花嫁と貧乏貴族

寿里~kotori ~

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心配ごと

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 ラン・ヤスミカ領から遠く離れた王宮ではミシェルがため息を吐いていた。

「あら?ミシェル。なんだか元気がないわね?モモがお手紙をくれないの?」

ダイアナ王女の言葉にミシェルは再び息を吐くと理由を述べた。

「いえ……。モモからは頻繁に手紙が来るのですが……。少し別件で」

「別件?あなたがモモのこと以外で物憂げになるなんて珍しいわ。話なら聞くわよ?」

側近がアンニュイになっているのを心配したダイアナ王女に対してミシェルは浮かない表情で告げたのだ。

「実は……私の愛人として引き取った男の子2人が自立してしまうのです。1人は王立大学に進学して、もう1人は王立士官学校に入るので」

ヒナリザとマックスは無事に進学先から合格の知らせをもらい数ヵ月後にはシルバー家本邸から出ることになる。

「王立大学と士官学校は原則的に全寮制です。あの子達の希望が叶ったのは嬉しいですが色々と心配で」

ヒナリザとマックスはシルバー家の縁者として進学が決まった。

合格は2人の実力だが、シルバー家のコネで裏口入学のレッテルをはられる恐れがある。

それでヒナリザとマックスが他の学生にいじめられたらどうしよう、とミシェルは悩んでいるのだ。

「あの子たちはモモほど強気ではありません。特にヒナリザは引っ込み思案な子なので心配です。マックスは利発ですが軍隊養成の場で危険な目に遭わないか!」

本当は2人の自立を喜んであげるべきなのに心配が勝ってそれどころではない、とミシェルはうつむいてしまった。

ダイアナ王女は黙って話を聴いていたがミシェルが言葉をきると優しい口調で言った。

「ミシェルが可愛がっている男の子たちを案ずるのはわかるわ。でも、ヒナリザとマックスは大丈夫よ。あまりミシェルが心配していると彼らが不安になるわよ?」

「そうなのですが……。ずっと本邸で一緒に暮らした2人が巣立ちするなんて。1人残されるステフだって寂しがります。実弟のエドガーと離れて暮らしていても1ミリも寂しくないですが、ヒナリザとマックスがシルバー家から出ていくのは寂しさと心配で耐えられません!」

実の弟エドガーはラン・ヤスミカ家別邸でシオンに付きまといながら楽しくやっているのでミシェルとしてもそこまで寂しさを感じない。

ただでさえ、モモが不在のなかヒナリザとマックスの進路が確定してしまいミシェルは不安で仕方がなかった。

「ヒナリザとマックスには休暇や時間があればシルバー家に必ず戻ること。他の学生に意地悪されたら速やかに私に報告すること。意地悪した学生とそれを黙認した教授や教官はシルバー家の名のもとに退学及び解雇に処すから安心しなさいと伝えてはいるのですが……」

「休暇に戻る以外の言い付けが全く安心できないわ。ミシェル。ヒナリザとマックスを心配しすぎて途中からモンスターペアレントみたいになっているわよ?」

シルバー家の威光で王立大学や士官学校の関係者がいたずらに退学解雇される事態は避けたいとダイアナ王女は思った。

そもそも、ヒナリザとマックスが大学や士官学校でうまくやれるかなんて本人たち次第であり、ミシェルがどんなに案じても意味はないのだ。

モモが傍にいてくれたらグズグズ心配しまくるミシェルを叱咤して張り飛ばしてくれるが、あいにく現在はダイアナ王女の婿となるミモザ王子と御忍びで視察中である。

「ミシェル!ヒナリザとマックスにはモモがついているわ!モモとずっと仲良くできた子達ならばどこに行っても周囲と良好な関係が築けるわよ!」

「はい……。モモと関係が良好であった愛人はヒナリザ、マックス、ステフの3人なので、そう考えると希望が持てます」

「あなたって美少年の愛人を何人持っていたの?わたくしとしてはヒナリザとマックスがミシェルの愛人と露呈しないかの方が不安だわ」

「最高で5人なのでそれほど多くはないですよ。1人はモモの機嫌を損ねて殺されましたが」

「あら?ミシェルの寵愛でも争っていたの?」

「違います。モモはそんなくだらないことで他人を消したりしません」

殺されたのは弱小貴族の少年だったが、ひどく高慢で大人しいヒナリザをいじめていた。
それが、モモの怒りを買ったのだ。

ミシェルの前妻で現在は隣国の王太子妃となっている貴婦人が傭兵を雇って企んだミシェルの愛人襲撃事件が勃発したのもこの頃である。

モモはこの襲撃事件をうまく利用して横柄で目障りな貴族の少年を抹殺した。

貴族の少年には気の毒だが、モモを敵にまわした時点で死亡フラグがたったも同然なのでミシェルとしても仕方ないと理解している。

「彼の高慢な態度はたびたび叱りましたが効果はなかったようで」

「それで、モモが代わりに始末したのね。頼もしい限りよ」

ダイアナ王女はそう言うとミモザ王子からの手紙を見せて息を吐いた。

「ミモザったら!王宮を離れた途端に無茶をして!ミシェル!わたくしもミモザのことが心配で気が気でないのよ?」

「はい。モモからの手紙で存じております。隣国の子供を引き取ってしまったと……。有り金をはたいて」

「幸い引き取られた子供はラン・ヤスミカ家の方々があたたかく迎えてくれたけど。わたくしは子供の頃からミモザが危なっかしくて心配だったわ」

子供らしい愛嬌はないくせに常に自分を顧みず他人に献身的すぎるミモザ王子の性格を従姉であるダイアナ王女はよく理解していた。

しかし、ミモザ王子はけして誰にでも慈悲深いわけでもない。

悪意や欲深い人間の思惑は敏感に見抜くので人一倍警戒心が強いというアンバランスな心の持ち主なのだ。

「ミモザは弱い立場の者を見捨てられない。何故ならミモザ自身も弱いからよ」

ダイアナ王女の言葉にミシェルは耳を疑った。

「ご冗談を!ミモザ王子は聡明で凛としていて!とてもご立派な御方かと?」

「そうね。ミモザは賢くて王家を……国を守る使命感に溢れている。でも、わたくしは心配なの」

弱い立場の者を慈しむ心は素晴らしいが、国政は残念ながら貴族や聖職者が優先の不公平な世界だ。

ミモザ王子を政治に関わらせたら危険ではないかとダイアナ王女も、また悩んでいた。

「ミモザは賢くて優秀だと思うわ。でも、優秀と有能は違う」

「それはそうですが……。ミモザ王子はまだ14歳です。ダイアナ王女との婚礼を終えて大人になればきっと素晴らしい才能を発揮されます」

ミシェルが断言するとダイアナ王女は少し微笑んだ。

「なんだか、ミシェルを励ましていたのに逆に励まされてしまったわ」

クスクス笑うダイアナ王女を見てミシェルがホッとするとダイアナ王女の女官長がしずしずと入ってきた。

「失礼いたします。ダイアナ王女様。ミモザ王子様よりお手紙とお届け物でこざいます」

「ありがとう。何かしら?
偉大なる未来の女王陛下にして僕の愛しい姉上様……。あら!まあ!すごいわ!?」

突如、ダイアナ王女が笑顔ではしゃぎ出したのでミシェルと女官長はビックリしたが、ダイアナ王女が手紙を読み上げた。

「先日、有り金をゼロにして送金をしていただきましたが姉上にお手間をかけるのは申し訳なく、モモに賭博を教わって裏賭博で失った有り金の倍額を稼ぎました。
送金分はお返しいたします……。すごいわ!ミモザったらギャンブルもできるのね!」

婚礼前の花嫁に仕送りをもらうのはミモザ王子としても気が引けたらしく、手っ取り早くギャンブルを覚えて稼いできた。

王子様が賭博している時点で相当にアウトだとミシェルはヒヤヒヤしたが、ダイアナ王女の女官長はなんと喜んでいる。

「さすがはダイアナ王女の夫となる御方!ギャンブルもお強いなんて素晴らしいですわ!私もギャンブルをしますが弱くて主人にこれ以上金貨を溶かすなと叱られていて!」

ダイアナ王女の女官長がまさかのギャンブル狂だった件!

とにかくミモザ王子はダイアナ王女を頼らず自力で手段はどうであれ金貨を稼いできた。

それだけの強さがあれば女王の夫でも十分大丈夫だろうとミシェルは安心したが、ダイアナ王女が読んだ手紙の最後で別の不安が生まれた。

「追伸。
モモに内緒で賭場に出掛けたのでラン・ヤスミカ家に帰ったらモモに殴られました。
姉上にも殴られたことがないので逆に新鮮でしたがかなり痛かったです。ついにモモがミモザを殴ったわね」

「申し訳ありません!モモには手紙できつく言っておくゆえ!」

ミモザ王子をぶん殴ったモモの気持ちも分からないでもないがミシェルは平謝りである。

ダイアナ王女は鷹揚に許しながらも、怒ると王子さえも殴るような気性の激しいモモと何年も仲良くしているヒナリザとマックスならば、王立大学だろうが王立士官学校だろうが問題なく馴染むだろうと心で結論付けた。

end


















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