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第4章 協力者
僕にまかせて
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日曜日の午後。
再び、奏子と二人で子猫たちと遊んだ。
段ボール箱の底に敷くバスタオルを交換して、館から持ってきたミルクをあげながら……頭の中で計画を練る。
水曜の子猫の引っ越しは、奏子の代わりに僕が行っても問題ない。
5歳の子どもが急に具合悪くなるのは、おかしなことじゃない。
だけど。
次の金曜日も同じ言い訳をするとなると……ちょっと厳しいかな。
不自然にならずに奏子がヤツとの約束……水曜と金曜にヤツと会う……を守らなくて済む方法を考える。
毎回体調を崩して行けないのは、怪しまれる。
理由も何もなくただ行かないのは論外。
残る方法は、やっぱり……アレしかない。
「ねえ、ジャルド。クロたちいつからゴハン食べれるのかな?」
膝に乗せたハロの喉を無意識に撫でていた僕に、奏子が言った。
「そうだなぁ……」
3匹の子猫を順番に見る。
昨日の夕食で運動会の話題が出た時に。ショウに何気なくいつだったか聞いたら、2週間前の日曜日だった。本当は土曜日の予定が雨で日曜になったらしい。
その2日後の火曜、9日が、子猫たちを拾った日だ。
当時で生後1週間から10日として、今は生後3週間になるかならないかだと思う。
たぶん、3匹は一緒に生まれたはずだけど。クロだけほんの少し小さくて、歩き方もチャロとハロよりおぼつかない感じだ。
「あと1週間くらいしたら、やわらかいものからあげてみようか」
生後1ヶ月頃から離乳食を始める。
調べた本にそうあった。
烈から借りた2冊の本のうちのひとつは、『はじめての犬・猫の飼い方』だ。
「うん!」
奏子がクロを抱き上げる。
「もうすぐゴハンも食べられるよ。楽しみだねー」
無邪気な奏子の笑顔を見ていると、おとといのことが遠い記憶の彼方の出来事みたいに思えてくる。
同時に、ヤツへの怒りが固まりそうなマグマの下でプツプツと再燃するのを感じる。
「そうだ! 今日の夜ゴハンはカレーだよ。シュウおじさんとカイが作るから」
「え? そうなの?」
「日曜日はショウと汐とアヤおばさんはお休みなの。男の人もお料理が出来ないとダメなんだって」
「そっか。日曜日は男の人が料理当番なんだ」
「うん」
じゃあ、今夜は夕食で凱に会える。
本当は、二人きりで話せる時間がほしい。
どうにかチャンスを作れればいいんだけど。
「ジャルドはゴハン作れるの?」
「うーん。僕はまだ、目玉焼きとかベーコン焼くとかしか出来ないな。野菜や果物を切ったり剥いたりは出来るけど。リージェイクはけっこう作れるよ」
「ジェイクはジャルドのお兄ちゃん?」
「本当のお兄ちゃんじゃないけど、お兄ちゃんみたいな感じ、かな」
「レツとカイが奏子のお兄ちゃんみたいに?」
「そう」
「……ジェイクは怖くない?」
「どうして?」
「ずっと前にね、あたしがキク組でおうちにいた時。ジェイクがカイのことすっごく怒ってたの。怖かったから」
キク組……保育園の? 去年ってことかな。
リージェイクがここにいた頃、凱が何かして揉めた時のことだろう。
「大丈夫。リージェイクは何も悪いことしなかったら怒ったりしないよ」
「うん……でも……」
チャロとハロがじゃれ合ってるのを見ながら、奏子が言い淀む。
「大丈夫」
もう一度、僕は言った。
奏子が気に病んでるのは、子猫を内緒で森に置いていることだ。
ヤツが『悪いこと』だって吹き込んだせいで。
怒りのマグマが赤く輝く。
クロたちとヤツの関りをキッパリ切らないかぎり、奏子の中で子猫たちとヤツはセットになってるんだ。
この先も、ヤツとの約束を気にし続けるだろう。
忌まわしい経験を、奏子が忘れることはないかもしれない。
だけど、思い出す必要をなくすことは出来る。
「クロたちのことは、僕が何とかする」
何とか。
今、目指すのはふたつ。
ショウに頼んでクロたちのうちを館の中か庭に作る。
ヤツを館の敷地内に二度と入らないようにする。
望ましい展開は。
子猫とヤツを切り離して、子猫の居場所を確保して。ヤツを排除するって流れだ。
第一段階の計画はほぼ完成してる。
「僕にまかせて」
「うん」
力強く言った僕の言葉で、奏子の顔に笑みが戻る。
この笑顔を守りたい。
心からそう思う一方で、僕の中の怒りが出口を探している。
獰猛な何かが、餌食を求めている。
僕の手元で子猫が鳴いた。
再び、奏子と二人で子猫たちと遊んだ。
段ボール箱の底に敷くバスタオルを交換して、館から持ってきたミルクをあげながら……頭の中で計画を練る。
水曜の子猫の引っ越しは、奏子の代わりに僕が行っても問題ない。
5歳の子どもが急に具合悪くなるのは、おかしなことじゃない。
だけど。
次の金曜日も同じ言い訳をするとなると……ちょっと厳しいかな。
不自然にならずに奏子がヤツとの約束……水曜と金曜にヤツと会う……を守らなくて済む方法を考える。
毎回体調を崩して行けないのは、怪しまれる。
理由も何もなくただ行かないのは論外。
残る方法は、やっぱり……アレしかない。
「ねえ、ジャルド。クロたちいつからゴハン食べれるのかな?」
膝に乗せたハロの喉を無意識に撫でていた僕に、奏子が言った。
「そうだなぁ……」
3匹の子猫を順番に見る。
昨日の夕食で運動会の話題が出た時に。ショウに何気なくいつだったか聞いたら、2週間前の日曜日だった。本当は土曜日の予定が雨で日曜になったらしい。
その2日後の火曜、9日が、子猫たちを拾った日だ。
当時で生後1週間から10日として、今は生後3週間になるかならないかだと思う。
たぶん、3匹は一緒に生まれたはずだけど。クロだけほんの少し小さくて、歩き方もチャロとハロよりおぼつかない感じだ。
「あと1週間くらいしたら、やわらかいものからあげてみようか」
生後1ヶ月頃から離乳食を始める。
調べた本にそうあった。
烈から借りた2冊の本のうちのひとつは、『はじめての犬・猫の飼い方』だ。
「うん!」
奏子がクロを抱き上げる。
「もうすぐゴハンも食べられるよ。楽しみだねー」
無邪気な奏子の笑顔を見ていると、おとといのことが遠い記憶の彼方の出来事みたいに思えてくる。
同時に、ヤツへの怒りが固まりそうなマグマの下でプツプツと再燃するのを感じる。
「そうだ! 今日の夜ゴハンはカレーだよ。シュウおじさんとカイが作るから」
「え? そうなの?」
「日曜日はショウと汐とアヤおばさんはお休みなの。男の人もお料理が出来ないとダメなんだって」
「そっか。日曜日は男の人が料理当番なんだ」
「うん」
じゃあ、今夜は夕食で凱に会える。
本当は、二人きりで話せる時間がほしい。
どうにかチャンスを作れればいいんだけど。
「ジャルドはゴハン作れるの?」
「うーん。僕はまだ、目玉焼きとかベーコン焼くとかしか出来ないな。野菜や果物を切ったり剥いたりは出来るけど。リージェイクはけっこう作れるよ」
「ジェイクはジャルドのお兄ちゃん?」
「本当のお兄ちゃんじゃないけど、お兄ちゃんみたいな感じ、かな」
「レツとカイが奏子のお兄ちゃんみたいに?」
「そう」
「……ジェイクは怖くない?」
「どうして?」
「ずっと前にね、あたしがキク組でおうちにいた時。ジェイクがカイのことすっごく怒ってたの。怖かったから」
キク組……保育園の? 去年ってことかな。
リージェイクがここにいた頃、凱が何かして揉めた時のことだろう。
「大丈夫。リージェイクは何も悪いことしなかったら怒ったりしないよ」
「うん……でも……」
チャロとハロがじゃれ合ってるのを見ながら、奏子が言い淀む。
「大丈夫」
もう一度、僕は言った。
奏子が気に病んでるのは、子猫を内緒で森に置いていることだ。
ヤツが『悪いこと』だって吹き込んだせいで。
怒りのマグマが赤く輝く。
クロたちとヤツの関りをキッパリ切らないかぎり、奏子の中で子猫たちとヤツはセットになってるんだ。
この先も、ヤツとの約束を気にし続けるだろう。
忌まわしい経験を、奏子が忘れることはないかもしれない。
だけど、思い出す必要をなくすことは出来る。
「クロたちのことは、僕が何とかする」
何とか。
今、目指すのはふたつ。
ショウに頼んでクロたちのうちを館の中か庭に作る。
ヤツを館の敷地内に二度と入らないようにする。
望ましい展開は。
子猫とヤツを切り離して、子猫の居場所を確保して。ヤツを排除するって流れだ。
第一段階の計画はほぼ完成してる。
「僕にまかせて」
「うん」
力強く言った僕の言葉で、奏子の顔に笑みが戻る。
この笑顔を守りたい。
心からそう思う一方で、僕の中の怒りが出口を探している。
獰猛な何かが、餌食を求めている。
僕の手元で子猫が鳴いた。
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