮辱されているのに他人事なミモザ王子……ミモザ・エルキュール・ぺオニア・スッフルティコサにダイアナ王女は呆れながら言った。
「もう!ミモザは何があっても飄々と笑って淡々としてるわね。せっかく少し評判が上がっているのに」
もう少し意地とプライドを持って憤ったらいかがと指摘するダイアナ王女にミモザ王子は平然と告げた。
「これが僕の現在の明確な貴族間の評価です。ですが、これくらいでちょうどよい。姉上の引き立て役が僕の真の務めですから」
「本当にミモザは揺るがないわね。わたくしの評判を貶めない程度に貴族の信頼を得るけど、それ以上はけして踏み込まない……。貴方の冷静さには負けるわ」
「畏れ入ります。ダイアナ姉上」
これから婚約発表なのに全然緊張も恥ずかしがってもいないダイアナ王女とミモザ王子の姿にミシェルとモモはもはや感動していた。
「すごい……!あと少しで国王陛下と王妃が庭園にお成りになり挨拶後、王女と王子の婚約を告げてからお二方が揃って登場する段取りだけど。国王陛下の方が緊張しておられた!」
「ミシェル!国王陛下は緊張というよりは号泣してたぞ?最愛の娘と可愛い甥っ子が夫婦になることに涙腺ゆるんでる!婚約発表であの号泣なら婚礼が思いやられるな!」
国王陛下が感激してあまりに泣くので王妃は優雅に微笑みながらハンカチで涙で濡れた夫の頬を撫でていた。
この王妃はシルバー家の当主クロードの正妻であるローズ夫人とは親友で大の仲良しである。
ここで王家とシルバー家の関係性を確認していこう。
国王陛下とローズ夫人は従兄妹同士でローズ夫人は王族出身でありシルバー家当主クロードの正妻だ。
なのでミシェルは王家の傍流という関係性となる。
そして、ダイアナ王女は現在号泣している国王陛下のひとりの娘で正式な王家の第1王位継承者。
母君である王妃は意外にも他国から嫁いできた。
政略結婚なのだが王妃の実家は属国のような立場で王家との繋がりは深く関係性は良好である。
最後にミモザ王子は国王陛下の弟の忘れ形見であり、母はシルバー家とならぶ大貴族ヴィオレッド家出身だった。
要するにダイアナ王女とミモザ王子は父方の従姉弟同士でミモザ王子の亡き父は国王陛下の唯一の弟君であり、大変兄弟仲がよかった。
でなければ実弟の子供とはいえ甥のミモザ王子を国王夫妻は養子に迎えないだろう。
「国王陛下が号泣をやめないと園遊会が進まない」
国のトップともあろう国王陛下がいくら愛娘の婚約発表でも、さめざめ泣いてるはアウトである。
王妃が必死に慰めているが国王は号泣している。
段取り通りに進まずモモはイラッとしてきた。
「ああ!もう!いつまで泣いてんだよ!葬儀じゃあるまいし!いい加減泣き止め!殺すぞ!?」
ついに国王陛下にまで殺すと暴言をとばしたモモに対してミシェルは流石に青ざめたがミモザ王子は落ち着いている。
「モモ。国王陛下への謀反と疑われる言葉は慎め。大切なひとり娘を案ずるは親として必然だ」
庭園では貴族たちが勝手に盛り上がっているから少しくらい儀式が遅れても皆、気に留めまいとミモザ王子は微笑しながらモモを諭した。
本当に何事にも動揺しない冷静沈着な王子だとミシェルが改めて感心しているとダイアナ王女が言った。
「でも……そろそろお父様には泣き止んでもらわないと困りますわ。ミシェル。何か珍妙な冗談を言ってお父様を笑わせてちょうだい」
とんでもない無茶振りをするダイアナ王女!
しかし、命令は命令なのでミシェルは少し離れた場で待機している国王陛下と王妃の御前に歩いていった。
「なにを言うつもりだ?ミシェルは?」
ミモザ王子に付き従うモモが心配そうに様子を伺っていると不意に国王陛下が爆笑する声が聴こえてきた。
王妃も上品にだが笑っている。
「なんとか儀式は滞りなく始まるようですね?姉上」
「ええ!ミシェルがなにをお父様に告げたか知らないけれど。ここで待ちぼうけも飽きてきたわ」
国王陛下と王妃が気を取り直して庭園に用意された壇上に向かったので園遊会は本番をむかえる。
戻ってきたミシェルに向かってモモは「いったいなにを陛下に言ったんだ?」と訊ねるとミシェルは真面目な顔で答えた。
「エドガーからの手紙の内容をお話しした。そうしたら陛下はすぐに泣くのをやめたよ」
「エドガー様からの手紙?そんな笑うようなネタはあったか?」
エドガーの手紙なんて読みなれているモモは首を傾げたがミシェルは最近届いた手紙のなかで、シルバー家ならば「ふーん」と納得して終わるトンデモ内容を暴露した。
「シオンのことをエドガーは書いてきたのだが……。エドガーはシャックリをしていたシオンを見て妊娠したと本気で勘違いしている。絶対に生物学上あり得ないのに」
「それ?エドガー様の妄想だろ?何でシオンが妊娠したなんて発想にいきつく?」
そういう行為をしたとしても性別男同士なので身籠るなんて勘違いはまずしない。
シルバー家かラン・ヤスミカ家ならば単なるエドガーのエロ妄想で片づくが国王陛下にはツボだったらしい。
現に国王陛下と王妃が去ったあとにシルバー家当主でミシェルの父クロードがプンプンしながらやってきた。
「ミシェル!お前……陛下にエドガーがシオンのシャックリをツワリと勘違いしたってバカチン内容を暴露したな!?国王陛下が笑いを堪えきれず爆笑されている!陛下がここに集った貴族に言っちゃったらどうするつもりだ!?」
国王陛下は笑いのハードルが低いのだぞとクロードがミシェルを叱ると聴いていたミモザ王子が口角をあげて呟いた。
「兄への手紙に男の恋人が妊娠したなどと本気で記してくる弟がいたら本来なら爆笑では済まされまい」
国王陛下ともあろう御方が、そんな戯れを暴露はしないとミモザ王子がクロードを黙らせたが、ダイアナ王女は思い出したように口を開いた。
「そういえば!クロード?子種と妊娠のお薬を貴方のご子息のリン殿に頼んでいるわ。届いてないかしら?」
訊ねられたクロードは「ああ!そのことですか!」と嬉々として応じた。
「リンから届きましたが急に王女と王子に献上は心配でしたので私の屋敷のルドルフというシェフに飲ませて人体実験しましたぞ?」
シルバー家本邸のシェフのルドルフはリンの薬の人体実験の検体にされたらしい。
「そうしましたら!ルドルフはエドガーに代わって夜に全裸で屋敷を疾走するようになり申した!」
夜中に足音が響くのでうるさいと屋敷の召使いたちから苦情が続出しております……クロードから恐るべき事実を聞いてミモザ王子はダイアナ王女に告げた。
「姉上。ドーピングはせず正攻法で子作りした方が安全です」
「そうね。先にクロードが毒味をさせておいて幸いだったわ」
ルドルフは朝昼夜はシェフで真夜中はマッパというなんともエモい状況になったが解雇はされていない。
園遊会の本題が出る前から相当にカオスな話題で大渋滞だが、いよいよ国王陛下と王妃が貴族たちの前に登場する段になった。
「国王陛下と王妃のお成りにございます!」
臣下の声が響いて貴族たちがみな恭しく膝まずいて一斉に礼をしている。
国王の挨拶と王妃の言葉が終わり、ついに待ちに待ったそのときがやってきた。
「本日!この佳き日!皆に集まってもらったのはほかでもない!余と王妃の愛しき娘ダイアナの婚約を報せるためである!」
国王陛下の威厳に満ちた張りのある声が庭園に轟いて続いて臣下が一礼すると息を吸い込んだ。
「これより!ダイアナ王女!ミモザ王子のお成りにございます!」
ワッと貴族たちが歓声をあげたのでミモザ王子は普段通り、軽く息を吐くと何気なくダイアナ王女に言った。
「お時間ですね。姉上……僕の手をとって前を歩いてください」
「わかったわ。ミモザ。貴方と手を繋ぐなんて!なんだか幼いころみたいね?」
さぁ……貴族たちが待ちくたびれる前に2人で行きましょうか?
ダイアナ王女が手を差しのべるとミモザ王子は丁寧に礼儀正しく王女の手のひらに自分の手を添えた。
ダイアナ王女が前を先に進み、ミモザ王子は少し後ろを静かに歩いていく。
ミモザ王子の近習であるモモはダイアナ王女の側近であるミシェルの背中をバシンと叩くと笑った。
「俺らも持ち場に待機するぞ!ミシェル!」
「そうだね。モモ……あっちだから行こう」
ミシェルはモモの手を握ると何かから護るように奪われないように宴のなかへと進んでいった。
佳き日……雅な園遊会は始まったばかりである。
end
国王陛下の愛娘でゆくゆくは女王陛下に即位することが決まっている王女ダイアナ・アニス・ヴェルレーヌ・ぺオニア・ラクティフロラの婚約が正式に発表される王宮の園遊会が催される。
園遊会には国内屈指の名門貴族、外国からの大使などの選ばれし貴人たちが一同にかいする。
王宮で最も美しいと謳われる華やかな庭園は花も羞じらうほど優美に着飾った貴婦人や貴公子であふれていた。
「これぞ常春の煌めきという光景だ。高貴な方々の姿で庭園がますます華やいでいる」
ひとりの身分ある青年貴族が感嘆の声を漏らすと隣にいた貴婦人が賛同するように微笑んだ。
「本当に美しゅうございますね。天に祝福された晴天の花園に現れるダイアナ王女様はさぞかし美麗でしょう」
「ダイアナ王女の美しさ聡明さは国内外に轟いている!お姿を直に見られるなんて畏れ多い」
庭園に集った貴族たちは国王夫妻の自慢のひとりの娘……ダイアナ王女の登場を心待ちにしている。
王女の婚約発表なのに肝心の結婚相手であるミモザ王子の存在はまだまだ空気かと思ったら1部の貴族たちが興奮した様子で語り合っている。
「皆さま……私の夫が婚約の祝いのお手紙をミモザ王子に送りましたの……」
「まあ!あなた様のご主人も?私のところもお手紙を書いたわ……!そうしたらね!素敵なお返事を頂いたのよ!」
「やはりそうですの!?私の主人のもとにもミモザ王子からのお返事がきましたわ!」
「流麗な筆跡で私ったら見惚れてしまって!お手紙の内容も理知的でお優しそうでしたわ!ミモザ王子って気難しい御方だと誤解してましたが違うのね?」
思っていたイメージと全く異なると1部の貴族たちはミモザ王子のことで盛り上がっている。
意地悪な者はあれは誰かに代筆させたのだろうと嘲笑ったが、ミモザ王子の離宮にあれほどの手紙を代筆できる従者はいないとミモザ王子を見直し始めた貴族は反論した。
「離宮には限られた従者しかいない!シルバー家のご子息が仕えているが筆跡が同じで代役とは思えません!」
実はモモが代筆した手紙も若干混じっているが、それもミモザ王子が口述筆記させている。
大半はミモザ王子が直々に返事をしたためているのが真実だ。
「まさか……王子からお返事がくるなんて予想外でしたわ!絶対に無視されると思ったのに」
「私の主人は以前、病で臥せったでしょう?ミモザ王子は主人の身体を気遣うお手紙をくれたの!」
心遣いにあふれたお手紙で感激しましたわ~っと貴婦人たちは笑顔で絶賛していた。
宮廷貴族たちは陰気で気難しい性格だと思っていたミモザ王子が、それほど高慢でもなく細やかな気遣いができると知って評価を徐々に変えている。
「王子がそれなりにマシなのは認める!だが、何年も西の離宮から外に出ていないなら容姿は美しいダイアナ王女に劣る貧弱で青白い惨めな姿に違いない!」
華やかで麗しいダイアナ王女の引き立て役だな、と笑う貴族派閥とそんなことないと反発する貴族の特にご婦人たちのかしましい声が庭園にキンキン響いている。
少し離れた場でそれを聴いていたミモザ王子は愉快そうにクスクス笑っていた。
「ここで僕の悪口を聴いてる方が愉快ですね」
自分を侮辱されているのに他人事なミモザ王子……ミモザ・エルキュール・ぺオニア・スッフルティコサにダイアナ王女は呆れながら言った。
「もう!ミモザは何があっても飄々と笑って淡々としてるわね。せっかく少し評判が上がっているのに」
もう少し意地とプライドを持って憤ったらいかがと指摘するダイアナ王女にミモザ王子は平然と告げた。
「これが僕の現在の明確な貴族間の評価です。ですが、これくらいでちょうどよい。姉上の引き立て役が僕の真の務めですから」
「本当にミモザは揺るがないわね。わたくしの評判を貶めない程度に貴族の信頼を得るけど、それ以上はけして踏み込まない……。貴方の冷静さには負けるわ」
「畏れ入ります。ダイアナ姉上」
これから婚約発表なのに全然緊張も恥ずかしがってもいないダイアナ王女とミモザ王子の姿にミシェルとモモはもはや感動していた。
「すごい……!あと少しで国王陛下と王妃が庭園にお成りになり挨拶後、王女と王子の婚約を告げてからお二方が揃って登場する段取りだけど。国王陛下の方が緊張しておられた!」
「ミシェル!国王陛下は緊張というよりは号泣してたぞ?最愛の娘と可愛い甥っ子が夫婦になることに涙腺ゆるんでる!婚約発表であの号泣なら婚礼が思いやられるな!」
国王陛下が感激してあまりに泣くので王妃は優雅に微笑みながらハンカチで涙で濡れた夫の頬を撫でていた。
この王妃はシルバー家の当主クロードの正妻であるローズ夫人とは親友で大の仲良しである。
ここで王家とシルバー家の関係性を確認していこう。
国王陛下とローズ夫人は従兄妹同士でローズ夫人は王族出身でありシルバー家当主クロードの正妻だ。
なのでミシェルは王家の傍流という関係性となる。
そして、ダイアナ王女は現在号泣している国王陛下のひとりの娘で正式な王家の第1王位継承者。
母君である王妃は意外にも他国から嫁いできた。
政略結婚なのだが王妃の実家は属国のような立場で王家との繋がりは深く関係性は良好である。
最後にミモザ王子は国王陛下の弟の忘れ形見であり、母はシルバー家とならぶ大貴族ヴィオレッド家出身だった。
要するにダイアナ王女とミモザ王子は父方の従姉弟同士でミモザ王子の亡き父は国王陛下の唯一の弟君であり、大変兄弟仲がよかった。
でなければ実弟の子供とはいえ甥のミモザ王子を国王夫妻は養子に迎えないだろう。
「国王陛下が号泣をやめないと園遊会が進まない」
国のトップともあろう国王陛下がいくら愛娘の婚約発表でも、さめざめ泣いてるはアウトである。
王妃が必死に慰めているが国王は号泣している。
段取り通りに進まずモモはイラッとしてきた。
「ああ!もう!いつまで泣いてんだよ!葬儀じゃあるまいし!いい加減泣き止め!殺すぞ!?」
ついに国王陛下にまで殺すと暴言をとばしたモモに対してミシェルは流石に青ざめたがミモザ王子は落ち着いている。
「モモ。国王陛下への謀反と疑われる言葉は慎め。大切なひとり娘を案ずるは親として必然だ」
庭園では貴族たちが勝手に盛り上がっているから少しくらい儀式が遅れても皆、気に留めまいとミモザ王子は微笑しながらモモを諭した。
本当に何事にも動揺しない冷静沈着な王子だとミシェルが改めて感心しているとダイアナ王女が言った。
「でも……そろそろお父様には泣き止んでもらわないと困りますわ。ミシェル。何か珍妙な冗談を言ってお父様を笑わせてちょうだい」
とんでもない無茶振りをするダイアナ王女!
しかし、命令は命令なのでミシェルは少し離れた場で待機している国王陛下と王妃の御前に歩いていった。
「なにを言うつもりだ?ミシェルは?」
ミモザ王子に付き従うモモが心配そうに様子を伺っていると不意に国王陛下が爆笑する声が聴こえてきた。
王妃も上品にだが笑っている。
「なんとか儀式は滞りなく始まるようですね?姉上」
「ええ!ミシェルがなにをお父様に告げたか知らないけれど。ここで待ちぼうけも飽きてきたわ」
国王陛下と王妃が気を取り直して庭園に用意された壇上に向かったので園遊会は本番をむかえる。
戻ってきたミシェルに向かってモモは「いったいなにを陛下に言ったんだ?」と訊ねるとミシェルは真面目な顔で答えた。
「エドガーからの手紙の内容をお話しした。そうしたら陛下はすぐに泣くのをやめたよ」
「エドガー様からの手紙?そんな笑うようなネタはあったか?」
エドガーの手紙なんて読みなれているモモは首を傾げたがミシェルは最近届いた手紙のなかで、シルバー家ならば「ふーん」と納得して終わるトンデモ内容を暴露した。
「シオンのことをエドガーは書いてきたのだが……。エドガーはシャックリをしていたシオンを見て妊娠したと本気で勘違いしている。絶対に生物学上あり得ないのに」
「それ?エドガー様の妄想だろ?何でシオンが妊娠したなんて発想にいきつく?」
そういう行為をしたとしても性別男同士なので身籠るなんて勘違いはまずしない。
シルバー家かラン・ヤスミカ家ならば単なるエドガーのエロ妄想で片づくが国王陛下にはツボだったらしい。
現に国王陛下と王妃が去ったあとにシルバー家当主でミシェルの父クロードがプンプンしながらやってきた。
「ミシェル!お前……陛下にエドガーがシオンのシャックリをツワリと勘違いしたってバカチン内容を暴露したな!?国王陛下が笑いを堪えきれず爆笑されている!陛下がここに集った貴族に言っちゃったらどうするつもりだ!?」
国王陛下は笑いのハードルが低いのだぞとクロードがミシェルを叱ると聴いていたミモザ王子が口角をあげて呟いた。
「兄への手紙に男の恋人が妊娠したなどと本気で記してくる弟がいたら本来なら爆笑では済まされまい」
国王陛下ともあろう御方が、そんな戯れを暴露はしないとミモザ王子がクロードを黙らせたが、ダイアナ王女は思い出したように口を開いた。
「そういえば!クロード?子種と妊娠のお薬を貴方のご子息のリン殿に頼んでいるわ。届いてないかしら?」
訊ねられたクロードは「ああ!そのことですか!」と嬉々として応じた。
「リンから届きましたが急に王女と王子に献上は心配でしたので私の屋敷のルドルフというシェフに飲ませて人体実験しましたぞ?」
シルバー家本邸のシェフのルドルフはリンの薬の人体実験の検体にされたらしい。
「そうしましたら!ルドルフはエドガーに代わって夜に全裸で屋敷を疾走するようになり申した!」
夜中に足音が響くのでうるさいと屋敷の召使いたちから苦情が続出しております……クロードから恐るべき事実を聞いてミモザ王子はダイアナ王女に告げた。
「姉上。ドーピングはせず正攻法で子作りした方が安全です」
「そうね。先にクロードが毒味をさせておいて幸いだったわ」
ルドルフは朝昼夜はシェフで真夜中はマッパというなんともエモい状況になったが解雇はされていない。
園遊会の本題が出る前から相当にカオスな話題で大渋滞だが、いよいよ国王陛下と王妃が貴族たちの前に登場する段になった。
「国王陛下と王妃のお成りにございます!」
臣下の声が響いて貴族たちがみな恭しく膝まずいて一斉に礼をしている。
国王の挨拶と王妃の言葉が終わり、ついに待ちに待ったそのときがやってきた。
「本日!この佳き日!皆に集まってもらったのはほかでもない!余と王妃の愛しき娘ダイアナの婚約を報せるためである!」
国王陛下の威厳に満ちた張りのある声が庭園に轟いて続いて臣下が一礼すると息を吸い込んだ。
「これより!ダイアナ王女!ミモザ王子のお成りにございます!」
ワッと貴族たちが歓声をあげたのでミモザ王子は普段通り、軽く息を吐くと何気なくダイアナ王女に言った。
「お時間ですね。姉上……僕の手をとって前を歩いてください」
「わかったわ。ミモザ。貴方と手を繋ぐなんて!なんだか幼いころみたいね?」
さぁ……貴族たちが待ちくたびれる前に2人で行きましょうか?
ダイアナ王女が手を差しのべるとミモザ王子は丁寧に礼儀正しく王女の手のひらに自分の手を添えた。
ダイアナ王女が前を先に進み、ミモザ王子は少し後ろを静かに歩いていく。
ミモザ王子の近習であるモモはダイアナ王女の側近であるミシェルの背中をバシンと叩くと笑った。
「俺らも持ち場に待機するぞ!ミシェル!」
「そうだね。モモ……あっちだから行こう」
ミシェルはモモの手を握ると何かから護るように奪われないように宴のなかへと進んでいった。
佳き日……雅な園遊会は始まったばかりである。
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