経験値袋と呼ばれたミニドラは今

みやんて

文字の大きさ
1 / 11
1章 最弱のドラゴン

経験値袋

しおりを挟む

「おいそっちだ!逃がすんじゃねぇぞ!」

「わかってら!ぜってぇ狩ってやる!」

「おい殺すなよ。俺まだ攻撃してないんだからな!」


そこそこ大きな町のはずれにある林。そこには質の悪い防具に身を包んだ男たちが血眼になって何かを探していた。先ほどまで集めていた薬草の入ったかごを投げ捨て、抜身の剣を持って走り回る彼らはとても正気とは思えないが、それには立派な理由があった。
男たちは依頼を受け、素材を集めたり魔物の討伐を行ったりといったことを生業にする者たちの集まり、冒険者ギルドに所属する下っ端である。その彼らが依頼を放り出してまで追っているものの正体は。

「いたぞ!こっちだ!マジで『ミニドラ』だ!!」

「こいつぶっ殺せば俺ら一気に中級まで行けるんじゃねぇか!?」


ミニドラとは、超小型のドラゴンの姿をしている魔物の名前だ。しかし「姿をしている」だけでミニドラはドラゴンではない。
背にある翼を開いても空を舞うことはできず。
その爪と牙は鉄と交わるだけで欠けるもろいもの。
鱗は切れ味の悪い剣を滑らせるのが精いっぱいで、切っ先が触れればその下の血肉がこぼれ出る。

ドラゴンの幼体であるリトルドラゴンでも小型のドラゴンであるスモールドラゴンでもない。姿だけ授かったまがい物、ドラゴンのミニチュア。それがミニドラである。


そんな脅威にもならない弱い魔物をなぜ追うのか。それはミニドラがその戦闘力に見合わぬ経験値をもたらすためである。この世界の生物は存在値のレベルがその者の強さに直結している。そして存在値を上げるにはより強い生物を倒さねばならない。
ドラゴンがネズミを食らったところで大して腹は満たされないのと同様に、強いものは自分と同等かそれ以上のものを倒しその存在値を奪わねば自身の格を上げることはできないのだ。そして相手を殺して存在値を奪うことを「経験値を得る」という。

しかしミニドラは、倒して得られる経験値がどういったわけかとても多いのだ。それこそドラゴンを倒してもレベルアップしなかった冒険者がミニドラを一匹倒しただけでレベルが上がったという話もあるほどだ。

駆け出し冒険者が運よく遭遇し大幅なレベルアップをした結果、その後トップレベルの冒険者になった話。勇者のためにミニドラを献上し強化された勇者が見事魔王を倒した話。このような経緯もあり、ミニドラはいつからか「経験値袋」と呼ばれるようになった。


「うおおおおお!体に力がみなぎってきやがる!」

「これは…噂以上だ。さっきまでレベル12だったのに今24だぞ…?」

「倍になってんじゃねぇかw!まぁ俺も似たようなもんだけどよ。んじゃ依頼さっさと終えて帰るか!もう薬草採取なんかやってられっかよ。討伐依頼受けようぜ!!」

「はははっ!今ならあの糞コボルトにも負けねぇだろうよ!」

「違いねぇ!」


機嫌よく笑いあいながらその場を離れていく。倒したミニドラの素材をはぎ取る様子はない。なぜならミニドラは倒されると次第に崩れるようにしてその姿を消すためである。はぎ取ったものも同様で、薬にも防具にもならないことから経験値以外の利用法を探るもの現れずますます「経験値袋」という呼び名が定着していく。



そうしてその場には誰もいなくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

処理中です...