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第2章 許されざる人間
僕が行く
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11歳の子どもは、大人に比べるとあまりにも無力だ。
僕がリシールの継承者だってことの利点を差し引いても。
年齢にそぐわない教育を受けたおかげで、僕の頭に知識はそこそこ詰まっている。
プラス、リシールの特性としての強靭な精神力と直感力。
そして、継承者の持つあの力。
それら全部を最大限に使っても。どうしても足りないのが、腕力と体力だ。
護身術は習ったけど、筋力トレーニングをしたことはないし。11歳にしては小柄なほうだから。
ヤツに復讐するには準備が要る。
綿密な計画と、それを実行する時間と道具と状況と……人手も必要だ。
仕返しの実行に、奏子を巻き込む気はなかった。
この辺りのことで知っている情報を教えてもらうくらいは頼むかもしれないけど、もう二度とヤツに関わらせたくない。
誰か、信頼出来て……協力してくれる人間を見つけなきゃ。
ヤツに復讐する上で、手を組む人間に重要な要素は明白だ。
それは、小児性犯罪者に対して残酷になれること。
もちろん、僕自身にもその要素が必要なのはわかっている。
僕はこの復讐に、自分の善良な部分を犠牲として払うことになるだろう。
僕に全てを話し終えた奏子は、思いのほか元気だった。
つらい経験をしてなお、大切な子猫たちを守る気持ちに変わりはない。
「奏子はもう、おじさんと会っちゃダメだ」
強い口調で言ったその言葉に、奏子が首を横に振る。
「ダメじゃダメ。この子たちのお引っ越ししなきゃ」
「……あの小屋に行って、また変なことされたら?」
奏子が下を向く。
「嫌でしょ?」
「でも、行かないと……」
「ダメ。おじさんがしたこと……奏子にさせたことは、子猫を内緒で森で飼うよりすごくすごく悪いことなんだよ」
本当はこんなこと言いたくない。
奏子をみじめな気持ちにさせたくないのに……。
「ちゃんと気をつける」
奏子はなかなか引き下がらない。
「奏子……」
「今度……今度、おじさんが……何か変なことしたら、ちゃんとやめてって言うもん」
「やめなかったら、どうするの?」
「……逃げる」
「逃げられなかったら?」
「……大声で、助けてって言う」
「誰も助けに来なかったら? 口を塞がれて声を出せなくされたら?」
奏子が僕を睨む。
「ジャルド。なんでイジワル言うの」
「イジワルじゃないよ。奏子が大切だから。嫌なことされてほしくないんだ」
「でも……クロたちが……」
それは、僕も考えていた。
一番いいのは、館の中でお客さんが通らない離れた部屋で飼うこと。
館の中が無理なら、もっと近くに小屋を作ってそこで飼うとか。
だけど。
その前にもう少しだけ、ヤツとの繋がりを維持するために、子猫たちをこのままにしておきたい。
僕の頭には、すでにひとつの計画があった。
出来れば奏子には隠しておきたかったんだけど、そうもいかないみたいだ。
その計画の始めの部分だけ、奏子に話すことにした。
「クロたちの引っ越しは、僕が行くよ」
「え……?」
「次の水曜。奏子の代わりに」
奏子は驚いた表情で僕を見る。
「奏子がちょっと具合悪くなったから、僕が代わりに来たって言うよ」
「でも……誰にも言っちゃダメって言われたのに……」
「大丈夫。奏子がひとりでここにいた時に、僕が偶然見つけちゃったってことにするから」
「でも……」
奏子はまだ不安げだ。
「大丈夫!」
自信満々で言い切る僕に、奏子は何とか了承した。
子猫の引っ越し予定の次の水曜日に奏子が行かなかったら、ヤツは今日の自分の行動のせいだと確信するだろう。
今も、心配はしてるはず。
自分のしたことを、奏子が誰かに話してしまったんじゃないか。
まずいことになるんじゃないかって。
当然、ヤツはヤツなりの言い訳を用意してはあるんだろう。
相手は5歳の子どもだし、証拠はひとつもないんだから……子猫の存在以外には。
奏子がもう二度と来なくなるだけなら。ヤツは残念に思うだろうけど、公にならなくてホッともするはず。
そんな『逃げ』は許さない。
ヤツをこのまま去らせはしない。
証拠がほしい。
ヤツの悪事の。
奏子をヤツのところに行かせるわけにはいかない。
だから……僕が行く。
ヤツはペドファイルでチャイルドマレスターだ。
そして。その多くは、子どもであれば女児も男児も性的対象とする。
ヤツの食指は、少年に対しても動くだろうか。
そう。
僕がヤツを陥れるエサになるんだ。
僕がリシールの継承者だってことの利点を差し引いても。
年齢にそぐわない教育を受けたおかげで、僕の頭に知識はそこそこ詰まっている。
プラス、リシールの特性としての強靭な精神力と直感力。
そして、継承者の持つあの力。
それら全部を最大限に使っても。どうしても足りないのが、腕力と体力だ。
護身術は習ったけど、筋力トレーニングをしたことはないし。11歳にしては小柄なほうだから。
ヤツに復讐するには準備が要る。
綿密な計画と、それを実行する時間と道具と状況と……人手も必要だ。
仕返しの実行に、奏子を巻き込む気はなかった。
この辺りのことで知っている情報を教えてもらうくらいは頼むかもしれないけど、もう二度とヤツに関わらせたくない。
誰か、信頼出来て……協力してくれる人間を見つけなきゃ。
ヤツに復讐する上で、手を組む人間に重要な要素は明白だ。
それは、小児性犯罪者に対して残酷になれること。
もちろん、僕自身にもその要素が必要なのはわかっている。
僕はこの復讐に、自分の善良な部分を犠牲として払うことになるだろう。
僕に全てを話し終えた奏子は、思いのほか元気だった。
つらい経験をしてなお、大切な子猫たちを守る気持ちに変わりはない。
「奏子はもう、おじさんと会っちゃダメだ」
強い口調で言ったその言葉に、奏子が首を横に振る。
「ダメじゃダメ。この子たちのお引っ越ししなきゃ」
「……あの小屋に行って、また変なことされたら?」
奏子が下を向く。
「嫌でしょ?」
「でも、行かないと……」
「ダメ。おじさんがしたこと……奏子にさせたことは、子猫を内緒で森で飼うよりすごくすごく悪いことなんだよ」
本当はこんなこと言いたくない。
奏子をみじめな気持ちにさせたくないのに……。
「ちゃんと気をつける」
奏子はなかなか引き下がらない。
「奏子……」
「今度……今度、おじさんが……何か変なことしたら、ちゃんとやめてって言うもん」
「やめなかったら、どうするの?」
「……逃げる」
「逃げられなかったら?」
「……大声で、助けてって言う」
「誰も助けに来なかったら? 口を塞がれて声を出せなくされたら?」
奏子が僕を睨む。
「ジャルド。なんでイジワル言うの」
「イジワルじゃないよ。奏子が大切だから。嫌なことされてほしくないんだ」
「でも……クロたちが……」
それは、僕も考えていた。
一番いいのは、館の中でお客さんが通らない離れた部屋で飼うこと。
館の中が無理なら、もっと近くに小屋を作ってそこで飼うとか。
だけど。
その前にもう少しだけ、ヤツとの繋がりを維持するために、子猫たちをこのままにしておきたい。
僕の頭には、すでにひとつの計画があった。
出来れば奏子には隠しておきたかったんだけど、そうもいかないみたいだ。
その計画の始めの部分だけ、奏子に話すことにした。
「クロたちの引っ越しは、僕が行くよ」
「え……?」
「次の水曜。奏子の代わりに」
奏子は驚いた表情で僕を見る。
「奏子がちょっと具合悪くなったから、僕が代わりに来たって言うよ」
「でも……誰にも言っちゃダメって言われたのに……」
「大丈夫。奏子がひとりでここにいた時に、僕が偶然見つけちゃったってことにするから」
「でも……」
奏子はまだ不安げだ。
「大丈夫!」
自信満々で言い切る僕に、奏子は何とか了承した。
子猫の引っ越し予定の次の水曜日に奏子が行かなかったら、ヤツは今日の自分の行動のせいだと確信するだろう。
今も、心配はしてるはず。
自分のしたことを、奏子が誰かに話してしまったんじゃないか。
まずいことになるんじゃないかって。
当然、ヤツはヤツなりの言い訳を用意してはあるんだろう。
相手は5歳の子どもだし、証拠はひとつもないんだから……子猫の存在以外には。
奏子がもう二度と来なくなるだけなら。ヤツは残念に思うだろうけど、公にならなくてホッともするはず。
そんな『逃げ』は許さない。
ヤツをこのまま去らせはしない。
証拠がほしい。
ヤツの悪事の。
奏子をヤツのところに行かせるわけにはいかない。
だから……僕が行く。
ヤツはペドファイルでチャイルドマレスターだ。
そして。その多くは、子どもであれば女児も男児も性的対象とする。
ヤツの食指は、少年に対しても動くだろうか。
そう。
僕がヤツを陥れるエサになるんだ。
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