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第10章 過去の真実
復讐はやめろ
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「被害にあったのは、13から15歳の少年たちだ。身体は大人に近づいていても、精神的にまだ幼い部分を残し、周りの目を気にする年頃のね。その彼らが何の葛藤もなく、男にレイプされたことを人に話したり訴えたり出来ると思う?」
出来ない……かもしれない。
隠せるなら、その事実を隠したい。
人に知られたくない。
誰にも知られなければ、これ以上傷つかない。
そう思うかもしれない。
もし、それが二度と繰り返されない保証があるのなら……。
「リージェイクも……?」
「僕は平気だよ」
口の端を僅かに上げるリージェイクに、その意味を聞く必要はなかった。
「自分だけの問題なら迷わずにそうした。凱も同じだ。僕たちにはああいった卑劣な行為に屈してまで守りたいプライドも、恥や外聞を気にする感情もないからね」
そう言い切れるリージェイクの強さをほかの生徒たちに望むのが無理なことは、僕にも容易に理解出来た。
「告発したら、ほかの被害者のことも……明るみに出ちゃうから?」
「そう。だから、正当な手段での解決が難しかったんだ。そして、凱を中心とした復讐計画が持ち上がって……当然のように誘われた」
凱はどんな気持ちでリージェイクを復讐に誘ったのか。
断られる可能性のほうが高いって知っていたはず。
それでも、説得できる自信があったのか……。
「凱は、僕が復讐に参加しないのはわかってたよ。でも、もしかしたらって期待もしてたと思う。復讐はしない。そう言った僕に、『あの男が許せるのか? 許されていいのか? これは、やらないほうが後悔して苦しむ復讐だ』……そう、食い下がった」
やらないほうが後悔する……。
そこまで信じている凱を止めるのは不可能だっただろう。
そして。
復讐は誰も救えないって信じるリージェイクを説得するのも、無理だ。
「相手にも譲れない思いがあることを、僕も凱もよく知っていたからね。そこで終わりにすればよかったのに、僕が……よけいなことをした」
「何を……?」
「『復讐はやめろ』」
僕との間の宙を見つめるリージェイク。
「『あの男に、きみが悪になってまで潰す価値はない。悪の側に踏み込んだら、きみの正しさは喰われて元には戻らない。狂気に囚われたら、大切なものを見誤る。だからやめてほしい』そう言って説き伏せようとしたんだ」
「それがよけいなの? 復讐に反対だから、止めようとしただけでしょ?」
「そうだよ。反対して、止めようとした。凱を一番わかっているはずの僕が、だ。あの教師を許せない気持ちは僕も同じで、凱はそれを知っていたのに……」
苦しげなリージェイクの眼差しが、僕を見据える。
「校則や世間のルールは破っても、人として守るべきものを守り超えてはいけないラインを超えない正しさが凱にはあった。それを曲げてでもやると決めた復讐に、僕は反対した。賛成は出来なくても、否定するべきじゃなかった」
「凱は……すごく怒ったの?」
「怒るならまだよかったよ」
力なく首を振ったリージェイクの声に、後悔の念が滲む。
「僕に反対されて、凱の自信が揺らいだ。復讐が出来るかどうかじゃない。悪になって自分を保てるかどうか……不安に駆られた。凱は素直な人間だからね。信頼する僕の言葉をダイレクトに受け止めたんだ」
素直な人間。
昨夜の凱は、彼の素の姿なのか……。
「3日後の夜、凱が僕の部屋に来た。復讐には加わらなくていいから、その場にいてほしい。悪の中でもここまでだってラインを判断して、自分がやり過ぎたら止めてほしい……そう頼まれたよ」
「一緒に来て、暴行の現場を……見ててほしいってこと……?」
「うん。復讐はやめない。だけど、怒りと憎しみを解き放った時の自分を信用しきれない。悪になった自分をコントロール出来ないかもしれない。ギリギリのところで考えて、凱は僕に助けを求めた」
「……断ったんだね」
呟いた。
「でも、それはしょうがないよ。復讐するのを見てるなんて……」
「違うんだ」
遮ったリージェイクが目を閉じて空を仰ぎ、僕を見る。
「凱の頼みを断ったのは、復讐に少しでも関わるのが嫌なんじゃない。凱たちが教師に苦痛や屈辱を与えるのを見るのがつらいわけでもない」
「じゃあ、何が……」
「僕にも自信がなかったんだ。その場にいたら、復讐に参加しないでいられるか。そして、参加してしまったら、狂気に囚われずにいられるか……その自信が」
出来ない……かもしれない。
隠せるなら、その事実を隠したい。
人に知られたくない。
誰にも知られなければ、これ以上傷つかない。
そう思うかもしれない。
もし、それが二度と繰り返されない保証があるのなら……。
「リージェイクも……?」
「僕は平気だよ」
口の端を僅かに上げるリージェイクに、その意味を聞く必要はなかった。
「自分だけの問題なら迷わずにそうした。凱も同じだ。僕たちにはああいった卑劣な行為に屈してまで守りたいプライドも、恥や外聞を気にする感情もないからね」
そう言い切れるリージェイクの強さをほかの生徒たちに望むのが無理なことは、僕にも容易に理解出来た。
「告発したら、ほかの被害者のことも……明るみに出ちゃうから?」
「そう。だから、正当な手段での解決が難しかったんだ。そして、凱を中心とした復讐計画が持ち上がって……当然のように誘われた」
凱はどんな気持ちでリージェイクを復讐に誘ったのか。
断られる可能性のほうが高いって知っていたはず。
それでも、説得できる自信があったのか……。
「凱は、僕が復讐に参加しないのはわかってたよ。でも、もしかしたらって期待もしてたと思う。復讐はしない。そう言った僕に、『あの男が許せるのか? 許されていいのか? これは、やらないほうが後悔して苦しむ復讐だ』……そう、食い下がった」
やらないほうが後悔する……。
そこまで信じている凱を止めるのは不可能だっただろう。
そして。
復讐は誰も救えないって信じるリージェイクを説得するのも、無理だ。
「相手にも譲れない思いがあることを、僕も凱もよく知っていたからね。そこで終わりにすればよかったのに、僕が……よけいなことをした」
「何を……?」
「『復讐はやめろ』」
僕との間の宙を見つめるリージェイク。
「『あの男に、きみが悪になってまで潰す価値はない。悪の側に踏み込んだら、きみの正しさは喰われて元には戻らない。狂気に囚われたら、大切なものを見誤る。だからやめてほしい』そう言って説き伏せようとしたんだ」
「それがよけいなの? 復讐に反対だから、止めようとしただけでしょ?」
「そうだよ。反対して、止めようとした。凱を一番わかっているはずの僕が、だ。あの教師を許せない気持ちは僕も同じで、凱はそれを知っていたのに……」
苦しげなリージェイクの眼差しが、僕を見据える。
「校則や世間のルールは破っても、人として守るべきものを守り超えてはいけないラインを超えない正しさが凱にはあった。それを曲げてでもやると決めた復讐に、僕は反対した。賛成は出来なくても、否定するべきじゃなかった」
「凱は……すごく怒ったの?」
「怒るならまだよかったよ」
力なく首を振ったリージェイクの声に、後悔の念が滲む。
「僕に反対されて、凱の自信が揺らいだ。復讐が出来るかどうかじゃない。悪になって自分を保てるかどうか……不安に駆られた。凱は素直な人間だからね。信頼する僕の言葉をダイレクトに受け止めたんだ」
素直な人間。
昨夜の凱は、彼の素の姿なのか……。
「3日後の夜、凱が僕の部屋に来た。復讐には加わらなくていいから、その場にいてほしい。悪の中でもここまでだってラインを判断して、自分がやり過ぎたら止めてほしい……そう頼まれたよ」
「一緒に来て、暴行の現場を……見ててほしいってこと……?」
「うん。復讐はやめない。だけど、怒りと憎しみを解き放った時の自分を信用しきれない。悪になった自分をコントロール出来ないかもしれない。ギリギリのところで考えて、凱は僕に助けを求めた」
「……断ったんだね」
呟いた。
「でも、それはしょうがないよ。復讐するのを見てるなんて……」
「違うんだ」
遮ったリージェイクが目を閉じて空を仰ぎ、僕を見る。
「凱の頼みを断ったのは、復讐に少しでも関わるのが嫌なんじゃない。凱たちが教師に苦痛や屈辱を与えるのを見るのがつらいわけでもない」
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