花嫁と貧乏貴族

寿里~kotori ~

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変態の役割

 親の資産でラン・ヤスミカ領にて悠々自適なニートライフをエンジョイしているエドガー・イリス・シルバー25歳はリンの異母兄でありユーリの義兄その2である。

義兄その1のミシェルは名門大貴族の跡継ぎらしく王宮でダイアナ王女の側近として働いている。
ちなみにエドガーのすぐ下の妹シンシアはダイアナ王女のお姉さま代わり……要は相談役のような役割でやはり王宮に出仕しており、末の妹のジャンヌはダイアナ王女の婚約者であるミモザ王子の従者シルフィと交際しながらミモザ王子に剣術を指南している。

「有事の際に王女様を護れないようではダイアナ王女様の婿として失格ですわ!」

そのようなジャンヌの持論で本来は全く武道派ではないミモザ王子は剣術を強制的にジャンヌに習っている。

そして、エドカーにとっての末弟で異母弟にあたるリンもユーリと結婚しているので夫ユーリの仕事の手伝いをしたり苦手だが家事をして暮らしているのだ。

何を言いたいかというとシルバー家の兄弟姉妹で25歳という若さで無職なのはエドガーだけということだ。

今さらな話だが父クロードだってまだまだ現役で国王陛下の重臣として政務を補佐しているのにエドガーは完全無職マンである。

しかし、そんな現実に1滴も焦りも後ろめたさも感じないところがエドガー・イリス・シルバー様の偉大なところだ。

「シオン。これから小川の畔を散歩しよう」

「……おい?エドガー、俺は仕事中だって理解しているよな?」

小川の畔を散歩したいエドガーに反して、シオンは屋敷の帳簿をまとめている。

別邸でかかった支出が予算を越えていないかなどをチェックするのは執事であるシオンの務めの1つだ。

賭場を仕切っていた経験からシオンは数字に強くて帳簿はほぼ暗算だが横から無職に声をかけられると気が散る。

「行くなら1人で行ってこい。俺は別邸の帳簿を終らせた後は夕食の仕込みがある」

「シオンと行きたいから誘っているのだが……。仕方あるまい。ここで帳簿とやらをつけるシオンを見守りながら書物でも読むとしよう」

「いや……。ここにいられるだけで微妙に気が散るし邪魔……。まあ、好きにしろ。ヴァカ」

これ以上はどんなに拒絶しても無駄なのでシオンは帳簿に戻った。

シルバー家別邸の帳簿なんて難なく終るので、シオンは暗算で仕上げると、夕食の支度に行こうとした。

しかし、その様子を眺めていたエドガーがポツリと呟いたのだ。

「シオンは本当に賢いのだな。私は九九もわからない」

数字は4までしか詳しく知らぬと言われたが、シオンは微笑むと帳簿を持って告げた。

「エドカーはヴァカだけど愚かじゃない。単に頭の構造が常人と違うだけだ」

むしろ、ここぞという場面では冴えているエドカーなので、本当に脳ミソの作りが他者とは異なるのだろう。

それだけ伝えてシオンは厨房に去ろうとしたがエドカーはシオンの手をがっしり押さえて言った。

「せめて九九だけは習得したい。シオン。教えてくれ」

「は?俺は次の仕事があるんだよ!九九くらい自習しろ!」

「自習は向かない。7×4がどうしてもわからぬ」

「7×4って28だろ?普通にかけ算すればいいだけだ!」

「その普通が理解できぬから困惑している。死ぬまでに九九をマスターしたい。そうすれば父上もミシェル兄上も安心するだろう」

それだけで当主と嫡男が安心するってシルバー家って意外とゆるいなとシオンは思っていたが、まだ時間があるのでエドカーに教えた。

「いいかエドカー?人差し指と中指を向けてみろ?」

「俗にいうピースの形か?」

「そうだよ。とにかくやってみろ」

シオンに言われてエドカーが人差し指と中指を向けるとシオンは自分も同じように指を折ってエドカーに目潰しをした。

「はい!これで2×2で4だ!簡単だろ?」

「シオン。失明する寸前はやめてくれ」

目蓋をおさえるエドカーにシオンはキッパリと言いはなった。

「お前は九九なんて出来なくても問題ない。少なくともエドカーが傍にいてくれると俺は悪夢にうなされなくてすむ」

シオンの精神安定のためにはエドカーが必要なのでシオンにとってはエドカーが九九。ろくに理解していなくても構わなかった。

言うだけいってシオンが厨房に去るとエドカーは目頭を手で触れながら呟いて息を吐いた。

「シオンの指は細い。あんな儚い指を持っている人間なんて宮廷の貴婦人にもいなかった」

強そうでシオンはガラス細工の如く脆いのでエドカーはこう誓った。

「私はシオンの身体と心がこれ以上、傷つくことなく暮らせるよう支える」

それしか自分の使命はないように思えたのでエドカーはその旨をミモザ王子に書簡で送った。

対してエドカーの妹ジャンヌのしごきにあっていたミモザ王子はモモに口述筆記させることもせず返事を書いた。

「それはなによりだ。僕はお前の妹御に1日1000回の素振りを強要されておる。パワハラでペンをとるのも痛いのだが?」

書物を読むのも苦労するほど筋肉痛で痛いと記すミモザ王子の傍でモモを従えたジャンヌが叫ぶ。

「王子!まだ素振りが365で止まってますわ!サボるとあと2000に増やしますわよ!?」

エドカーに返事を書きながらミモザ王子は自分は婚礼前に死ぬのではないかと真剣に考えたという。

end 





    
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