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第10章 過去の真実
何かあったら力になるよ
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え……?
烈が心を見せないのは、その通りだと思う。
その必要があったんだとも。
少し驚いたのは、リージェイクがわざわざ言及することに対してだ。
「それで周りの人間が何か悪影響を受けるわけじゃないけど……烈自身がね。ちょっと心配なんだ。自分の気持ちを人に知られないようにするスキルが高くて、人に頼ることに慣れていない。何かあってもひとりで抱え込もうとする」
リージェイクが淋し気な瞳で僕を見る。
「だから、二人が親しくなれば、お互い楽になると思って」
そういうこと……か。
「うん……そうかも。でも、僕はそんなにポーカーフェイスがうまくないよ」
僕は本心を隠せていない。
あなたが気づいていること以外に裏はないよ。
そうアピールしたんだけど……さすがにリージェイクには通じない。
「きみがそう思うなら、僕も同じくらいかな」
軽く笑った。
「烈はそんなに?」
「僕の知っている中では……ラストワの次に」
その言葉に、前に向けていた視線を横に戻す。
「だけど、完全に隠せない時もある。昨夜の烈を見ていて気づいたんだ。この1年の間に何かあって、彼は苦しんでると思う」
「烈……昨夜どこかおかしかった?」
凱の傷の手当をテキパキとこなす烈の姿を思い出す。
「いつもと同じって言えるほど僕は烈を知らないし、あんな場面でも冷静だったし……」
あ……もしかして。
烈も僕みたいに復讐を計画しているから、その思いと凱を傷つけた男への怒りがシンクロして態度に出ちゃったとか……?
「でも、何かあるなら話を聞いて……烈の力になりたい」
「きみならなれる」
リージェイクが力強く言った。
「僕の勘違いだといいけど、誰にも言えずに悩むのはきついからね。きみも、自分はひとりだって思い込まないでほしい。僕も…何かあったら力になるよ」
「わかった。リージェイクもね」
「うん」
「あ。あとさ、これからも自分のこと僕って言うほうがいいな。親しみやすくて。私って聞くとラストワみたいだもん」
リージェイクが笑った。
「そうするよ。学校では不自然だろうし、ラストワもここにいないしね。出来るだけ無理はしないで自分自身でいよう。お互いに」
「オーケー」
館に向かって一緒に歩く僕たちの心は、昨日よりもずっと近くにある。
そのことを嬉しいと思った。
心地良いと感じた。
リージェイクを頼もしく思った。
もし、この先に……彼によって変わる未来があるかもしれないとしても。
「ジャルドー!」
車のエンジン音とともに、背後から僕を呼ぶ声がした。
振り返ると、見る間に真後ろに来て停まった車の窓から奏子が顔を出す。
「ただいま! おみやげいっぱいあるよー」
「おかえり。今日はお疲れ」
声をかけ。僕とリージェイクが車の脇に移動すると、奏子は車内に頭を引っ込めた。
「見て。こんなに大きいの……」
「ここで出さないの。家に着いてからにしなさい」
掘って来たサツマイモを見せようとする奏子を、ショウが窘める。
「二人とも乗ってく?」
ショウの申し出に、僕とリージェイクは顔を見合わせることなく首を横に振る。
館まではもう200メートル足らずの距離だ。
「待ってるから早く来てね!」
「うん。わかった」
手を振る奏子に笑顔で答え、走り出す車を見送った。
「奏子と仲良くなったんだね」
そう言って微笑むリージェイクの視線を受けて、ちょっと動揺する。
「顔合わせの日に森でバッタリ会って、案内してもらったら……なんとなく意気投合して。小さい子と遊ぶ機会ってほとんどなかったけど、奏子といるのは楽しいよ」
おかしなことは言っていないはず。
僕と奏子が偶然森で会ったのも不自然じゃない。
ただ。
その出会いは、僕がここにいる『今』に繋がる分岐点だった。
それを悟らせる表情や仕草をしちゃってなきゃ、大丈夫だ。
「妹が出来たみたいで、やさしい気持ちになるんだ」
自然な笑みを浮かべる僕に、リージェイクが頷いた。
「わかるよ」
僕たちはのんびりした足取りで歩き出す。
「向こうに戻る前。学校の寮よりここにいる時間が多くなっても、その頃……僕は奏子に怖がられていたから、一緒に遊んだことはないけどね」
そういえば……。
「たぶん、それ……リージェイクが凱を怒ってるとこ見たせいだよ。奏子が言ってた。怖かったって」
「凱を……?」
「心当たりない? いつも穏やかなリージェイクが怒るのって、たとえ静かに話してても奏子から見たら十分怖いだろうけど。怒鳴りつけたりとか、ケンカ腰でとか」
「ああ……あの時かな」
「凱にいろいろ嫌がらせとかされて、いい加減頭にきた?」
「いや……」
足元を見つめながら、リージェイクが続ける。
「僕以外をターゲットにするようになってすぐ、凱が……かなり危険な目にあったんだ。自暴自棄としか思えないその行動のことで言い合いになって……つい、胸ぐらをつかんで本気で凄んだ」
リージェイクが凄むって……普段とのギャップでよけいに怖そうだ。
「何て言ったの?」
顔を上げたリージェイクは、バツの悪そうな表情で僕を見る。
「自分勝手で恥ずかしいことを……ね。ごめん」
リージェイクは目を逸らした。
ごめん……?
言えないってこと?
無言で歩く僕たちの前に館が見えてきた。
「凱に、聞いてもいい?」
そう言ったのは、いいよって返事を求めてじゃない。
凱に聞くね、の意思表示だ。
今日、自分のことをあれだけ赤裸々に語ったリージェイクが言わないって……ひどく気になったから。
「もし、憶えていたとしても……凱が忘れたフリをしてくれるのを願うよ」
僕の真意は伝わり、リージェイクが諦めの表情で笑った。
今夜、凱に会う。
今日こそは、アクシデントがないといい……な。
烈が心を見せないのは、その通りだと思う。
その必要があったんだとも。
少し驚いたのは、リージェイクがわざわざ言及することに対してだ。
「それで周りの人間が何か悪影響を受けるわけじゃないけど……烈自身がね。ちょっと心配なんだ。自分の気持ちを人に知られないようにするスキルが高くて、人に頼ることに慣れていない。何かあってもひとりで抱え込もうとする」
リージェイクが淋し気な瞳で僕を見る。
「だから、二人が親しくなれば、お互い楽になると思って」
そういうこと……か。
「うん……そうかも。でも、僕はそんなにポーカーフェイスがうまくないよ」
僕は本心を隠せていない。
あなたが気づいていること以外に裏はないよ。
そうアピールしたんだけど……さすがにリージェイクには通じない。
「きみがそう思うなら、僕も同じくらいかな」
軽く笑った。
「烈はそんなに?」
「僕の知っている中では……ラストワの次に」
その言葉に、前に向けていた視線を横に戻す。
「だけど、完全に隠せない時もある。昨夜の烈を見ていて気づいたんだ。この1年の間に何かあって、彼は苦しんでると思う」
「烈……昨夜どこかおかしかった?」
凱の傷の手当をテキパキとこなす烈の姿を思い出す。
「いつもと同じって言えるほど僕は烈を知らないし、あんな場面でも冷静だったし……」
あ……もしかして。
烈も僕みたいに復讐を計画しているから、その思いと凱を傷つけた男への怒りがシンクロして態度に出ちゃったとか……?
「でも、何かあるなら話を聞いて……烈の力になりたい」
「きみならなれる」
リージェイクが力強く言った。
「僕の勘違いだといいけど、誰にも言えずに悩むのはきついからね。きみも、自分はひとりだって思い込まないでほしい。僕も…何かあったら力になるよ」
「わかった。リージェイクもね」
「うん」
「あ。あとさ、これからも自分のこと僕って言うほうがいいな。親しみやすくて。私って聞くとラストワみたいだもん」
リージェイクが笑った。
「そうするよ。学校では不自然だろうし、ラストワもここにいないしね。出来るだけ無理はしないで自分自身でいよう。お互いに」
「オーケー」
館に向かって一緒に歩く僕たちの心は、昨日よりもずっと近くにある。
そのことを嬉しいと思った。
心地良いと感じた。
リージェイクを頼もしく思った。
もし、この先に……彼によって変わる未来があるかもしれないとしても。
「ジャルドー!」
車のエンジン音とともに、背後から僕を呼ぶ声がした。
振り返ると、見る間に真後ろに来て停まった車の窓から奏子が顔を出す。
「ただいま! おみやげいっぱいあるよー」
「おかえり。今日はお疲れ」
声をかけ。僕とリージェイクが車の脇に移動すると、奏子は車内に頭を引っ込めた。
「見て。こんなに大きいの……」
「ここで出さないの。家に着いてからにしなさい」
掘って来たサツマイモを見せようとする奏子を、ショウが窘める。
「二人とも乗ってく?」
ショウの申し出に、僕とリージェイクは顔を見合わせることなく首を横に振る。
館まではもう200メートル足らずの距離だ。
「待ってるから早く来てね!」
「うん。わかった」
手を振る奏子に笑顔で答え、走り出す車を見送った。
「奏子と仲良くなったんだね」
そう言って微笑むリージェイクの視線を受けて、ちょっと動揺する。
「顔合わせの日に森でバッタリ会って、案内してもらったら……なんとなく意気投合して。小さい子と遊ぶ機会ってほとんどなかったけど、奏子といるのは楽しいよ」
おかしなことは言っていないはず。
僕と奏子が偶然森で会ったのも不自然じゃない。
ただ。
その出会いは、僕がここにいる『今』に繋がる分岐点だった。
それを悟らせる表情や仕草をしちゃってなきゃ、大丈夫だ。
「妹が出来たみたいで、やさしい気持ちになるんだ」
自然な笑みを浮かべる僕に、リージェイクが頷いた。
「わかるよ」
僕たちはのんびりした足取りで歩き出す。
「向こうに戻る前。学校の寮よりここにいる時間が多くなっても、その頃……僕は奏子に怖がられていたから、一緒に遊んだことはないけどね」
そういえば……。
「たぶん、それ……リージェイクが凱を怒ってるとこ見たせいだよ。奏子が言ってた。怖かったって」
「凱を……?」
「心当たりない? いつも穏やかなリージェイクが怒るのって、たとえ静かに話してても奏子から見たら十分怖いだろうけど。怒鳴りつけたりとか、ケンカ腰でとか」
「ああ……あの時かな」
「凱にいろいろ嫌がらせとかされて、いい加減頭にきた?」
「いや……」
足元を見つめながら、リージェイクが続ける。
「僕以外をターゲットにするようになってすぐ、凱が……かなり危険な目にあったんだ。自暴自棄としか思えないその行動のことで言い合いになって……つい、胸ぐらをつかんで本気で凄んだ」
リージェイクが凄むって……普段とのギャップでよけいに怖そうだ。
「何て言ったの?」
顔を上げたリージェイクは、バツの悪そうな表情で僕を見る。
「自分勝手で恥ずかしいことを……ね。ごめん」
リージェイクは目を逸らした。
ごめん……?
言えないってこと?
無言で歩く僕たちの前に館が見えてきた。
「凱に、聞いてもいい?」
そう言ったのは、いいよって返事を求めてじゃない。
凱に聞くね、の意思表示だ。
今日、自分のことをあれだけ赤裸々に語ったリージェイクが言わないって……ひどく気になったから。
「もし、憶えていたとしても……凱が忘れたフリをしてくれるのを願うよ」
僕の真意は伝わり、リージェイクが諦めの表情で笑った。
今夜、凱に会う。
今日こそは、アクシデントがないといい……な。
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