花嫁と貧乏貴族

寿里~kotori ~

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シルバー家到着!

 「いやはや!直接お会いするのは初めてですな!ラン・ヤスミカ家のユーリ殿!いや、婿殿よ!」

 王都で行われるダイアナ王女とミモザ王子の婚礼の儀に参列するエドガーのお供という名目でユーリはリンとシオンを伴ってシルバー家本邸にやって来た。

 都に滞在中はシルバー家でお世話になるのでユーリは超絶緊張している。なんといってもシルバー家は嫁リンの実家であり由緒ある大貴族だ。

 「お初にお目にかかります。シルバー家が当主クロード閣下。ラン・ヤスミカ家が次男ユーリでございます」

 リンの実父でユーリにとっては舅であるが気安く挨拶はできないとユーリが知っている最大限の礼儀作法で自己紹介をしたがクロードは鷹揚に笑っている。

 「そんな堅苦しい挨拶は抜きにしてくだされ!リンとエドガーがお世話になっとるのですから!当家に滞在中は気兼ねなくお過ごしくだされ!」

 クロードの言葉に隣にいるローズ夫人も優しく微笑んでいる。

 「私もユーリ殿にお会いできるのを楽しみにしていたのですよ。リンを大切にしてくださり心より感謝申し上げます」

 優雅にお辞儀をするローズ夫人に向かってユーリは緊張しながらも「そんな!リンは愛する俺の花嫁ですから!」と本音を吐いてしまった。
 するとリンの育ての母であったローズ夫人は感動して泣き出す始末だ。

 「母として嬉しゅうございます!リン、素敵なお婿さんを大切にするのですよ?」

 「はい!お義母様!もちろんです」

 「なんと!リンを姫と偽装して無理やり嫁がせたのに、こんなに大切に想ってくださるとは!?ユーリ殿は真に寛大な御仁だ!ユーリ殿、これからもどうぞよしなに」

 ユーリはすっかりシルバー家当主クロードとローズ夫人に気に入られてしまった。

 そんな訳でラン・ヤスミカ家のお屋敷の40倍は広いシルバー家本邸でユーリは気兼ねなく滞在することになったのである。

 「すごいお屋敷だな……。リンがいないと迷子になる」

 「大丈夫ですよ。迷ったら近くの使用人に聞けば良いのです」

 リンは実家だけあり広大な屋敷をスタスタと歩いているがユーリは緊張と好奇心でついついよそ見をしてしまう。

 「えっと?部屋で少し休んだら晩餐だよな?リン、エドガー義兄上とシオンは?」

 「エドガー兄様はシオンを厨房に案内しています」

 「え?どうして厨房に?シルバー家には専属のシェフがいるだろ?」

 「その専属シェフのルドルフが急にノロウイルスで倒れて厨房がまわらない状態みたいで。ルドルフ……だから生牡蠣をあまり食べるなと忠告したのに」

 なのでラン・ヤスミカ家別邸の執事であり料理人であるシオンが到着早々にヘルプに駆り出される事態となった。どこでも重宝されるシオンは凄いが熱愛している恋人を実家の厨房で働かせるエドガーの神経も尋常ではない。

 ちなみにダイアナ王女とミモザ王子の婚礼の準備でリンの長兄ミシェルとモモは王宮に詰めていて不在である。当主クロードはこうした儀式の支度をシルバー家の次世代に任せることによって次第に当主の権限をミシェルに譲渡するつもりらしい。

 「シンシア姉上とジャンヌ姉様も晩餐には戻ります。ユーリと会えるのを楽しみにしていますよ」

 「リンの姉君たちか?お手紙のやりとりはしてきたが直接お顔を合わせるのは初めてだ」

 王都に到着してシルバー家本邸にて初顔合わせが多すぎてユーリは気がやすまらない。顔馴染みの義兄ミシェルやその愛人のモモの顔が懐かしいと思っていたら美しい調度品で圧倒される部屋の扉を軽やかに叩く音がした。

 「え!はい!もう晩餐ですか!?」

 まだ晩餐用の礼服に着替えてなくて焦るユーリの傍でリンが扉に声をかけた。

 「モモ?その扉の叩き方はモモだよね?開いているよ!」

 リンの声と同時に勢いよく扉が開いてモモが入ってきた。後ろにはミシェルもいる。

 「リン様!ユーリ殿!長旅お疲れ様!」

 「久方ぶりだね。ユーリ殿、シルバー家にようこそ。リン、元気そうでよかった」

 ミシェルとモモは婚礼の儀の準備中だったが、ユーリとリンがシルバー家に到着したと聞いて1日だけ屋敷に戻ってきたらしい。

 「ダイアナ王女とミモザ王子が少しは休憩しろって言ってくれた!」

 「久々に家族が揃うのなら一時帰宅をしなさいって仰ってくれてね」

 どうやらダイアナ王女とミモザ王子が気を利かせてミシェルとモモをシルバー家本邸に帰したようだ。

 晩餐までの時間、ユーリとリンはミシェルとモモと4人でお茶を嗜んだ。

 「ミシェル兄上!婚礼の儀は1週間後ですが街は盛り上がっていますね」

 「久方ぶりの王家の結婚式だ。それも国民に愛されているダイアナ王女の婚礼……貴族も民衆も関係なく浮かれているよ」

 「婚礼の儀の他にパレードに花火大会に舞踏会とかイベントが盛りだくさん!ミモザ王子はどんな状況でも崩れないロイヤルスマイルを習得した。王子は退屈になると口角が下がるからな!」

 王家の婚礼なので単に大聖堂で誓いの言葉を述べるだけでは終わらない。民衆にお披露目をして馬車で王都をパレードしてふるまい菓子を配って、王宮で舞踏会してと延々と婚礼の儀は続くのだ。

 「大変ですね。流石は王家の婚礼」

 ユーリがため息をつくとリンはお茶を飲みながら何気なく言ったのだ。

 「初夜の儀はどうなるのですか?見届ける者が必須でしょう?」

 リンの疑問にユーリは驚愕してお茶を噴き出しそうになったがモモが何事もなく教えてくれた。

 「ダイアナ王女の見届け人はミシェルが務める。ミモザ王子の見届け人は俺です」

 初夜の儀とは王家の婚礼の1部で要は新郎新婦の初夜を監視するお役目である。

 側近中の側近が任せられる仕事だが、田舎貴族のユーリにとっては話には聞いていたが凄まじい儀式だ。側近とはいえ他人に監視されながら初めての夜の営みをする。王家では慣習だがユーリのような田舎貴族には馴染みがない。

 「あの……。その儀式、初夜をする側も見守る側もツラくないですか?」

 素直に訊いてみるユーリに対してミシェルとモモは平然としている。

 「王家では避けて通れない儀式だからね。一応寝台の天蓋はおろすから直では見ないよ」

 「ミモザ王子もダイアナ王女もそんな程度で羞じらう玉じゃねーよ」

 ミシェルとモモだって主君の情事なんて視るのは趣味ではないがお役目なので仕方ない。

 むしろ徹夜で他人のセックスを視てなきゃダメなんて罰ゲームである。

 喜ぶのはそういうエロ小説が好きな変態仮面エドガーくらいであろう。

 ユーリが王家の初夜の儀に圧倒されている間に晩餐の時間になった。

 礼服を着てディナーの場に行くとシオンが普通に働いている。エドガーは悠然とテーブルでエロ小説を読んでいた。

 「ユーリ殿。シルバー家には慣れたか?シオンはすでに打ち解けている」

 「皆様が歓迎してくださり真に恐縮です。シオンは元気に働いてますね」

 「うむ。ノロウイルスになったルドルフも回復してきて何よりだ」

 晩餐の席にはシルバー家当主クロードとローズ夫人、そしてリンの姉シンシアとジャンヌ、さらにミシェルの愛人で美少年トリオのステフ、マックス、ヒナリザもいる。

 ヒナリザとマックスは大学と王立士官学校など各々進学して自立しているが、婚礼の儀で休暇となりシルバー家に戻っているのだ。

 ユーリはシンシアとジャンヌに挨拶して、ステフ、マックス、ヒナリザとの再会を喜んだり大忙しであった。

 そして晩餐の用意が整ったので当主のクロードが軽く咳払いをした。

 「今宵は家族が揃って嬉しく思う。ノロウイルスになったルドルフは気の毒だが快方に向かっているから安心だ。ユーリ殿、遠路はるばるよう着てくれた。少しでも旅の疲れを癒して欲しい。では!乾杯」

 こうして晩餐会が始まったが名門の大貴族の夕食なので堅苦しいと思っていたがそうでもなかった。

 「ふむ!この燻製鶏とアボガドのマリネは最高だ!シオンが作ったのかね?」

 「はい。食材が豊富にあったので何を作ろうか迷ったのですが」

 食材が豊富にありましたが9割方腐敗してましたよ、とは思慮深いシオンは言わなかった。

 「ヒナリザとマックス。大学と士官学校はどうだ?友達できたか?」

 「はい!クロード様、学友がたくさんできました!勉学も楽しいです」

 「共に訓練を受ける仲間も教官も親切です。ありがとうございます!」

 ユーリは料理を口に運びながらクロードがヒナリザたちを気にかけ、声を掛けているのを見ていたがクロードがリンに話しかける素振りがない。

 まだ親子で確執があるのかと不安でいたらクロードがユーリの隣に座っているリンに目を向けた。

 「リン、最近肩凝りがひどくてな」

 「そうですか?今度アイアンメイデンの中に入ったらいかがです?」

 無数の針が全身に突き刺さるので肩凝りも改善するでしょう、とリンは笑顔で返している。

 それを聞いていたモモが爆笑して、ミシェルも笑っていた。

 ローズ夫人や令嬢シンシアとジャンヌも優雅に微笑んでいる状態だ。

 「ほほほ!リン、冗談がお上手になったわね!アイアンメイデン……たしか納屋にあったわよね?ジャンヌ?」

 「お母様!西側の納屋に保管してありますわ!」

 え!アイアンメイデン持ってるの!?

 やはりシルバー家恐るべしとユーリが戦慄していたらエドガーがワインを飲みながら告げた。

 「ユーリ殿、本気にするな。これはシルバージョークだ。アイアンメイデンは我が家にはない」

 シルバー家のジョーク……シルバージョーク。

 アイアンメイデンが屋敷にないことにホッとしたが気づいてしまった。

 その場で最もマトモなのが変態で鳴らしたエドガーだという真実を!

 「やはり王都は不思議だな」

 ユーリが呟くとリンはキョトンした顔で小首を傾げている。

 「不思議ですか?屋敷に1台アイアンメイデンは都の貴族ならば当たり前ですよ?」

 「リン、もう冗談を言っても通じないからな~!」

 シルバージョークをかわそうとしたユーリに向かってエドガーがナフキンで口を拭いながらポツリと呟いた。

 「ユーリ殿、いまは修理中でないという意味だ」

 結局アイアンメイデン持ってるじゃねーか!

 何に使うのかは恐ろしすぎてユーリは聞けなかった。

 (早くラン・ヤスミカ領に帰りたい……)

 アイアンメイデンのせいで早々に故郷が恋しくなっているユーリの沈んだ表情を察したミシェルが呆れ顔でエドガーを窘めた。

 「エドガー、真顔で冗談はやめろ。ユーリ殿、驚かせてすまない」

 アイアンメイデンなんて屋敷で所持していないとミシェルが断言したのでユーリは今度こそ安堵したがクロードが思い出したように宣った。

 「ユーリ殿、姪御のクレールたんが10歳になったなら我が家で行儀見習いを……クレール嬢はかわゆいだろ?」

 クロードのその言葉にすかさずミシェルとモモの口が動いた。

 「父上……いい加減にしてください」

 「このロリクソ親父!アイアンメイデンとギロチンのコンボで殺すぞ?」

 アイアンメイデンとギロチンのコンボという意味わからん処刑法で脅すモモは本気だ。

 ユーリは単純に『ああ!この屋敷は基本的にモモ殿が何を言おうがフリーダムで単純に物騒なのだな』と結論付けた。

 晩餐会が終わってユーリがリンと部屋に戻る際にエドガーは片付けを手伝っているシオンに抱きついて離れない。

 相変わらずエドガー義兄上はシオンに夢中だなとユーリが思っていたらシオンの口からとんでもない言葉が飛び出した。

 「お前、あと5秒で離れないなら厨房にあるアイアンメイデンに閉じ込めるぞ?」

 厨房にアイアンメイデン完備?

 もう理解が追い付かずユーリは聞かなかったことにした。

 ちなみに厨房のアイアンメイデンはシェフのルドルフが果物の果汁を絞る為に購入したが使い勝手が悪く不評なので現在は使用されていない。

 ユーリは果たして王都に馴染めるのか?

 馴染まなくて良い気もするが婚礼の儀が終わるまでユーリはシルバー家の婿殿であり、客人として滞在することになる。


 End



 

 

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