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31-1 日曜の朝

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 目を覚ましたら、部屋がけっこう明るくなってた。
 カーテン越しに入る陽ざしは、すでに早朝っぽくない。

 目の前に投げ出された涼弥の手があって、腕枕されてるのに気づく。
 枕は2つ並べてあるから、首の下に腕を差し入れてるだけなんだけど……照れるなコレ。


 身体の向きを逆にすると、涼弥の裸の胸。すかさず、背中に腕を回されギュッとされる。

「おはよ……起きてたのか。よく眠れたか?」

將梧そうご……」

 寝起きの気怠さの残る俺は、涼弥の腕の中で再び目を閉じた。

 『翌朝』ってなんか気恥ずかしい。昨夜、セックスしたわけじゃないけど……それなりに親密だったからさ。
 あーこの幸福感。いいなー……。

「將梧」

 ここで。
 涼弥の声のカタさに気づいた。
 俺の名前しか口にしてない不自然さにも。

 目を開けて顔を上げる。
 俺を見つめる涼弥の瞳にあるのは、混乱、困惑……狼狽?

「涼弥? どうした? 悪い夢でも見たか?」

「將梧……」

「大丈夫だ」

 手を伸ばして、涼弥の頭をクシャッと撫でる。

「いるだろ。俺」

「今……いや、さっき……」

 さっき……?

「ドアが開いた」

「は……!? 部屋の?」

「目……覚めて、起き上ったら……お前の親父が」

「え!?」

 驚いて。
 意識レベルが一気に上がり、上体を起こした。

「父さんが……!?」

「ドアんとこ顔出して、目が合った」

 涼弥も身体を起こす。
 ベッドの上で、一刹那。無言で向かい合う。

「俺たち見て、何て……?」

 気はすすまないけど。聞くしかない。

「『そこにいるのは、沙羅じゃなくて將梧ですよね?』」

「あたりまえじゃん! あ……そうか」

 急な用事か何かで、朝帰ってきて。玄関に靴あるから、涼弥が泊まったのはわかる。
 で、万が一……沙羅の部屋にいたらって考えて確かめたら、沙羅はいなくて。
 で、俺の部屋にきてみたら……。

 

 俺が涼弥と一緒に寝てた……と。



 起き上ったって言ったから、涼弥が裸なのも見た。
 しかも……。

 視線を少し落とすと、涼弥の鎖骨に紅いキスマーク。明るいとこで見るとクッキリ鮮やか、つけたてホヤホヤ……俺がつけた。

 軽く溜息をついて、視線を戻す。

「そう聞かれて、『はい』って?」

「ああ……」

「そしたら?」

「『話は夜、將梧に聞きます』っつって……」

 涼弥が。今、オカルト映画の絶叫シーン見ちゃったって顔になる。

「『まだ寝てなさい。日曜ですからね』って……出てった。將梧……」

「落ち着け。大丈夫だから」

「何がだ!? 親父さんに、俺たちのこと……」

「誤解じゃなく事実だろ。セックスまではしてないけどさ」

 眉間に溝を作る涼弥を安心させるように笑う。

「ほかに何か嫌なコト言われたか?」

「いや……」

「うちの両親、男同士がどうとか偏見ないから。心配するな」

「夜、お前……いろいろ問い詰められんじゃ……」

「あー……たぶん、事実確認で聞かれるだけ。お前を好きなの、責められるわけないじゃん」

 涼弥が溜息をつく。

「フトンかぶって寝てりゃ、まだよかったが……物音で起きちまってよ。悪かった」

「二人とも寝てて、知られたの気づかないほうが嫌だ。俺、沙羅はもちろんだけど、両親にも隠す気ないんだ。お前とつき合ってること」
 
 本心だ。
 こんなすぐにカムアウトする予定じゃなかったけど、まぁいいや。

「お前は? 男が好きだって、弥生さん知らないだろ?」

「男が、じゃない。お前が好きなんだ」

 真顔で言って、鋭い瞳をした涼弥が唇の端を上げる。

「親父たちにゃ、文句は言わせねぇ」 

 弥生さんはともかく。涼弥の親父さんは……苦手だ。自分の子どもにさえ丁寧語まじりで話すうちの父親と正反対で、なんというか……ワイルドな感じで。

「ほかの誰にどう思われてもいいが、お前の親父だけはな」

 再び、はぁーと盛大な溜息をつく涼弥。

「悪い印象持たれたくねぇのに……へこむだろ」

「お前のこと、気に入ってるよ。平気だって」

「そりゃ、お前の友達としての話だろ。自分の留守に家に泊まって、息子と寝てんだぞ? 最悪だ」

「娘のほうじゃなくて意外だって思ってるはず。そういう人だから」

 笑って、まだ落ち込み気味の涼弥の気分を上げるネタを探す。

「家に一晩誰もいないなんて、めったにないからさ。一緒に眠れて嬉しかった。今度、ホテルに泊まろうな」

「ホテル……」

 涼弥の瞳の色が、ネガからポジへ。
 そして、ニュートラルへ。

「治ってからか?」

「当然だろ。その時は、好きなだけやろう」

 その言葉に、ようやく涼弥が笑みを浮かべた。



 涼弥の機嫌を上向けてベッドから出ると、午前10時を回ったところ。

 父さんが部屋を覗いたのは8時頃だっていうので。困惑状態の涼弥は1時間以上、ひとり悶々と俺が目を覚ますのを待ってたってことだ。

 涼弥は今日、昼過ぎから街の仲間との会合があるらしい。
 時間も遅いから、朝食兼昼食を用意して食べた。朝飯には不向きだけど、常備品のレルトカレーに目玉焼き。
 俺も涼弥も腹減ってたのか、あっという間にたいらげた。

 おまけに今、カップのアイスまで食ってる。



 濃厚なアイスをスプーンですくって口に入れる。
 ごく普通の仕草なのに。
 涼弥がするの見てると微笑ましくなる。

 なんだろう。単にスイーツを食うってのが合わないのか。顔に。雰囲気に。とにかく、今の涼弥に。
 偏見なのはわかってるけどさ。

 なんか、かわいく見えて仕方ない。どうしよう……俺、すっかり参ってる。涼弥に。

 バニラアイスのクリーム色に染まる舌が唇から覗くたび、吸いつきたい衝動に駆られる。
 うまそうだなー…って。



 ヤバい……俺のほうが変態だ……!



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