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9話
第九話 女囚と仲間たち、再び①
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第九話 女囚と仲間たち、再び①
━━━━━━━━━━━━━━━━━
難所も佳境に差し掛かり、渓谷の中継地点にまで到達していた。
すぐそばには、聖廟があった。
聖者廟は、現在は聖地として礼拝されるようになっており、巡礼の対象である。
参拝者たちは、歴代聖者を通じてもたらされる祝福を授かろうと期待する。
参拝記念として管理者から貰えるのは、経典の写しの一部だった。
「まああ、屋根のある建物など、何日ぶりでありましょうかしら!」
「ようやっと野営から解放されますわね!ああ嬉しや!」
聖者の廟墓に接して、管理者たちが住むための山小屋がある。簡易的な大人数向け宿泊施設にもなっていた。
尼僧様お付きの女官たちは、はしゃぎながら、さっそく尼僧様をともなって中へと入って行った。
「はあー、ようやくここまで来れたなぁ。ほんと大変だったよなー。やれやれだぜー」
「あたしは壽賀子ちゃんと一緒だったから、全然平気だったけどな。本当にここでお別れなの?寂しい……このままずっと旅が続けばいいのに」
「私も、ミュリュイちゃんがそばにいてくれて楽しかったし、すごく助かったよ。ミュリュイちゃん保釈が近いんだって?自由もシャバも第二の人生も、すぐ目の前だ。いいことがたくさん待ってるよ、よかったなぁ」
私たちは、ずっと二人で並んで歩いていた。
私の腕に、ぎゅっとしがみつくミュリュイちゃんだった。
尼僧様の隊とは、ここでお別れである。
尼僧様たちはしばらくこの山小屋で休んでいくが、私たちのほうは、今晩一泊した後は、すぐに次の目的地を目指して旅立っていくのだ。
「壽賀子、俺たちも中へ入ろうぜ」
尼僧様の隊を先に通してから、建物の玄関口に立ったグエンが手招きをしてきた。
頑丈そうな外観。
渓谷の強風にも耐えうる造りの、しっかりとした建材でできていた。
玄関口は狭いが、中は部屋数も多く、広間などもあった。
そうして私たちが屋内に収まり、一息つこうとした、
その時だった。
「きゃあああああああ!なんなんですの⁈あなたがたはぁ!」
悲鳴が上がった。
尼僧様と女官たちの声だ。
「大人しくしろ!金目の物を出せ!」
荒っぽい輩の怒声が響き渡る。
広間にはいつのまにか悪党の集団がはびこり、尼僧様と女官たちを人質にして、刃物をちらつかせていた。
━━━━━━━━━━━━━
わああ、賊だ!
野党だ!
窃盗団だ!
窓から外を覗くと、どこに潜んでいたのか、同じような輩に取り囲まれていた!
「きゃあああ!お助けぇ!衣装も宝石も差し上げますわぁ!」
建物内は、一転、ワーワーキャーキャー!
阿鼻叫喚の大パニックに早変わり!
尼僧様の護衛や武芸者たちはすでに倒され、グエンや警護兵団のみんなも、尼僧様たちを盾にとられて身動きが取れないでいる!
さしもの聖者様の能力も、一度に大勢の悪党相手には応用が効かないようで、無抵抗でいるしかないようだ!
そうして残った者は紐で縛られて拘束され、広間に集められた。
尼僧様たちは、金品や宝石を大人しく差し出し、なんとか危害は加えられずに済んでいた。
私とミュリュイちゃんは二人、広間の端っこのほうで後ろ手の拘束を受けた。
そしてそのまま立たされて、二人とも背中をこづかれ、別の部屋へ向かうよう促されたのだった。
「壽賀子!」
グエンが私の名を呼んだ。
「おい待て!二人をどこへ連れて行くんだ!」
グエンは手足を拘束された状態のまま、悪党にくってかかる。
当然、ひどく殴打を受け、すぐに倒された。
う、うわあ、痛そう!
無理すんな!大人しくしとけグエン!
し、しかし、どうして?
なんで私たちだけ?
「ど、どうしよう、ミュリュイちゃん……」
広間から離れた、奥のほうにある室内に、私たち二人は通された。
部屋の隅に、二人でぽつんと立たされたまま。
私は、おろおろ、はらはらしていたが。
対してミュリュイちゃんは、とても落ち着いていた。
そしてこんなことを呟くのだった。
「これは、内通者がいたのかもね」
え、えええ!
内通者って、スパイ?
「女官の一人の姿が見えないのよね。おそらく、その彼女が……」
「悪党に買収されたってこと?そんな女官がいたの?」
このスムーズな運び。
どうやら罠を張って、ここで待ち構えていたらしい。
ミュリュイちゃんが言うには、さっき招き入れてくれた管理者たちも悪党の変装だったのではないか、ということだった。
ずっと狙われていたということなのか。
私たちがここに来ることを知っていた、というよりかは、行き先や、行程を調整させて、今日ちょうど、ここに来るよう仕向けていた?
「さすがミュリュイ!よくわかったねぇ、やっぱり賢いね、あんたは!」
女の声が響いた。
あ、あああ!このドスの効いた姉御肌ヴォイスは!
「シンギュラさん!」
私は、彼女の名を口にした。
部屋の扉が開いて、シンギュラさんが姿を現す。
「姐さんとお呼び!何度言ったらわかるんだい、壽賀子!」
「シ、シンギュラ姐さん……」
シンギュラ姐さんだった。
そうだった。
思い出した。
冬籠りしていた頃のことを。
脱走してからは優秀な囚人を仲間にしようと接触を図ろうとしているから気をつけろ、とか、刑務官スヴィドリガイリョフに忠告されていたんだっけなぁ。
すっかり忘れていた。
凡庸な私には関係ない話だったのでな。
だが、優秀な囚人ミュリュイちゃん相手になら、会いにきても不思議はない。
人材確保のためのコンタクトをとりに来ても、おかしくはなかった。
そうだった。
今、思い出した。
しかし、こんな手の込んだ真似までして仲間に引き入れようとするなんて、なぁ。
おそろしい人だなぁ……!
つづく! ━━━━━━━━━━━━━━━━
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難所も佳境に差し掛かり、渓谷の中継地点にまで到達していた。
すぐそばには、聖廟があった。
聖者廟は、現在は聖地として礼拝されるようになっており、巡礼の対象である。
参拝者たちは、歴代聖者を通じてもたらされる祝福を授かろうと期待する。
参拝記念として管理者から貰えるのは、経典の写しの一部だった。
「まああ、屋根のある建物など、何日ぶりでありましょうかしら!」
「ようやっと野営から解放されますわね!ああ嬉しや!」
聖者の廟墓に接して、管理者たちが住むための山小屋がある。簡易的な大人数向け宿泊施設にもなっていた。
尼僧様お付きの女官たちは、はしゃぎながら、さっそく尼僧様をともなって中へと入って行った。
「はあー、ようやくここまで来れたなぁ。ほんと大変だったよなー。やれやれだぜー」
「あたしは壽賀子ちゃんと一緒だったから、全然平気だったけどな。本当にここでお別れなの?寂しい……このままずっと旅が続けばいいのに」
「私も、ミュリュイちゃんがそばにいてくれて楽しかったし、すごく助かったよ。ミュリュイちゃん保釈が近いんだって?自由もシャバも第二の人生も、すぐ目の前だ。いいことがたくさん待ってるよ、よかったなぁ」
私たちは、ずっと二人で並んで歩いていた。
私の腕に、ぎゅっとしがみつくミュリュイちゃんだった。
尼僧様の隊とは、ここでお別れである。
尼僧様たちはしばらくこの山小屋で休んでいくが、私たちのほうは、今晩一泊した後は、すぐに次の目的地を目指して旅立っていくのだ。
「壽賀子、俺たちも中へ入ろうぜ」
尼僧様の隊を先に通してから、建物の玄関口に立ったグエンが手招きをしてきた。
頑丈そうな外観。
渓谷の強風にも耐えうる造りの、しっかりとした建材でできていた。
玄関口は狭いが、中は部屋数も多く、広間などもあった。
そうして私たちが屋内に収まり、一息つこうとした、
その時だった。
「きゃあああああああ!なんなんですの⁈あなたがたはぁ!」
悲鳴が上がった。
尼僧様と女官たちの声だ。
「大人しくしろ!金目の物を出せ!」
荒っぽい輩の怒声が響き渡る。
広間にはいつのまにか悪党の集団がはびこり、尼僧様と女官たちを人質にして、刃物をちらつかせていた。
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わああ、賊だ!
野党だ!
窃盗団だ!
窓から外を覗くと、どこに潜んでいたのか、同じような輩に取り囲まれていた!
「きゃあああ!お助けぇ!衣装も宝石も差し上げますわぁ!」
建物内は、一転、ワーワーキャーキャー!
阿鼻叫喚の大パニックに早変わり!
尼僧様の護衛や武芸者たちはすでに倒され、グエンや警護兵団のみんなも、尼僧様たちを盾にとられて身動きが取れないでいる!
さしもの聖者様の能力も、一度に大勢の悪党相手には応用が効かないようで、無抵抗でいるしかないようだ!
そうして残った者は紐で縛られて拘束され、広間に集められた。
尼僧様たちは、金品や宝石を大人しく差し出し、なんとか危害は加えられずに済んでいた。
私とミュリュイちゃんは二人、広間の端っこのほうで後ろ手の拘束を受けた。
そしてそのまま立たされて、二人とも背中をこづかれ、別の部屋へ向かうよう促されたのだった。
「壽賀子!」
グエンが私の名を呼んだ。
「おい待て!二人をどこへ連れて行くんだ!」
グエンは手足を拘束された状態のまま、悪党にくってかかる。
当然、ひどく殴打を受け、すぐに倒された。
う、うわあ、痛そう!
無理すんな!大人しくしとけグエン!
し、しかし、どうして?
なんで私たちだけ?
「ど、どうしよう、ミュリュイちゃん……」
広間から離れた、奥のほうにある室内に、私たち二人は通された。
部屋の隅に、二人でぽつんと立たされたまま。
私は、おろおろ、はらはらしていたが。
対してミュリュイちゃんは、とても落ち着いていた。
そしてこんなことを呟くのだった。
「これは、内通者がいたのかもね」
え、えええ!
内通者って、スパイ?
「女官の一人の姿が見えないのよね。おそらく、その彼女が……」
「悪党に買収されたってこと?そんな女官がいたの?」
このスムーズな運び。
どうやら罠を張って、ここで待ち構えていたらしい。
ミュリュイちゃんが言うには、さっき招き入れてくれた管理者たちも悪党の変装だったのではないか、ということだった。
ずっと狙われていたということなのか。
私たちがここに来ることを知っていた、というよりかは、行き先や、行程を調整させて、今日ちょうど、ここに来るよう仕向けていた?
「さすがミュリュイ!よくわかったねぇ、やっぱり賢いね、あんたは!」
女の声が響いた。
あ、あああ!このドスの効いた姉御肌ヴォイスは!
「シンギュラさん!」
私は、彼女の名を口にした。
部屋の扉が開いて、シンギュラさんが姿を現す。
「姐さんとお呼び!何度言ったらわかるんだい、壽賀子!」
「シ、シンギュラ姐さん……」
シンギュラ姐さんだった。
そうだった。
思い出した。
冬籠りしていた頃のことを。
脱走してからは優秀な囚人を仲間にしようと接触を図ろうとしているから気をつけろ、とか、刑務官スヴィドリガイリョフに忠告されていたんだっけなぁ。
すっかり忘れていた。
凡庸な私には関係ない話だったのでな。
だが、優秀な囚人ミュリュイちゃん相手になら、会いにきても不思議はない。
人材確保のためのコンタクトをとりに来ても、おかしくはなかった。
そうだった。
今、思い出した。
しかし、こんな手の込んだ真似までして仲間に引き入れようとするなんて、なぁ。
おそろしい人だなぁ……!
つづく! ━━━━━━━━━━━━━━━━
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