それは金色の光に似て

水元 さわ

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えんちゃんの指は綺麗だ。
お日様なんて浴びてないみたいに白くて長い。指先には桜貝色の爪がちょこんと乗っている。
その指が小さな針を持って右から左へリズミカルに動いていく。チクチクチクチク。そんな音でも聞こえてきそう。
放課後の被服室は高音のざわめきに満たされているのに、えんちゃんの周りだけが一定のリズムに支配されている。
ピンと伸びた背中。低い位置できちんと結わえられた髪。凛とした雰囲気は一見排他的だけれど真面目なだけだとあたしは知っている。
横からじっと眺めていたら気づいたえんちゃんが顔を上げた。
「日菜、手止まってる」
長めの前髪の下から切れ長の瞳がこちらを見る。細いのに強い印象を残すのは睫毛が多いから。日々ツケマと格闘する身としてはただただ羨ましい。羨望を隠さず見つめ返すと呆れたように細められた。
「文化祭に間に合わなくても知らないよ?」
話しながらもえんちゃんの指は止まらない。光沢のある生地に小さなコットンパールが縫い付けられていく。予定の位置に寸分の狂いもない。
もう少し眺めていたいけど、次にやったら怒られそうだ。はーいと頷いてあたしも生地に向かう。えんちゃんはもう装飾に入っているけれど、あたしはまだ生地を縫い合わせている段階なのだ。
作業台に生地を広げる。えんちゃんと同じ白くて光沢のある生地だ。蛍光灯に照らされてピカピカ光ってる。
正絹…だったら嬉しいのだけれど、お値段的に高校生には手が出ない。絹は大人になるまでとっておきなさいと先生が指定したのはシャンブレーサテン。
裏に返されマチ針で止められている。縦横に走る線は所々ミシンがかけられていて、広げれば形が分かった。
それは乙女なら一度は見る夢。繊細なレース、ふんだんに使われたフリル、そしてたっぷり布を使った純白のドレス。

あたし達はもうすぐ花嫁さんになるのだ。

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