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The Voice vol.1
Prologue
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2014年3月29日 自宅にて
急いで階段をパタパタと降りて来る音を聞いて母親がリビングから玄関に出てくる。
「出掛けるの?すぐに帰って来る?」
「うん。桜の写真撮りに行くだけだから。」
少女は去年の誕生日プレゼントに両親から貰ったカメラを首からぶら下げスリッパを脱ぎ靴に履き替えた。
「体調は大丈夫なの?」
「最近は調子いいから。それに良いお天気だし。」
母は子供の頃から体が弱かった少女の体調を過剰な程心配する。
それは子供の頃から高校生になった今でも変わらない。
「駅の方まで行くの?私も付いて行こうかな~。」
「一人で大丈夫だから。」
「行きは下り坂だけど帰りは上り坂よ。無理をしたら絶対にダメ。わかってる?」
「わかってるよ。いつも帰りは自転車押してるから。」
「本当に大丈夫?」
「だいじょ~ぶ。」
「もしもの時はすぐに家に連絡するのよ。」
「わかってるって。」
少女が外に出ると一緒に母も外に出て来た。少女が出掛ける時はいつもこうだ。母は玄関先まで出て来て見送ってくれる。少女は自転車にまたがり、リュックサックの位置を正した。
「行って来ます。」
「はい。気をつけてね。」
「はーい。」
少女は自転車をこぎ出した。
自転車は坂を下って行く。
柔らかな風が少女の頬にあたる。
(とってもいい気分だ。)
2014年3月30日 ライブハウス〈エンジェル〉にて
ステージ上から金髪の男が叫ぶ。
それを客席から叫び返す者達がいる。
一見ライブを見に来た客とバンドが一体となっているようにも見えるがそうではない。
客席からは10人程のガラの悪い連中がヤジを飛ばし、それに対して3人のバンドメンバーが応戦しているのだ。
一人のガラの悪い男がニタニタと薄笑みを浮かべせて叫ぶ。
「ちゃんと演奏しろ!このヘタクソバンド!」
その男はステージ上にいるバンドめがけて空きビンを投げつけた。空きビンは金髪に染めたドラムの男の足下で割れた。金髪の男が手に持っていたスティックを力一杯握りしめる。
ベースの男が2人に我慢するように言う。しかし、ボーカルの男と金髪に染めたドラムの男は今にも暴れ出しそうだ。その様子を見てベースの男も覚悟を決めた。
金髪の男が今ヤジを飛ばした男めがけてスティックを思いっきり投げつけた。それが合図だったかのようにステージ上にいる男達はガラの悪い連中に一斉に襲いかかる。
ガラの悪い連中は10人と数は多いがバンドメンバー3人は怯まない。一人また一人と相手を倒していく。関係のない客は店から飛び出し、ライブハウスの店員は喧嘩を止めに入る。怒号が鳴り響きグラスの割れる音がする。
金髪の男はさっき薄笑みを浮かべながら叫んだ男と殴り合う。
金髪の男はそれなりの背丈があるが相手の男はそれ以上に背が高くガタイが良い。それでも金髪の男は決して負けてはいなかったのだが、すでに倒れていたガラの悪い連中の一人に足を掴まれてしまった。その瞬間をガタイの良い男は見逃さなかった。金髪の男の胸を思いっきり蹴り飛ばした。金髪の男はうつ伏せに倒れ込みその上にガタイの良い男は馬乗りになった。『しまった』と思った瞬間にはもう金髪の男の右腕はその男に掴まれていた。相手の顔が見える。またニタニタと気持ちの悪い薄笑みを浮かべていた。
「何がそんなにおもしれぇんだよ。」
金髪の男が静かにそう言った。ガタイの良い男は金髪の男の右腕に少しずつ力を入れながら言う。
「探したんだぜ。俺達の夢を潰したお前らに復讐してやろうと思ってな。特に金髪。お前には世話になった。」
「はあ?てめぇ何言ってやがる!」
金髪の男がそう言った瞬間さっきまでニタニタと薄笑みを浮かべていた男の表情が怒りの表情に変わった。そして、掴んでいた金髪の男の右腕にさっきよりも力を入れていく。少しずつゆっくりと。
「折るならさっさと折れクソが!」
ボキッという鈍い音がした。
金髪の男は折れた右腕の激痛で床に転げ回る。その姿を見ながらガラの悪い男達は一人また一人とライブハウスから急いで逃げ出して行く。ボーカルの男もベースの男も喧嘩が強く2人で9人を追いやった。最後の一人、金髪の腕を折った男は金髪の男の腹部を蹴り上げてからゆっくりと歩いて店を出て行った。男のその顔にはまた薄気味の悪い笑みがこぼれていた。
(いてぇ…あいつ………誰だったんだ……?)
やがて店内は静まり返りさっきまで飛び交っていた怒号が嘘だったかのような静寂が訪れた。
店に残ったのは3人のバンドメンバーと店員達だけになっていた。
一人の年配の男がゆっくりと3人の前に歩いて来る。この店のオーナーだ。
表情はとても険しい。金髪の男は心でつぶやく。『またやっちまった…』と。
「お前らまたやってくれたな。」
静かな声にとてつもない怒りがこもっているのが金髪の男にはわかった。そして、次に出てくる言葉も想像がつく…きっと静かな声で言うのだろう。『お前ら出入り禁止な。二度と来るな』と。
遠くからサイレンの音が聞こえてくる。救急車の音だ。
(パトカーの音は?……ない。)
どんどんとサイレンは大きくなりすぐ近くで音が消えた。
金髪の男は『おっせーんだよ。』と心の中で毒突く。
救急隊員がやって来た。金髪の男は歩ける事を伝えて救急車に乗り込んだ。
救急車に乗り込む時、オーナーが他のメンバー2人と話す声が金髪の男の耳に届いた。
「1年経ったから3人は変わったはずだと言われたのに残念だよ…1年前と何も変わっていなかった…」
(変わったはずだと言われた?一体誰に?…1年前?この店…この雰囲気…)
(………そうか…ここだったのか…)
2014年5月3日 柴咲市民ホールにて
市民ホールの薄明かりの廊下を二人の女性が歩いている。
一人はボブヘアの女子高生で深緑色の制服を着ていてスカートはとても長い。もう一人は綺麗な黒髪のロングヘアの女性でオーケストラ衣装を着ている。
壁に貼られたA3サイズのポスターを見てオーケストラ衣装を着た女性が立ち止まった。
ポスターにはたくさんの楽団員が演奏をしている写真が使われているのだが、それとは別に一人の女性が大きく写っている。その女性は茶色いブレザーの制服を着ていて、前髪を真っすぐ綺麗に揃えているのだが前髪以外はボサボサのおかっぱ頭で寝癖までがついている。
(どうして前髪をちゃんと揃えているのに寝癖を直していないんだろう…)
この写真を見る度ボブヘアの少女はそう思う。
「今話題の現役女子高生ピアニストと感動の共演を。柴咲交響楽団 聖なる夜のコンサートか…
2年間楽団を辞めていなかったらこの大きな写真の所には自分の写真が入っていたんだろうなとか思わない?」
深緑色の制服を着たボブヘアの少女はため息混じりに同じ交響楽団に所属する10歳以上も年の離れた女性に対して冷たく答えた。
「思わないです。」
「やっぱり2年のブランクって大きかった?」
またボブヘアの少女はため息を吐いて答える。
「…大きかったです…」
「やっぱりそうだよね~。あのブランクがなかったらこの大きな写真の所にはきっと…」
とまたポスターを見てロングへアの女性は同じ事を言い出そうとしたのでボブヘアの少女は続きを聞きたくなくて先に歩き始めた。ロングヘアの女性はその様子を見てちょっと待ってと言いながら、ボブヘアの少女の元に駆け寄った。
「そう言えば今日からよね?新しい指揮者。どんな人だろ?」
「さあ?」
「お父様にどんな人なのか聞いてないの?」
「聞いてません。興味ないんで。」
「そう…。コンサートは明日なのに急に指揮者代わるなんてね…まあ、しょうがないか。でも、指揮者が本番までになんとか間に合って良かったわ。」
二人がホール内に入ると楽団員はほぼ全員揃っていて皆それぞれ音出しをしていた。
二人は定められている自分の席に座った。二人の席は隣同士で同じバイオリンを弾いている。
ボブヘアの少女がバイオリンを取り出しているとコンサートマスターの男が楽団員達の前に立ち演奏をやめるように言った。
「みんなご存知の様に今日から新しい指揮者に代わる。彼は私の古い友人で信頼を置いている。
無理を言って急遽柴咲交響楽団の指揮者になってもらう事となった。では紹介しよう。指揮者の芦名充さんです。」
タクトを持った芦名が舞台袖からゆっくりと歩いて来た。
そして、演壇の上に立った。
「みなさん初めまして芦名充です。
前任の指揮者の遠藤さんがご病気で倒れた事をコンサートマスターの姫川君に聞きました。姫川君とは古くからの友人でもあり彼の為ならばと思い今回急遽私が指揮者をやる事になりました。どうぞよろしくお願いします。」
横に立っていた姫川が話し出す。
「彼は遠藤さんとも知り合いでね。柴咲交響楽団の指揮者になる為にわざわざベルギーでの指揮者を辞めてここに来てくれた。皆、指揮者芦名充さんに拍手を。」
楽団員達は一斉に拍手をした。しかし、ボブヘアの少女だけは拍手をせずに靴と靴下を脱ぎ出した。
「帰国するのに遅れてしまって申し訳ない。明日から3日間コンサートという事なので早速練習へと移りたいと思う。」
芦名がそういうと姫川は自分の席へと向かった。姫川が席に座るのを見届けて芦名がタクトをトントンと叩いた。
「では始めましょう。」
演奏を始めて5分ほどで芦名はタクトを振り演奏を止めるように指示した。そして、タクトをボブヘアの少女に向けた。
「キミ、どうして裸足なんだ?どうして靴を脱いでイスの下に置いている?」
楽団員全員の視線が少女に注がれた。
「履物を履いていると集中できないんです。」
「そうか。わかった。では、今すぐ靴と靴下を履きなさい。」
(何がわかったんだ?何もわかってないじゃない。)
先ほどのロングヘアの女性が腕を引っ張り小声で落ち着くように言った。
ボブヘアの少女は指揮者を睨みつけながら言った。
「集中できないので嫌です。前の指揮者はこのスタイルでの演奏を許してくれました。」
「私は遠藤さんとは違う。規律を第一に考えている。全員が美しく統一された世界を目指している。それは服装も含まれる。一人だけ裸足になって少しでも目立ちたいのかな?それともまだ若い女の子が水虫か?」
クスクスと笑い声が聞こえる。冷めた口調で少女は言った。
「水虫でも目立ちたいわけでもない。私は集中して演奏をしたいだけ。」
「なんのこだわりだか知らんがキミの足が私は気になって集中できない。靴を履けないと言うのなら今すぐここから出て行きなさい。」
少女は芦名が言う通り靴下と靴を履いた。その様子を見届けてから芦名は演奏を始めようとした。しかし、少女はバイオリンを無造作に片付けて急に立ち上がった。
横に座っていたロングヘアの女性が止めようとするのを振り払いその場から少女は立ち去って行く。コンサートマスターが少女を睨みつける。少女もコンサートマスターの男を睨み返しながら去って行った。
(私は好きでバイオリンをしているわけじゃない。こんな気持ちのままで楽団に戻ったのは間違いだった。今すぐにでもこんな堅苦しい場所から逃げ去りたい…だけど……)
2014年5月16日(金) 自宅にて
黒縁メガネを掛けた黒髪の男は茶色の制服を着て眠たそうに朝食のパンを食べていた。
「おはよう。」
そう言って兄がリビングにやって来た。それと同時に黒縁メガネを掛けた高校生は、
「ごちそうさま。」
と言って今使っていたお皿とコップを手に持った。兄はテレビのリモコンを手に持ち電源を入れた。テレビ画面からはどこかの高速道路が映し出されていた。
「…臨時ニュースです。今朝未明修学旅行中の高校生を乗せたバスが高速道路の緩やかなカーブを曲がりきれず防音壁に衝突した模様。死傷者が多数いるとの事です。尚、運転手の居眠り運転が事故の原因と思われます。」
黒縁メガネの高校生はそのテレビから流れて来る声を聞いた途端、手に持っていたお皿とコップを落とした。お皿が割れる音がリビングに響いた。母親が心配して、
「どうしたの?」
と聞いてきたが黒縁メガネの高校生は体を震わせてその場に立ち尽くし何も答えなかった。
「ちょっと!テレビを消して。こういうニュースがあるから、この子がいる時はいつもテレビを消してるの知ってるでしょっ!」
「あ、ああ。ゴメン。つい。」
黒縁メガネの高校生はしばらくの間うまく呼吸が出来なくなって「はあ。はあ。はあ。はあ。」と呼吸困難を起こしていた。もしこの場に父がいたなら「医者の息子がこの程度で呼吸困難を起こすなど情けない。」と言っていただろう。
父は地元でも有名な病院の医院長だ。祖父が元々小さな町医者をやっていたが、その病院を父がどんどん大きくした。今では全国でも名を轟かす総合病院とまでになった。祖父が経営していた頃の病院とは比べ物にならないくらい病院は大きくなったらしい。父は医者としても経営者としても優秀だったのだろう。祖父は今でも現役の医者だが、父が30代後半になった頃に医院長の座を父に譲った。祖父は今、会長となっているが病院の経営等はずっと父に任せている。
そして、今は兄が研修医としてその病院で働いている。子供の頃から自分も医者になるのだと夢みていた。しかし…2年前の中学3年の修学旅行で事故は起きた。
天気の良い朝だった。バスの中は楽しそうな話し声や笑い声で溢れていた。
突然体が揺れ始めた。そう思った瞬間、体は宙を舞い自分の力では何も出来ず、誰も救えなかった。
今何が起きているのかがわからなかった。
何分気を失っていたのか自分でもわからなかったが気が付いた時にはバスは横転した後で窓ガラスは割れガラスの破片がそこら中に散らばっていた。座席が天井に天井が地面になっていた。そして、すぐ近くに同じクラスの幼なじみの男の子が血まみれで倒れているのがぼんやりと見えた。
「おい。貴史。貴史ってば。」
修学旅行中の中学生を乗せたバスが高速道路の防音壁に衝突。死者3名、負傷者32名。運転手の居眠りが事故の原因。2年前の情景が頭に浮かび黒縁メガネの高校生はそのまま頭を抱えて塞ぎ込んでしまった。
「ああ。ああ。ああ…。うわぁぁぁぁ~。」
2014年12月23日(火) 病室にて
4人の高校生が病院に訪れた。一人は赤髪、一人は金髪、一人は丸メガネを掛け、一人はボブヘアの少女だ。彼ら4人の顔つきは非常に固く、空気も重い。コンコンとノックをしてボブヘアの少女を先頭に病室に入ったその瞬間悲鳴の様な大きな声が聞こえて来た。
「違う違う違う違う!違うっ!!こんなの私の手じゃないっ!返してよ!私の手返してよ!返せ!返せ返せ返せ!動かない私の手を!動かない足を!返せー!!」
ベッドに横になっている少女の母親が娘を落ち着かせようとするが少女は興奮している。
「どうして?どうしてどうしてどうして?どうして動かないの?手も足もちゃんと動かない。
動かない動かない動かない!どうして?どうして?どうして?動けよ!私の腕!足!動けぇー!!」
4人の高校生は病室を少し入った所から動けなくなった。少女は、お願い…返してよ…私の手を…足を…と弱々しく言ったかと思うとまた急に叫び始めた。
「返せ!返せ返せ返せ!私の手を!足を!」
4人の高校生は少女の近くに寄る事も出来ず、ただ混乱し少女の様子を見続ける事しか出来なかった。
「3日前に戻してよ…そうしたら私…ライブになんか行かないから…お願い神様…時間を少しだけ戻して…たった3日だけでいいの…」
少女は小さな声でそう言った。ボブヘアの少女は涙が止まらなくなった。
4人の高校生が病室に来た事に気付いた母親が娘に友達が来てくれた事を伝えた。しかし、母親は4人の高校生がそれぞれ違う制服を着ている姿を見て驚いた。
「あなたたち…まさか…」
病室に入って初めて少女と4人の高校生達は目が合った。その瞬間少女はさっきよりも大声で言った。
「お前らのせいだっ!お前らのせいでこんな体になったんだっ!この体戻してよ。ねぇ?戻せ!戻せ!戻せ!私の体…返せ!返せ!返せー!!」
少女は怒りの目を4人に向けている。
落ち着きなさいと少女の母親が止めても少女は、返せ返せと何度も言っていた。
「あなた達ちょっと病室を出てもらっていい?」
少女の母親が言う通り4人は病室を出ようとしたが少女の叫ぶ声は止まなかった。
「お前らの顔なんて二度と見たくないっ!さっさと出て行けっ!」
ボブヘアの少女はその叫び声を聞いて声を出して泣き始めてしまった。
急いで階段をパタパタと降りて来る音を聞いて母親がリビングから玄関に出てくる。
「出掛けるの?すぐに帰って来る?」
「うん。桜の写真撮りに行くだけだから。」
少女は去年の誕生日プレゼントに両親から貰ったカメラを首からぶら下げスリッパを脱ぎ靴に履き替えた。
「体調は大丈夫なの?」
「最近は調子いいから。それに良いお天気だし。」
母は子供の頃から体が弱かった少女の体調を過剰な程心配する。
それは子供の頃から高校生になった今でも変わらない。
「駅の方まで行くの?私も付いて行こうかな~。」
「一人で大丈夫だから。」
「行きは下り坂だけど帰りは上り坂よ。無理をしたら絶対にダメ。わかってる?」
「わかってるよ。いつも帰りは自転車押してるから。」
「本当に大丈夫?」
「だいじょ~ぶ。」
「もしもの時はすぐに家に連絡するのよ。」
「わかってるって。」
少女が外に出ると一緒に母も外に出て来た。少女が出掛ける時はいつもこうだ。母は玄関先まで出て来て見送ってくれる。少女は自転車にまたがり、リュックサックの位置を正した。
「行って来ます。」
「はい。気をつけてね。」
「はーい。」
少女は自転車をこぎ出した。
自転車は坂を下って行く。
柔らかな風が少女の頬にあたる。
(とってもいい気分だ。)
2014年3月30日 ライブハウス〈エンジェル〉にて
ステージ上から金髪の男が叫ぶ。
それを客席から叫び返す者達がいる。
一見ライブを見に来た客とバンドが一体となっているようにも見えるがそうではない。
客席からは10人程のガラの悪い連中がヤジを飛ばし、それに対して3人のバンドメンバーが応戦しているのだ。
一人のガラの悪い男がニタニタと薄笑みを浮かべせて叫ぶ。
「ちゃんと演奏しろ!このヘタクソバンド!」
その男はステージ上にいるバンドめがけて空きビンを投げつけた。空きビンは金髪に染めたドラムの男の足下で割れた。金髪の男が手に持っていたスティックを力一杯握りしめる。
ベースの男が2人に我慢するように言う。しかし、ボーカルの男と金髪に染めたドラムの男は今にも暴れ出しそうだ。その様子を見てベースの男も覚悟を決めた。
金髪の男が今ヤジを飛ばした男めがけてスティックを思いっきり投げつけた。それが合図だったかのようにステージ上にいる男達はガラの悪い連中に一斉に襲いかかる。
ガラの悪い連中は10人と数は多いがバンドメンバー3人は怯まない。一人また一人と相手を倒していく。関係のない客は店から飛び出し、ライブハウスの店員は喧嘩を止めに入る。怒号が鳴り響きグラスの割れる音がする。
金髪の男はさっき薄笑みを浮かべながら叫んだ男と殴り合う。
金髪の男はそれなりの背丈があるが相手の男はそれ以上に背が高くガタイが良い。それでも金髪の男は決して負けてはいなかったのだが、すでに倒れていたガラの悪い連中の一人に足を掴まれてしまった。その瞬間をガタイの良い男は見逃さなかった。金髪の男の胸を思いっきり蹴り飛ばした。金髪の男はうつ伏せに倒れ込みその上にガタイの良い男は馬乗りになった。『しまった』と思った瞬間にはもう金髪の男の右腕はその男に掴まれていた。相手の顔が見える。またニタニタと気持ちの悪い薄笑みを浮かべていた。
「何がそんなにおもしれぇんだよ。」
金髪の男が静かにそう言った。ガタイの良い男は金髪の男の右腕に少しずつ力を入れながら言う。
「探したんだぜ。俺達の夢を潰したお前らに復讐してやろうと思ってな。特に金髪。お前には世話になった。」
「はあ?てめぇ何言ってやがる!」
金髪の男がそう言った瞬間さっきまでニタニタと薄笑みを浮かべていた男の表情が怒りの表情に変わった。そして、掴んでいた金髪の男の右腕にさっきよりも力を入れていく。少しずつゆっくりと。
「折るならさっさと折れクソが!」
ボキッという鈍い音がした。
金髪の男は折れた右腕の激痛で床に転げ回る。その姿を見ながらガラの悪い男達は一人また一人とライブハウスから急いで逃げ出して行く。ボーカルの男もベースの男も喧嘩が強く2人で9人を追いやった。最後の一人、金髪の腕を折った男は金髪の男の腹部を蹴り上げてからゆっくりと歩いて店を出て行った。男のその顔にはまた薄気味の悪い笑みがこぼれていた。
(いてぇ…あいつ………誰だったんだ……?)
やがて店内は静まり返りさっきまで飛び交っていた怒号が嘘だったかのような静寂が訪れた。
店に残ったのは3人のバンドメンバーと店員達だけになっていた。
一人の年配の男がゆっくりと3人の前に歩いて来る。この店のオーナーだ。
表情はとても険しい。金髪の男は心でつぶやく。『またやっちまった…』と。
「お前らまたやってくれたな。」
静かな声にとてつもない怒りがこもっているのが金髪の男にはわかった。そして、次に出てくる言葉も想像がつく…きっと静かな声で言うのだろう。『お前ら出入り禁止な。二度と来るな』と。
遠くからサイレンの音が聞こえてくる。救急車の音だ。
(パトカーの音は?……ない。)
どんどんとサイレンは大きくなりすぐ近くで音が消えた。
金髪の男は『おっせーんだよ。』と心の中で毒突く。
救急隊員がやって来た。金髪の男は歩ける事を伝えて救急車に乗り込んだ。
救急車に乗り込む時、オーナーが他のメンバー2人と話す声が金髪の男の耳に届いた。
「1年経ったから3人は変わったはずだと言われたのに残念だよ…1年前と何も変わっていなかった…」
(変わったはずだと言われた?一体誰に?…1年前?この店…この雰囲気…)
(………そうか…ここだったのか…)
2014年5月3日 柴咲市民ホールにて
市民ホールの薄明かりの廊下を二人の女性が歩いている。
一人はボブヘアの女子高生で深緑色の制服を着ていてスカートはとても長い。もう一人は綺麗な黒髪のロングヘアの女性でオーケストラ衣装を着ている。
壁に貼られたA3サイズのポスターを見てオーケストラ衣装を着た女性が立ち止まった。
ポスターにはたくさんの楽団員が演奏をしている写真が使われているのだが、それとは別に一人の女性が大きく写っている。その女性は茶色いブレザーの制服を着ていて、前髪を真っすぐ綺麗に揃えているのだが前髪以外はボサボサのおかっぱ頭で寝癖までがついている。
(どうして前髪をちゃんと揃えているのに寝癖を直していないんだろう…)
この写真を見る度ボブヘアの少女はそう思う。
「今話題の現役女子高生ピアニストと感動の共演を。柴咲交響楽団 聖なる夜のコンサートか…
2年間楽団を辞めていなかったらこの大きな写真の所には自分の写真が入っていたんだろうなとか思わない?」
深緑色の制服を着たボブヘアの少女はため息混じりに同じ交響楽団に所属する10歳以上も年の離れた女性に対して冷たく答えた。
「思わないです。」
「やっぱり2年のブランクって大きかった?」
またボブヘアの少女はため息を吐いて答える。
「…大きかったです…」
「やっぱりそうだよね~。あのブランクがなかったらこの大きな写真の所にはきっと…」
とまたポスターを見てロングへアの女性は同じ事を言い出そうとしたのでボブヘアの少女は続きを聞きたくなくて先に歩き始めた。ロングヘアの女性はその様子を見てちょっと待ってと言いながら、ボブヘアの少女の元に駆け寄った。
「そう言えば今日からよね?新しい指揮者。どんな人だろ?」
「さあ?」
「お父様にどんな人なのか聞いてないの?」
「聞いてません。興味ないんで。」
「そう…。コンサートは明日なのに急に指揮者代わるなんてね…まあ、しょうがないか。でも、指揮者が本番までになんとか間に合って良かったわ。」
二人がホール内に入ると楽団員はほぼ全員揃っていて皆それぞれ音出しをしていた。
二人は定められている自分の席に座った。二人の席は隣同士で同じバイオリンを弾いている。
ボブヘアの少女がバイオリンを取り出しているとコンサートマスターの男が楽団員達の前に立ち演奏をやめるように言った。
「みんなご存知の様に今日から新しい指揮者に代わる。彼は私の古い友人で信頼を置いている。
無理を言って急遽柴咲交響楽団の指揮者になってもらう事となった。では紹介しよう。指揮者の芦名充さんです。」
タクトを持った芦名が舞台袖からゆっくりと歩いて来た。
そして、演壇の上に立った。
「みなさん初めまして芦名充です。
前任の指揮者の遠藤さんがご病気で倒れた事をコンサートマスターの姫川君に聞きました。姫川君とは古くからの友人でもあり彼の為ならばと思い今回急遽私が指揮者をやる事になりました。どうぞよろしくお願いします。」
横に立っていた姫川が話し出す。
「彼は遠藤さんとも知り合いでね。柴咲交響楽団の指揮者になる為にわざわざベルギーでの指揮者を辞めてここに来てくれた。皆、指揮者芦名充さんに拍手を。」
楽団員達は一斉に拍手をした。しかし、ボブヘアの少女だけは拍手をせずに靴と靴下を脱ぎ出した。
「帰国するのに遅れてしまって申し訳ない。明日から3日間コンサートという事なので早速練習へと移りたいと思う。」
芦名がそういうと姫川は自分の席へと向かった。姫川が席に座るのを見届けて芦名がタクトをトントンと叩いた。
「では始めましょう。」
演奏を始めて5分ほどで芦名はタクトを振り演奏を止めるように指示した。そして、タクトをボブヘアの少女に向けた。
「キミ、どうして裸足なんだ?どうして靴を脱いでイスの下に置いている?」
楽団員全員の視線が少女に注がれた。
「履物を履いていると集中できないんです。」
「そうか。わかった。では、今すぐ靴と靴下を履きなさい。」
(何がわかったんだ?何もわかってないじゃない。)
先ほどのロングヘアの女性が腕を引っ張り小声で落ち着くように言った。
ボブヘアの少女は指揮者を睨みつけながら言った。
「集中できないので嫌です。前の指揮者はこのスタイルでの演奏を許してくれました。」
「私は遠藤さんとは違う。規律を第一に考えている。全員が美しく統一された世界を目指している。それは服装も含まれる。一人だけ裸足になって少しでも目立ちたいのかな?それともまだ若い女の子が水虫か?」
クスクスと笑い声が聞こえる。冷めた口調で少女は言った。
「水虫でも目立ちたいわけでもない。私は集中して演奏をしたいだけ。」
「なんのこだわりだか知らんがキミの足が私は気になって集中できない。靴を履けないと言うのなら今すぐここから出て行きなさい。」
少女は芦名が言う通り靴下と靴を履いた。その様子を見届けてから芦名は演奏を始めようとした。しかし、少女はバイオリンを無造作に片付けて急に立ち上がった。
横に座っていたロングヘアの女性が止めようとするのを振り払いその場から少女は立ち去って行く。コンサートマスターが少女を睨みつける。少女もコンサートマスターの男を睨み返しながら去って行った。
(私は好きでバイオリンをしているわけじゃない。こんな気持ちのままで楽団に戻ったのは間違いだった。今すぐにでもこんな堅苦しい場所から逃げ去りたい…だけど……)
2014年5月16日(金) 自宅にて
黒縁メガネを掛けた黒髪の男は茶色の制服を着て眠たそうに朝食のパンを食べていた。
「おはよう。」
そう言って兄がリビングにやって来た。それと同時に黒縁メガネを掛けた高校生は、
「ごちそうさま。」
と言って今使っていたお皿とコップを手に持った。兄はテレビのリモコンを手に持ち電源を入れた。テレビ画面からはどこかの高速道路が映し出されていた。
「…臨時ニュースです。今朝未明修学旅行中の高校生を乗せたバスが高速道路の緩やかなカーブを曲がりきれず防音壁に衝突した模様。死傷者が多数いるとの事です。尚、運転手の居眠り運転が事故の原因と思われます。」
黒縁メガネの高校生はそのテレビから流れて来る声を聞いた途端、手に持っていたお皿とコップを落とした。お皿が割れる音がリビングに響いた。母親が心配して、
「どうしたの?」
と聞いてきたが黒縁メガネの高校生は体を震わせてその場に立ち尽くし何も答えなかった。
「ちょっと!テレビを消して。こういうニュースがあるから、この子がいる時はいつもテレビを消してるの知ってるでしょっ!」
「あ、ああ。ゴメン。つい。」
黒縁メガネの高校生はしばらくの間うまく呼吸が出来なくなって「はあ。はあ。はあ。はあ。」と呼吸困難を起こしていた。もしこの場に父がいたなら「医者の息子がこの程度で呼吸困難を起こすなど情けない。」と言っていただろう。
父は地元でも有名な病院の医院長だ。祖父が元々小さな町医者をやっていたが、その病院を父がどんどん大きくした。今では全国でも名を轟かす総合病院とまでになった。祖父が経営していた頃の病院とは比べ物にならないくらい病院は大きくなったらしい。父は医者としても経営者としても優秀だったのだろう。祖父は今でも現役の医者だが、父が30代後半になった頃に医院長の座を父に譲った。祖父は今、会長となっているが病院の経営等はずっと父に任せている。
そして、今は兄が研修医としてその病院で働いている。子供の頃から自分も医者になるのだと夢みていた。しかし…2年前の中学3年の修学旅行で事故は起きた。
天気の良い朝だった。バスの中は楽しそうな話し声や笑い声で溢れていた。
突然体が揺れ始めた。そう思った瞬間、体は宙を舞い自分の力では何も出来ず、誰も救えなかった。
今何が起きているのかがわからなかった。
何分気を失っていたのか自分でもわからなかったが気が付いた時にはバスは横転した後で窓ガラスは割れガラスの破片がそこら中に散らばっていた。座席が天井に天井が地面になっていた。そして、すぐ近くに同じクラスの幼なじみの男の子が血まみれで倒れているのがぼんやりと見えた。
「おい。貴史。貴史ってば。」
修学旅行中の中学生を乗せたバスが高速道路の防音壁に衝突。死者3名、負傷者32名。運転手の居眠りが事故の原因。2年前の情景が頭に浮かび黒縁メガネの高校生はそのまま頭を抱えて塞ぎ込んでしまった。
「ああ。ああ。ああ…。うわぁぁぁぁ~。」
2014年12月23日(火) 病室にて
4人の高校生が病院に訪れた。一人は赤髪、一人は金髪、一人は丸メガネを掛け、一人はボブヘアの少女だ。彼ら4人の顔つきは非常に固く、空気も重い。コンコンとノックをしてボブヘアの少女を先頭に病室に入ったその瞬間悲鳴の様な大きな声が聞こえて来た。
「違う違う違う違う!違うっ!!こんなの私の手じゃないっ!返してよ!私の手返してよ!返せ!返せ返せ返せ!動かない私の手を!動かない足を!返せー!!」
ベッドに横になっている少女の母親が娘を落ち着かせようとするが少女は興奮している。
「どうして?どうしてどうしてどうして?どうして動かないの?手も足もちゃんと動かない。
動かない動かない動かない!どうして?どうして?どうして?動けよ!私の腕!足!動けぇー!!」
4人の高校生は病室を少し入った所から動けなくなった。少女は、お願い…返してよ…私の手を…足を…と弱々しく言ったかと思うとまた急に叫び始めた。
「返せ!返せ返せ返せ!私の手を!足を!」
4人の高校生は少女の近くに寄る事も出来ず、ただ混乱し少女の様子を見続ける事しか出来なかった。
「3日前に戻してよ…そうしたら私…ライブになんか行かないから…お願い神様…時間を少しだけ戻して…たった3日だけでいいの…」
少女は小さな声でそう言った。ボブヘアの少女は涙が止まらなくなった。
4人の高校生が病室に来た事に気付いた母親が娘に友達が来てくれた事を伝えた。しかし、母親は4人の高校生がそれぞれ違う制服を着ている姿を見て驚いた。
「あなたたち…まさか…」
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少女は怒りの目を4人に向けている。
落ち着きなさいと少女の母親が止めても少女は、返せ返せと何度も言っていた。
「あなた達ちょっと病室を出てもらっていい?」
少女の母親が言う通り4人は病室を出ようとしたが少女の叫ぶ声は止まなかった。
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