花嫁と貧乏貴族

寿里~kotori ~

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2つの心臓

 ミモザ王子との視察旅行を無事に終えたモモは本当に久しぶりにシルバー家本邸に戻っていた。
思えばミモザ王子の側近に任命されてからは王宮の離宮で働いている時間が長くてモモはミシェルともろくに喋れない毎日を送っていたのだ。

視察が終わりミモザ王子から束の間の休暇をもらったモモはグッタリしながらベットでミシェルに言い放った。

「もう……。ミモザ王子と2人旅は絶対にイヤだ!」

黒髪をシーツに垂らし、疲れきっているモモを抱き締めるとミシェルは不思議そうに問いかけた。

「そんなに困難な旅だったのかい?モモとミモザ王子は仲良くやっていただろう?私が嫉妬するレベルに」

王宮にある西の離宮から滅多に外に出ないミモザ王子が長旅をしたのだから想定外な事態は起こるとは思うが、それに屈するモモではないはずだ。
現に見事、ミモザ王子を無事に王宮まで帰還させてダイアナ王女にはとても感謝されている。

道中で追い剥ぎに遭遇したが更正させて就職先にシルバー家を斡旋したり、隣国に潜入中、困窮していた孤児のキトリを人買いから救ったり、ミモザ王子がしていることは基本は善行であるがその善行がモモを疲弊させていた。

「ミモザ王子は困ってる人を放置できない性格だ。それはいいけどよ!そのミモザ王子の慈悲深さのせいで俺が困ってる!」

ミモザ王子もモモを困らせているとは自覚しているのでその度にモモに対して謝るが、弱い立場の者を見て見ぬふりはできないらしい。

「自分なんてそっちのけで他人を助けるからハラハラして目が離せねーよ!」

王家としての威厳と聡明さを兼ね備えたミモザ王子だが、高慢なようで実は並外れて優しい性格の持ち主であった。

「ミモザ王子のそういうところは好きだけどさ。あの御方は何をしでかすか俺でも見当がつかない!」

ずば抜けて賢いのに無駄に優しいので危なっかしいとモモが愚痴るとミシェルは苦笑いしながらモモの頭を撫でた。

「やはり嫉妬するな。ミモザ王子に。さっきからモモの話題は王子のことばかりで私になんて構わない」

「あのな~!俺とミモザ王子はそういう仲じゃねーよ!あの御方は主君で俺は側近だ!主君を心配して当たり前だろ!?」

ミモザ王子があまりに無茶をするのでモモはとうとう、ぶん殴ったがミモザ王子はモモを咎めなかった。
普通は主君を……しかも王子様を殴ったら解雇どころの話では終わらない。
ミモザ王子は殴ったモモに対して「すまぬ。殴らせるほど心配をかけた。許しておくれ」と寛大に応えて謝罪したという。

「モモがミモザ王子のような主君に仕えることができて私は心から嬉しいよ。私ではモモを本当の意味で自由にさせることはできなかった。情けないが」

ミシェルは貧民窟で犯罪行為をして暮らしていたモモを救ったが、それは所詮貴族の気まぐれで拾ったということになる。
幸いモモはシルバー家の当主クロードに気に入られ、ミシェルの愛人を超えてシルバー家の手駒として重宝されていたが非常に不安定な立場でもあった。

ダイアナ王女との婚約が正式に決まったミモザ王子がモモを単なるシルバー家の手駒から王子の側近という確固たる立場へと変えたのだ。
ミシェルではどんなに愛していても結局はモモを飼い殺しにしてしまう。
それを考えるとミシェルはミモザ王子の厚意に感謝していた。

「でも……。感謝はしていても悔しいよ。モモをとられたようで」

「ふざけんな!ミシェルはシルバー家の次期当主になることだけを考えろ!クロード様だっていつまでも現役じゃないんだ!」

ダイアナ王女の側近となったミシェルにシルバー家の命運が……次のバトンがかかっているんだとモモはミシェルを叱咤激励した。

「お前が王宮で磐石な地位を確保してくれないと困る。ミシェルはミモザ王子レベルにお人好しだから失脚しないかヒヤヒヤする!」

シルバー家は狡猾さが売りなんだからミシェルもその路線で国政をしろよとモモが焚き付けるとミシェルは降参したように頷いた。

「そうだね。私にどこまでやれるか分からないがシルバー家に生まれた以上はやむ得ない」

優しいだけでは政治はできないからねと微笑むミシェルの手のひらを握るとモモはスミレ色の瞳をキッと細め、決意したように告げた。

「そんな不安がるなよ。仕方ねーな!俺がずっとミシェルを助けてやる!やっぱ、お前だけじゃ心もとねー!」

偽物でもシルバー家の庶子となったのなら、命が果てるまでミシェルの傍にいてやるとモモは堂々と宣言した。

それはミモザ王子も望んでいることだから誰にも文句は言わせない。
11歳で拾われた頃からミシェルはモモにとって大人なのに放っておけない存在であった。

恋だの愛だのではとても秤かれない感情をモモはミシェルに抱いているし、その感情の正体も分かっている。

「ミシェル。俺はお前がいないと死ぬ。そういう身体になっちまったんだ」

珍しく真顔で本音らしきものを吐露したモモにミシェルは美しい青い瞳を瞬いて言った。

「私も同じだよ。11歳のモモに出逢ったときから。モモの代わりはこの世にいない。代わりがいたとすれば死だ」

そう言ってモモとキスをしながらミシェルは不意にミモザ王子とダイアナ王女のことを思った。

ミモザ王子がだれかれ構わず慈悲深いのはダイアナ王女に素直に恋愛感情を出さない反動ではないか?
熱烈に愛したい、抱き締めたい、キスをしたい……自分だけのものにしたい。
そんなダイアナ王女に対する激しい恋慕の情をミモザ王子は心に秘めているのかもしれない。

「それならば、モモと気が合うのも納得がいくけど?」

「おい!ミシェル、俺が直々に本音を言ってやったのに別で考え事かよ?殺すぞ!?」

久々にモモの「殺すぞ!?」を聞けてミシェルは安堵しながらモモをぎゅっと抱き締めてベットに横たわった。

ミシェルの絹のようなブロンドの髪をぐしゃぐしゃにしながらモモは自分と重なりあうミシェルの心臓の鼓動を肌で感じた。

モモとミシェル……どちらの心臓の鼓動かもう2人には分からなかったのである。

(まあ、どちらかの心臓が止まったら片方も止まる……。ったく!11でコイツと出逢ったときは貴族のイイカモだとしか思わないつもりだったのに!)

そんなことを思いながらモモはミシェルの傍らでソッと瞳を閉じた。

束の間の休息……明日には再びミモザ王子のいる離宮に出仕のモモにとって貴重なミシェルとの夜であった。

end





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