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第10章 過去の真実
負の部分の解放
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「う……ん。たぶん……」
曖昧に答える僕を、リージェイクは追求しなかった。
「あと、狂気を操るって発想がね。意識して、自覚しないと出来ないことだ」
「リージェイクも思ってるの? 凱は狂気を操ってるって」
「制御できる狂気は、もう狂気とは呼べない。言うなら、善良さを一切含まない激しい負の思考と感情……かな。凱は、自分の内に飼うその負の部分を意識して解放しているんだと思う時があるよ。とても鮮やかに自分を切り替える彼を見ているとね」
負の部分の解放……。
綾さんの見立てと同じだ。
そして。
自分の内に飼っているその負の部分が……僕の中にもいるこの獰猛な何か、なのかもしれない。
探していた答えのひとつが、見えた気がした。
「解放した負の部分に自分を委ねるのは、心と理性を喰われるリスクを負う。ヘタしたら、自分のやったことに耐えきれず後悔して自己嫌悪。そして、自己崩壊だ。危険な賭けだよ」
「そういう部分のない人っているのかな……」
「負の部分は誰の心にもある。ただ、多くの人はそれを直視せず、存在自体を無意識に否定する。自分は善良な人間だと思いたいからね。でも、ふとした拍子に現れて主導権を握られることもある。よく言う『魔が差した』って状態だ」
「でも、それも自分でしょ? コントロール出来ないのは、慣れてないだけなんじゃない?」
「そうかもしれないな。だけど、慣れるのは難しいことだよ。自分の中にある汚さや醜い感情にしっかり向き合うのは怖いからね。その点、負の感情もごまかさずに認められる凱は、他人のそれにも敏感なんだと思うよ」
だから凱は、悪い教師へのみんなの思いを、そのままにしておくことが出来なかったんだろうか。
「凱がその教師を暴行したのは、やっぱり……怒りから?」
生徒たちを苦しめた男の所業を思い、怒気を含んだ声で聞いた。
「小児性犯罪者や、レイプとかの性的虐待をする人間が許せないから……?」
「うん。凱は、子どもを傷つけて食い物にする人間は絶対に許さない。中学生はもう身体的には子どもとは言い難い子も多いけど……本人の了承なく精神的な苦痛を強要して凌辱するのは、大人相手でも最低な行為だ」
リージェイクの声にも、怒りが混じる。
「あの男が生徒たちを虐待していたのは、自分の立場を利用して楽に欲望を満たせる存在だったからだ。小児性愛者じゃなく、嗜虐性欲のある同性愛者だよ」
「そんなヤツ、許されなくて当然だ」
「誰でもそう思う。凱たちが処罰されなかった大きな理由だ。同性愛者なのはともかく、サディストの性犯罪者は始末に負えない」
昨夜の凱と……彼の友人のセックスを思い出した。
「リージェイクは、同性愛に抵抗はないの?」
「ないよ。個人の自由だ。ゲイの友人もいる」
普通に答えたリージェイクが、僕を見て首を傾げる。
きっと……何とも形容し難い、どこかネガティブな表情をしているんだろう。
「きみはあるの?」
「僕は……恋愛感情さえまだわからないし、この先セックスする気もないけど……男となんて考えられない」
微妙な沈黙が流れる中。
テーブルの木目のくぼみを見つめながら、続く言葉を口にする。
綾さんにも言った、素直な気持ちを。
「セックスが怖いんだ」
顔を上げると、物思わしげな表情のリージェイクと目が合った。
憂いを帯びたその瞳に見えるのは、同情じゃなく共感だ。
「リージェイクはどうして平気になったの? あれだけの苦痛を味わったあとで、どうしたら出来るの? 凱だって、昨夜みたいなことされて平然としてるし……男とも普通にするみたいだし、何でそんな気になれるの……?」
曖昧に答える僕を、リージェイクは追求しなかった。
「あと、狂気を操るって発想がね。意識して、自覚しないと出来ないことだ」
「リージェイクも思ってるの? 凱は狂気を操ってるって」
「制御できる狂気は、もう狂気とは呼べない。言うなら、善良さを一切含まない激しい負の思考と感情……かな。凱は、自分の内に飼うその負の部分を意識して解放しているんだと思う時があるよ。とても鮮やかに自分を切り替える彼を見ているとね」
負の部分の解放……。
綾さんの見立てと同じだ。
そして。
自分の内に飼っているその負の部分が……僕の中にもいるこの獰猛な何か、なのかもしれない。
探していた答えのひとつが、見えた気がした。
「解放した負の部分に自分を委ねるのは、心と理性を喰われるリスクを負う。ヘタしたら、自分のやったことに耐えきれず後悔して自己嫌悪。そして、自己崩壊だ。危険な賭けだよ」
「そういう部分のない人っているのかな……」
「負の部分は誰の心にもある。ただ、多くの人はそれを直視せず、存在自体を無意識に否定する。自分は善良な人間だと思いたいからね。でも、ふとした拍子に現れて主導権を握られることもある。よく言う『魔が差した』って状態だ」
「でも、それも自分でしょ? コントロール出来ないのは、慣れてないだけなんじゃない?」
「そうかもしれないな。だけど、慣れるのは難しいことだよ。自分の中にある汚さや醜い感情にしっかり向き合うのは怖いからね。その点、負の感情もごまかさずに認められる凱は、他人のそれにも敏感なんだと思うよ」
だから凱は、悪い教師へのみんなの思いを、そのままにしておくことが出来なかったんだろうか。
「凱がその教師を暴行したのは、やっぱり……怒りから?」
生徒たちを苦しめた男の所業を思い、怒気を含んだ声で聞いた。
「小児性犯罪者や、レイプとかの性的虐待をする人間が許せないから……?」
「うん。凱は、子どもを傷つけて食い物にする人間は絶対に許さない。中学生はもう身体的には子どもとは言い難い子も多いけど……本人の了承なく精神的な苦痛を強要して凌辱するのは、大人相手でも最低な行為だ」
リージェイクの声にも、怒りが混じる。
「あの男が生徒たちを虐待していたのは、自分の立場を利用して楽に欲望を満たせる存在だったからだ。小児性愛者じゃなく、嗜虐性欲のある同性愛者だよ」
「そんなヤツ、許されなくて当然だ」
「誰でもそう思う。凱たちが処罰されなかった大きな理由だ。同性愛者なのはともかく、サディストの性犯罪者は始末に負えない」
昨夜の凱と……彼の友人のセックスを思い出した。
「リージェイクは、同性愛に抵抗はないの?」
「ないよ。個人の自由だ。ゲイの友人もいる」
普通に答えたリージェイクが、僕を見て首を傾げる。
きっと……何とも形容し難い、どこかネガティブな表情をしているんだろう。
「きみはあるの?」
「僕は……恋愛感情さえまだわからないし、この先セックスする気もないけど……男となんて考えられない」
微妙な沈黙が流れる中。
テーブルの木目のくぼみを見つめながら、続く言葉を口にする。
綾さんにも言った、素直な気持ちを。
「セックスが怖いんだ」
顔を上げると、物思わしげな表情のリージェイクと目が合った。
憂いを帯びたその瞳に見えるのは、同情じゃなく共感だ。
「リージェイクはどうして平気になったの? あれだけの苦痛を味わったあとで、どうしたら出来るの? 凱だって、昨夜みたいなことされて平然としてるし……男とも普通にするみたいだし、何でそんな気になれるの……?」
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