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1章 最弱のドラゴン
経験値袋
しおりを挟む「おいそっちだ!逃がすんじゃねぇぞ!」
「わかってら!ぜってぇ狩ってやる!」
「おい殺すなよ。俺まだ攻撃してないんだからな!」
そこそこ大きな町のはずれにある林。そこには質の悪い防具に身を包んだ男たちが血眼になって何かを探していた。先ほどまで集めていた薬草の入ったかごを投げ捨て、抜身の剣を持って走り回る彼らはとても正気とは思えないが、それには立派な理由があった。
男たちは依頼を受け、素材を集めたり魔物の討伐を行ったりといったことを生業にする者たちの集まり、冒険者ギルドに所属する下っ端である。その彼らが依頼を放り出してまで追っているものの正体は。
「いたぞ!こっちだ!マジで『ミニドラ』だ!!」
「こいつぶっ殺せば俺ら一気に中級まで行けるんじゃねぇか!?」
ミニドラとは、超小型のドラゴンの姿をしている魔物の名前だ。しかし「姿をしている」だけでミニドラはドラゴンではない。
背にある翼を開いても空を舞うことはできず。
その爪と牙は鉄と交わるだけで欠けるもろいもの。
鱗は切れ味の悪い剣を滑らせるのが精いっぱいで、切っ先が触れればその下の血肉がこぼれ出る。
ドラゴンの幼体であるリトルドラゴンでも小型のドラゴンであるスモールドラゴンでもない。姿だけ授かったまがい物、ドラゴンのミニチュア。それがミニドラである。
そんな脅威にもならない弱い魔物をなぜ追うのか。それはミニドラがその戦闘力に見合わぬ経験値をもたらすためである。この世界の生物は存在値のレベルがその者の強さに直結している。そして存在値を上げるにはより強い生物を倒さねばならない。
ドラゴンがネズミを食らったところで大して腹は満たされないのと同様に、強いものは自分と同等かそれ以上のものを倒しその存在値を奪わねば自身の格を上げることはできないのだ。そして相手を殺して存在値を奪うことを「経験値を得る」という。
しかしミニドラは、倒して得られる経験値がどういったわけかとても多いのだ。それこそドラゴンを倒してもレベルアップしなかった冒険者がミニドラを一匹倒しただけでレベルが上がったという話もあるほどだ。
駆け出し冒険者が運よく遭遇し大幅なレベルアップをした結果、その後トップレベルの冒険者になった話。勇者のためにミニドラを献上し強化された勇者が見事魔王を倒した話。このような経緯もあり、ミニドラはいつからか「経験値袋」と呼ばれるようになった。
「うおおおおお!体に力がみなぎってきやがる!」
「これは…噂以上だ。さっきまでレベル12だったのに今24だぞ…?」
「倍になってんじゃねぇかw!まぁ俺も似たようなもんだけどよ。んじゃ依頼さっさと終えて帰るか!もう薬草採取なんかやってられっかよ。討伐依頼受けようぜ!!」
「はははっ!今ならあの糞コボルトにも負けねぇだろうよ!」
「違いねぇ!」
機嫌よく笑いあいながらその場を離れていく。倒したミニドラの素材をはぎ取る様子はない。なぜならミニドラは倒されると次第に崩れるようにしてその姿を消すためである。はぎ取ったものも同様で、薬にも防具にもならないことから経験値以外の利用法を探るもの現れずますます「経験値袋」という呼び名が定着していく。
そうしてその場には誰もいなくなった。
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