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第7章 対話

悪かったな

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「これはレイプか? それとも、了承済みでやったのか?」

「んー……。半々?」

 かいが大きく息をついた。

「あいつと交渉中のモノがあってさ。オレがそれもらう代わりに、薬の治験と……1回やらせるってことになって……今日はあんま時間ねぇっつったんだけど」

「薬?」

「超即効性・超短時間型の眠剤……かな」

「……そのおかげで、裸で縛りつけられるハメになったんだな」

 リージェイクの話し方がいつもと違う。
 本気で怒ってる時の口調だ。

「薬でソッコー落ちて、気づいたらそーなってたんだよ」

「そうなる可能性を考慮しなかったのか」

「やるのはオッケーしてんだから、縛る必要があると思わねぇじゃん?」

「きみにしては、随分と迂闊じゃないか」

「オレが甘かったのは認めるよ。あいつが……あんなサディストだったとは、ね。わかった時にはもう遅かったの。仕方ねぇだろ……いって! 烈! やめろ!」

 烈は消毒薬を凱の傷口に振りかけて、脱脂綿で乱暴に拭いている。

「凱が見破れないほど猫かぶってたの? あの、まじめな好青年って感じの男」

 言いながら、烈は僕に新しい脱脂綿をよこした。
 それを受け取り、左側の傷に消毒液がかけられるのを待つ。

「あーあいつのこと見たんだっけ。こんなセックスするようには見ぇねえだろ? だって、生徒会の副会長だぜ」

「そうなの!?」

 僕の声に応えるように、凱が頭の向きをこっちに変える。

「そーなの。変態は見た目じゃわかんねぇよな。身近にいるか、自分もそーなら、同類はすぐ見分けられるかもしんね……つっ!」

 烈が消毒液をビシャっとかけた。
 歯型の傷を少しずつ丁寧に拭く。

「ジャルド……」

 凱が僕の瞳を見る。

「悪かったな。見たくねぇもん見せて」

「ううん。僕が助けたくていたんだから」

「おまえ、なかなか帰んねぇからヒヤヒヤしたぜ。あいつが子どもでもオッケーだったらヤバイだろ」

 嫌な想像をして、僕は顔をしかめた。

「オレは動けねぇし。あいつはドSモードにスイッチ入ってるしで、危ねぇじゃん」

「うん……」

「オレに何してもいーけどさー……子どもをやるのは最低のクソだ」

 凱の声に怒気が混じる。

「子どもに手ぇ出すヤツは、ぶっ壊す」

 凱がニヤリと笑う。
 その瞳に透かし見える怒りと……黒い喜び。



 やっぱり……凱が人を壊すのには理由があるんじゃないかな。
 そのひとつは僕と同じ、子どもに悪事を働く人間だから……?

 今の凱の瞳と言葉に、僕の中にいる獰猛な何かが反応する。



 そんなことを考えていた僕は、ふと視線を感じて顔を上げると、真後ろに来たリージェイクと目が合った。

「大丈夫か?」

「大丈夫」

 即答する。

 この状況と今の会話で、自分の悪夢を思い出したのは否定出来ない。
 だけど。
 リージェイクが心配するほど、今の僕は……あの時の恐怖も、セックスへの恐怖も感じてはいなかった。

 恐怖を黙らせるのは、怒りの感情。
 そして、それ以外の何かがある。



 その『何か』の正体を、凱はきっと知っていると思った。


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